4.大臣side
御年二十三歳になる若き皇帝陛下は、眉目秀麗、品行方正、文武両道と三拍子揃った完璧な人物だ。
人柄も穏やかで言うことがない。
彼の治世はこの上もなく素晴らしい物になると誰もが思った。そう思っていた。なのに……。
まさか女性の好みが悪いとは思いもしなかった。
いや、アレは例外だろう。あの美しさは男なら誰でも血迷う。
それに相手がエウニア王国の王女だったこともある。
彼の国の王女。
なら問題はない——と。
楽観していたと言われればそれまでだ。
実際、エウニア王国の王女だからこそ認められたようなものだ。
エウニア王国は大陸一の歴史をもつ伝統ある国。
その高貴な血を求める国は多い。
幸い、陛下の母君である大公妃殿下とエウニア王国の王妃殿下は実の姉妹。
それも結婚後も手紙のやり取りを頻繁にするほどの仲の良い姉妹ときている。
そのためエウニア王国の王女を迎え入れる話はすんなり進んだ。反対する者はおらず、むしろ諸手を挙げて歓迎されたくらいだ。
……そう、カロリーネ第一王女殿下を迎えることに。
当時、皇帝陛下の結婚相手にと望まれていたのはカロリーネ王女殿下の方だったのだ。
『大臣、エウニア王国の王女を娶りたい国は多い。だが、私は無理に彼の国の王女を娶る必要はないと思っている。王女を娶ることで外交上の優位が揺らぐのならば、今回の話はなかったことにしても構わない。母上は残念がるかもしれないが……。全ては帝国のためだ。私は国のためになる女性と婚姻する覚悟はできている』
その言葉を聞いた時の衝撃は、今でも忘れない。
私だけでなく、その場に居合わせた重臣全員が言葉を失ったほどだ。それほどまでに陛下のお考えは素晴らしかった。
宰相閣下などは感極まって泣いておられたし、私自身もこの方は名君に相応しいと思ったほどだった。
『陛下のお志はご立派でございます。なれど陛下の意志を無視する婚姻は、臣下一同は望んでおりません』
『しかし、それでは国がまとまらないではないか!』
『だからこそです! 皆、陛下の御心のままに従いますゆえ、どうか慎重にお考えくださいませ』
『大臣……』
そんな過程があり、陛下の意志を尊重する形で話が進んでいった。
国を想う陛下の意志はありがたいものだ。
皇族として政略結婚は免れない。それでも、その政略を正しく理解していない者は数多い。それは貴族でも同じだ。義務で婚姻を果たし、跡取りを儲けた後は双方が愛人を作り、仮面夫婦でいることは珍しくない。
だが、陛下ならば、エウニア王国のカロリーネ王女殿下と結婚しても彼女を尊重し、大切に扱うだろうと確信していた。それは陛下の態度や言葉からもうかがい知れた。噂に聞く、カロリーネ王女殿下は、美しく聡明だと評判だ。
きっと陛下とは似合いの夫婦となられる。
そうして迎えた顔合わせで事件は起きた。
初めて見る王女の姿に見惚れた陛下が一目惚れしてしまったのだ。
王女のあまりの美貌に我を忘れてしまったらしい。
ああ、これが見合い相手のカロリーネ殿下なら問題なかった。
だが、陛下が一目惚れした相手は彼女の妹。
第二王女のユリア殿下の方だった。
御年15歳の可憐な美少女。
勿論、カロリーネ殿下も美しい。
姉妹は大変美しい王女だった。
姉君のカロリーネ王女は銀髪に青い目の知的な美貌、妹君のユリア王女は桃色の髪に青い目の愛らしい美貌。
二人は違った美しさを持っていた。
ただ、陛下の顔の好みがユリア王女だというだけの話だった。
陛下のお妃候補筆頭と目されていたのはカロリーネ王女殿下。
されど、陛下が見初めたのはユリア王女殿下。
突然の花嫁の交代劇。
当然、陛下の意志が尊重された。
我が国としてはエウニア王国の王女ならどちらでも構わなかったからだ。
その結果がこれだ。
まさかこんなことになろうとは!
王太后とエウニア王妃の二人は最後まで結婚に反対の意を表明していた。
当時は誰も理解していなかった。
同じ王女だ。
問題ない、と安易に考えていたからだ。
今思うと、お二人はユリア王女に皇后は無理だと理解していたのだろう。
彼の王女の気質では無理だと悟っていたからだ。
あぁ……。
陛下には悪いが、正直言って不安だ。
あの王女を我が国の皇后陛下に据えるなど悪夢以外のなにものでもない!
言葉にはできない。
結局、陛下はユリア王女を選ばれ、結婚した。
若く凛々しい皇帝陛下と初々しい花嫁に国中が熱狂した。
それが二人の絶頂期であった。
少なくとも、ユリア王女にとっての皇室入りは過酷なものになる。
その予感は当たった。




