25
結局、俺は眠りの魔法をかけられて、執事さんにアルファング王都まで連れ帰られたのだった。
眠ったままにされたのは、魂なる物が体から飛び出さないための配慮らしい。
アルファングまでの執事さんと二人きりの空路。無事である保障は皆無。俺の心臓は恐らくあとニ、三度、超新星爆発を起こしていただろう。
そう考えると、執事さんの判断は適切だったと言わざるを得ない。
しかし……
(そうなる原因を作ってるのは、いつも執事さんなんだけど〜)
腑に落ちない。
「はあぁ〜」
「主様、大丈夫でございますか?大きなため息をおつきになられたようでしたが?」
「え、そんな事ないよ」
「お優しゅうございますね」
ため息をついたのは、とっくにバレている。ため息を誤魔化した事も。
「慣れぬ移動でお疲れになられたのでしょう。ヒイロ様、こちらへ」
「わっ」
ベンチにぴょこんと座らされた。
「お隣、失礼致します」
そうして執事さんもベンチに腰掛ける。
「実は馬車を待たせている場所から、少し離れた所へ降りました」
「空から突然、降りて来たら目立ちますもんね」
「それもありますが、もう少しヒイロ様と一緒にいたかったものですから」
「なんで?執事さんも城に来てくれるんじゃ」
ゆっくりと彼は首を振った。
「私は執事です。主様の馬車に同乗できません」
「俺が許します」
執事さんは頷いてくれない。
どうして?
執事は主の命令を聞くものだろう。もっと強く言えばいいのか?
……うぅん。俺は、執事さんを従わせたいんじゃない。
「お気持ちだけで十分でございます。今はただ……」
右手が髪に触れて……
「私の小鳥のお疲れを癒やせられましたら……と思っております」
こくん
優しい手が髪を撫でて、ほんの僅か力を込めた。
(この場所……)
執事さんの肩の上だ……
「主様は私と過ごした時間を、どのようにお感じになられましたでしょうか?時はあっという間に過ぎていくもの。楽しい時間ならば尚更です。私はあっという間でした」
執事さん……
きゅっと、手と手が結ばれる。覆い被さった暖かな温もりが、俺の手を繋いでいる。
「手放したくないとさえ思います」
細めた瞳。オレンジ色の夕日が浮かぶ。
「貴方様の自由を奪う事になるのだとしても」
夕日がドロップみたいだった。
切なくて、きゅんとする。