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第十二話 白光の声


 白い光。


 ランプではなく、日光でもない。

 真っ白な光が、揺るぎなく空間を満たしている。

 眩んでいた目が少しずつ慣れ、自分がこれまた真っ白な部屋に寝かされている事が分かった。

 白い天井には(はり)は愚か継ぎ目すら見当たらない。

 腰の高さほどの台に横たわる全登(てるずみ)の左右には、(しのび)のような黒装束に身を包んだ人間が二人侍っている。


 「……どうやら俺は……()()命を拾ったようだな」

 自嘲するように呟き体を起こそうとし、バランスを崩した身体がぐらりと傾いだ。

「――そうだったな」

 肩先から先を失った左腕に目をやり、息をつく。

 傷口には包帯のようなものが巻かれ、完璧に止血されている。おまけに一切の痛みを感じないため、腕を失った事を失念していた。

「お前たちは何者だ? 何故俺を救った?」

 右腕で身体を支えて身を起こし、無言のまま縦長の瞳孔をこちらに向ける二人の人物を見回しながら問う。

 均整の取れた小柄な身体に毛色の同じ三角の耳。しなやかな尻尾。恐らく猫族だろう。

 同一人物かと見紛う程に似た二人はしかし、体つきからして男女の双子か。

「すぐ、分かる」

 少年の声。

 双子の片割れがそれだけ言い再び沈黙する。


 殺すつもり、あるいは害するつもりであれば怪我の手当てなどしないだろう。

 ならば何か目的があり、死地にあった全登を救出し接触してきた。

 そしてその決定、実行は組織的に行われたはずだ。

 この二人の出立ちを見るに、恐らくは末端の実動部隊だろう。

 

 ならば待つとしよう。

 彼らを遣わした、()()()を。


 全登は悠然と右手を頭の下に敷き、再びごろりとその身を台に横たえた。

 金属のような、あるいは陶器のような質感で、硬いが不思議と身体がピタリと馴染む感触があった。

 なるほど、なかなか悪くない寝心地だ。

 目を閉じたところで白い空間に声が響いた。


 『ちょっと! 寝るのは待ってください。あなたに重要な話があってお連れしたのですから』

 男とも、女とも判別できない声だった。

 片目を開く。

 その声はすぐ耳元で聞こえた気がしたが、姿は見えず気配も無い。

「ふん。そこの二人が何も言わんのだから、俺は眠るくらいしか出来る事も無いだろう。用があるなら、まずは姿くらい見せてみろ」

 横たわったまま室内に視線を走らせるが、やはり二人の猫族の他に人の姿は無い。

『それは出来ません。私は肉体を持ちませんので』

「面妖な。(あやかし)の類いだとでも言うのか」

 この世界(ネビュラ)に来てからというもの、奇妙な姿をした者は多く見てきた。

 しかしそれは、言わば人種の違いのようなもので、どんな姿かたちをしていても生き物としての有りようは人間そのものだった。それこそ、奇妙なことにオービスに生きる全登たちとも違いが無い程に。

 故にこのネビュラは幽世(かくりよ)などではなく、己がいたところとはまた別の(うつつ)であると理解し、生きてきたのだ。

 ならば、肉体を持たないなどと(のたま)うこの声の主は何者だと言うのか。

『そうではありません。私の名はミラビリス。人の手によって造られた、思考する機械です』

 

 それは全登の理解が及ばぬ概念だった。

 人のように思考し、人のように話す、人ならざるもの。

 そしてそれは人の手によって造られたと言う。


 黙りこくる全登に、ミラビリスと名乗った声は続ける。その言葉は、全登に更に大きな衝撃を与えた。

 

 『この言葉の方がより伝わりやすいかもしれませんね。明石全登』

 

 それは紛れもなく慣れ親しんだ、数年ぶりに耳にする日の本の言葉だった。

「……なぜ、俺の国の言葉を?」

 久方ぶりに口にした母国語は、どこかたどたどしさを孕んでいた。

()()星間移民船管理AIには、地球に存在した二千を超える言語がプリインストールされています。そしてこれは、私がこれからあなたにお話しする内容が事実であるという一つの証左となるでしょう』

 ミラビリスの言葉の意味が全登には半分も理解出来ていない。

 しかし。

 

 上半身を起こし、白い台の上に胡座をかく。

「いいだろう。聞いてやる。ただし、理解できるように話せ」

 全登はそう言い、口角を上げて不敵に笑った。


 ミラビリスが何者で、全登に何を求めているのかはまだ分からない。

 だが、間違いない。

 こいつはオービスに繋がる手掛かりだ。

 まだ天に見放されてはいなかった。

 何がなんでも掴み、手繰り寄せ――ヒスイを取り戻す。


 そしてきっと、ミラビリスも全登の目的を知った上で接触してきたのだろう。

 ならば利用されてやろう。

 そして、利用し尽くしてやる。

 

 思わず力のこもった右手を解き、白い天井を見上げてどこからともなく響く声に集中する。


 これが四百年に渡る永き戦いの始まりである事を、全登は知る由もなかった。


 

 

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