Ⅰ章 求婚されても困ります!27
「フゥ〜」
ビックリした〜
(大勢の人がいるんだもんな)
どこから聞きつけたのか。城へつづく大路には人が溢れ返っていた。
さながら凱旋パレードだ。
或いはこうなる事を見越して。
(馬車がオープンカー仕様だった)
とか?
あり得る。
王都の官僚、結構抜け目ないからな。
でも。
歓声を上げて喜ぶ人
笑う人
手を振る人
(皆、嬉しそうだった)
だから会えて良かったと思う。たくさんの人達に。
パレードなんて慣れなくて、恥ずかしがったりもしたけれど、でも。
(街の人達の笑顔が俺も嬉しかった)
「それでは勇者様、お手荷物を」
「あ、はい」
そして俺は今、王城の中にいる。
「剣は先程の兵士の方にお預けしました」
「左様でございましたか。では、こちらへ。お疲れの事とは存じますが、王様がお待ちかねです。謁見の準備が整うまで、控えの間でお待ち下さいませ」
「分かりました」
俺の旅はここから始まった。
足を踏み入れるのは二年ぶりだ。勇者として旅に出るまでの間、俺は城に住まわして貰っていた。剣術や体術の基本を会得するため、騎士団に仮入隊してたんだ。
城内はあの頃と変わっていないのに、何だか少しドキドキする。
(そういえばこの人は、ニ年前はいなかったな)
案内してくれる初老の侍従の人は初顔だ。
「ささ、こちらへ。左へ曲がりましたお部屋が控えの間でござ……」
ヒュン
鼓膜が揺れた。
次の瞬間。
ドサッ
初老の侍従が崩れ落ちる。悲鳴もなく。
背中の左側。
心臓の位置に短剣が突き刺さっている。