悪夢と計画
黄金の国から悪魔を追いはらったフラハは、自分が緑の妖精だということが分かり、王さまたちに“フラハちゃん、ありがとうパーティー”を開いてもらったおかげで、心の中で燃えさかっていたいかりの炎は空気をうばわれたろうそくみたいに、小さくなって消えていきました。
いかりの炎を消すほどのパーティー。それは、すてきもすてき。超すてきでした。
おかしの妖精が、金めっきのはげたおしろをチョコレートやクッキーのアイシングでコーティングしたり、金の像を砂糖菓子に変身させたりして、子どもたちは大よろこびでしたし、お酒の妖精のスコッチさんが二日酔いのしないお酒を飲み放題にしたので、大人たちもにっこにこのべろんべろんでした。……ひっく!
フラハは自分が大人としてふるまうべきか、子どもとしてふるまうべきか迷ったのですが、「迷うなら両方! これが王さまの特権じゃ!」と王さまが子どもといっしょにお口をクリームまみれにして、大人たちといっしょに酔っ払って肩を組んで歌を歌ったので、フラハもえんりょなくそうしたのでした。
あんまりにもみんなで楽しく好き勝手にしたので、だいたいの大人は一回くらいは「赤ちゃんごっこ」をしましたし、子どもたちはそれをあやして大笑いをしました。おんぎゃあ!
笑えば笑うほど、いかりやかなしみが追い出されていって、楽しくなれば楽しくなるほど、親切になれるというものです。……ひっく!
えー……。もちろん、黄金の国の人たちも、フラハが悪魔を追いはらってパーティーが行われてから、多少は親切になったわけです。
たまに、お城の外へ散歩にでかけると、みんなフラハにあいさつしてくれましたし、フラハ以外にでも、おしゃべりをしたり、観光客に道を教えたりしているすがたが見られるようになったのです。
とはいえ、まだまだ緑の丘と比べたら不親切ですし、お日さまと比べれば温かな対応とはいえない感じです。
でもフラハは、良くなると信じて、王さまの政治をおうえんすることにしました。
みんな、もともとはやさしくて、何か事情がそれをわすれさせてしまっているだけだと考えたのです。
黄色の丘の知り合いたちのことも、信じたかったのですね。
長老ガラガラヘビはまごの子ヘビを甘やかすようにやさしくもなれるわけですし、口うるさいのは相手のためを思ってのことで、いじわるサソリが毒針でだれかをさしたくなるのは、何か心配ごとや腹の立つことがあるから、落ち着かずにやつあたりをしてしまっているだけかもしれません。
王さまだって、みんなに親切になってほしくて国を金ぴかにぬったのですし、首はねはもともとは悪いやつ限定だったといいます。
だから、フラハがひどい目にあわされていたのにも、何か大事な理由があったのだと思うのでした。
それでも、本当のことを話してもらうのはかんたんではないでしょう。
謝って改心してもらうのも、かんたんではないでしょう。
フラハがいなくなっておこっていたり、こまっていたりすればなおさらです。
ひょっとしたら、正直に話してもひどいやつだということが分かるだけかもしれません。
もしも、もしもそうなっても……「ゆるしてあげよう」とフラハは思いました。
そういうやさしさこそが、ココロ先生のようになるために大切だと思ったからです。
「まって!」
ある朝、フラハは飛び起きました。
ここは、お城の王さまがしたくしてくれたフラハのお部屋です。
また、こわい夢を見てしまいました。
「あらら~。今日もだめだったのね~」
眠たくなるような声が聞こえてきます。
フラハのベッドのそばに、ふわふわでもこもこのパジャマを着て、ヒツジみたいな頭をした妖精さんが立っています。
かのじょは、安眠の妖精の“ララ”さんです。
ララさんは大人の女性で、羽も大きくてきれいで、王さまにやとわれるほどりっぱな妖精です。
そんなかのじょの魔法をもってしても、フラハの悪夢は解決していなかったのです。
「ごめんね~。わたしの力は~、外側からやってくる安眠妨害にしか~、効果がないみたいなの~」
「じゃあ、この悪夢は、内側からきてるってこと?」
「そうなるわ~。何か、いやなこととか、心配なこと、悲しかったことはないかしら~?」
フラハは少し考え、「やっぱり、黄色の丘のことかな」とつぶやきます。
「う~ん。わたしは~、女の人とはなればなれになる夢というのが気になるのよね~」
「じゃあ、お母さんのことかしら……」
夢の中に出てくる女の人は、ココロ先生や自分にどこか似た妖精なのです。
もしかしたら、遠い遠い昔に、はなればなれになったお母さんを夢で思い出しているのかもしれません。
「フラハちゃんにお母さんがいるのなら~、あるかもしれないわね~」
「いるのかしら?」
フラハは首をかしげます。やっぱりお母さんもお父さんも記憶にないのです。
「わたし、木やお花のことばが聞こえるし、木を大きくしたり、お花を咲かせる魔法が使えるの。そんな緑の妖精にも、親がいるものなのかしら?」
「う~ん。ご両親のどっちかが似た役目の妖精なら、あるのかしら~? 妖精ってそのへん、よく分からないの。お花の妖精だって、お花から生まれたりもするし~。わたしの場合は、“女の子の夢”から生まれたのよ~」
「夢から!?」
フラハはびっくりして声をあげました。
「変わってるでしょ~。わたしは、いつも居眠りをしている女の子の夢の中で生まれて~、夢から飛び出してきたの~」
「すごい。じゃあ、その女の子が、ララさんのお母さんなの?」
「う~ん。そう感じたことはなかったかしら? だって、わたし、安眠の妖精だし、夢そのものが親だと思うわ」
「ふうん。でも、妖精を生み出してしまうなんて、すごい。どんな女の子だったのかしら?」
「いつも寝てる子だったわ~。遊びながら寝たり、お勉強をしながら寝たり」
「ココロ先生みたい」
居眠りをする先生を思い出して笑ってしまいます。
「ええっ!? ココロさんって言ったの~!?」
今度はララさんがおどろきの声です。
「知ってるの? 緑の丘の“かぜはなの家”のココロ先生。かのじょも妖精で、わたしの、いちばん大切な人よ」
「わたしも、緑の丘で生まれたのよ~。夢を見た女の子と名前がおんなじ人~。ずっと昔のことだし、もしかしたら、そのココロ先生の子どものころの夢から生まれたのかも~」
「すごい。うらやましいなあ!」
「うらやましいってどうして~?」
ララさんがもこもこ頭をかしげます。
「だって、もしかしたらココロ先生があなたのお母さんかもしれないってことなのよ。あんなにやさしくてすてきな人がお母さんだなんて、世界でいちばんすてきなことに決まってるじゃない!」
想像しただけでうっとりします。
フラハは「夢で見る女の人がココロ先生に似ているし、もしかしたら、わたしもココロ先生のかくし子とか、何かのひょうしにポン! と生まれた子かも?」なんて考えて、にやにやしました。
「うふふ、ないでしょ」
ララさんは鼻で笑います。フラハは心をのぞかれたのかと思って頬を熱くしてしまいます。
「ないって、何が?」
「あの人がお母さんならいちばんって話~。わたし、あの人のこと、苦手だもの~。むしろ、いちばん、むり。わたしの親はあくまでも女の子の見た夢であって、その人じゃないわ~」
「ええ!? ココロ先生がきらいなの!?」
信じられません。
っていうか、ララさんの顔が、なんだかこわいです。
「別に、いじわるで言ってるわけじゃないのよ~」
「じゃあ、どうして?」
「どうしてって、あなたも妖精でしょ~? ココロさんみたいに、いつでもどこでも寝られる人にとって、安眠の妖精は用無しじゃないの~。役割が無くって忘れられたら、わたし、小さくなって消えちゃうわ~」
「確かに……」
母親に自分の妖精としての役目を「要らない」と言われるのは、何よりもつらいことでしょう。
そんなことは、親の記憶が無くったって分かります。フラハは腕を組んでうなりました。
まさか、「ココロ先生がきらい」という話をこうていする側に回るなんて、夢にも思いませんでしたから。
「でも、ココロ先生も本当はいそがしいから、おてつだいが必要だったし、朝はだれよりも早く起きるし、夜はだれよりも眠るのがおそいのよ」
「そうなの? あの子も大人になったのね……。だったら、子どものころのように、すてきなお昼寝をたっぷりとさせてあげてもいいかしら」
ララさんはどこか遠くのほうを見て、ふっと笑いました。
「いつか、会いに行ってみて」
「考えておくわね~。でも、やっぱりこわいわ~。いつでもどこでも寝られる人だなんて~」
「こわくないもん!」
「うふふ、安眠の妖精ですから。それは置いて、安眠の妖精的には、あなたの悪夢をどうにかしてあげたいわ~。いくら魔法のとどかないはんいのこととはいえ、プライドがありますから~。フラハちゃんがココロさんのことをそんなに好きなのなら~、かのじょとはなれるのがいやで、そういう夢を見たかのうせいもあるわね~」
「帰ればいいってこと? でも、あの夢は緑の丘にいるころから、黄色の丘にもどろうって決める前から、ほとんど毎日見ていたわ。見なかったのは一回だけかも」
「夢はときどき、未来のことも考えて教えてくれるから、なくもないわ~。ところで、その一回はいつのこと~?」
「最初にお城で眠ったときよ。ペーポといっしょだったとき。ペーポは、わたしが悪夢を見たときに、そばにいてくれるって言ったのよ」
「ペーポって、あの悪魔でしょ? 悪魔の言ったことなんて信じちゃだめ。さかさにする魔法を使えるみたいだし、そのときはわたしの魔法が上手く効いたのかもしれないわね」
「なるほど……。悪魔の魔法も役に立つことがあるのね」
「ぐうぜんでしょ~。とにかく、緑と黄色の丘、どっちにももどるべきだし~、ためせそうなことは全部ためしたらいいと思うわ~。フラハちゃんの安眠を守るために~!」
「やる気まんまんね」
「だって、ココロさんがお世話をした妖精の子が、悪魔を追いはらって国をすくったのよ~? わたしだって、負けないように、おっきなことがしたいわ~」
フラハは、クローディアとおてつだいの競争をしたときのことを思い出して、ちょっとおかしくなりました。
「おっきなことって、たとえば?」
「この国の人を百年くらい眠らせてしまおうかしら~?」
「それはめいわくよ!」
「うふふ、じょうだんよ~。もし眠らせたら、安眠をじゃまされないように国中をいばらでつつんでおてつだいをしてね、緑の妖精さん」
ララさんはそう言うと、大きなあくびをしました。
「あなたが来てから、この国の人も、よく眠れるようになったみたい。悪魔が何か悪さをしていたのね~。おかげで、わたしも夜にこの国を飛び回らなくてもよくなったわ~」
「あれ? 役目が減ってるわ! それは、安眠の妖精的にやばい? わたし、あなたのじゃまをしちゃった?」
「ううん、平気。役目がいそがしいと、夜に寝る時間が減ってこまるのよ~。わたしが安眠じゃなくなっちゃう。夜に用事が無くなったぶん、わたしは自分のためにお昼寝をするわ~」
そういうと、ララさんはおもむろにベッドに上がり、フラハの横に転がりました。
「打倒! ココロさんの睡眠量~!」
ララさんのヒツジみたいな頭が、まくらヒツジのうえに乗っかりました。
「あの、ここ、わたしのベッドなんだけど……」
「ぐう……」
安眠の妖精はもう夢の中です。
フラハは「やれやれだわ」と言って、シーツをかけてあげると、自分はベッドからおりました。
悪夢の原因がなんであろうが、フラハにはやらなくてはいけないことがあります。
この国に親切や幸せが増えてきたのなら、そろそろ、自分の仕事に取りかかるころあいでしょう。
フラハは着がえをすませて顔を洗い、手鏡とブラシで髪を整えると、謁見の間に急ぎました。
「王さま、折り入ってお願いがあります」
フラハは片膝をついて言いました。
「みなまで言わずともよい。フラハちゃんは、いよいよ、黄色の丘に行って、おぬしにいじわるをした連中をしかるのじゃな?」
「いいえ、ゆるしてあげに行くのです」
フラハがそう言うと、王さまは口もとを手でおおって「なんてやさしい子じゃ」と目をうるうるとさせました。
「どちらにせよ、わしは、おぬしを送り出すのみじゃ。ココロ先生がそうしたように」
「ありがとうございます。わたし、王さまのことも大好きです」
フラハはにっこりと笑いかけました。
すると、王さまはよろこびのあまり、「ずばくしゅーん!」とすごい音を立てながら天井をつきやぶって、空のかなたへと飛んで行ってしまいました。
「新記録ですな。彗星のしっぽでもおみやげに持って帰ってきてもらいましょう」
まじめ大臣は天井に開いたあなから空を見上げます。今日もいい天気です。
「新しいまじめ大臣さんも、王さまのことをしっかりと助けてあげてね」
フラハはねんを押しました。
はて、新しいまじめ大臣と言いました。まえの人がくびになったとか、首だけになったとか?
いいえ。じつは、まじめ大臣は、まじめ大臣ではなかったのです。
まじめなふりをして居眠りをしたり、こっそりさぼったりしていたのが、発覚していたのです。
悪魔の魔法にかかったはずのかれが、“くそまじめ大臣”になったのは、本当は“超おさぼり大臣”だったからというわけです。
それをやさしくなった王さまがもう一度チャンスをあげて、本当のまじめ大臣になったというわけです。
「でも、ときどきさぼって、子どもたちと遊んであげてね」
大臣にはふたりの子どもがいました。男の子の兄弟です。
弟のほうはトムのように小さくて、金ぴかの絵本を百冊も持っている子でしたが、いそがしいふりをした大臣は一度も読んであげたことがなかったのです。
フラハはそんな大臣をしかって、絵本の読み聞かせのやりかたを伝授してあげたのです。
せっかく百冊も絵本があるのに、弟くんのお気に入りはちょっとしかなくて、最近の大臣は毎晩のように同じ絵本ばかり読んであげているそうです。
百冊の本なんかよりも、お父さんが好きということなんですね。
兄のほうは、黄金の百科事典セットを持ったかしこい子どもでしたが、“ありがとうパーティー”のときも、お勉強を優先させられて、かわいそうなやつでしたから、こちらでも大臣をしかって、勉強は教科書や辞典だけではないことを教えてあげたのです。
今ではかれは、お城の中庭や、町の公園などに行って、植物の研究をしています。
外にいると、ついついほかの子どもたちと遊んでしまうようですけど、かれが楽しそうにしていたり、お友達に勉強したことを教えてあげてるところを見た大臣は、おさぼりが減って仕事に精を出すようになったみたいですよ。
この事件は、わたしが酔っぱらって説明をさぼっていたあいだに起こったことなので、みなさんが知らなくてもしかたありません。
親切な妖精は、この大臣のけんでココロ先生のようにかつやくができたので、すっかり自信をつけていました。
これなら、黄色の丘の連中相手でも「いける、いける」というものです。
「フラハさまのおっしゃることなら、なんでも聞きます。でも、手伝いが要らないというのは納得がいきません」
大臣が口をとがらせます。
フラハは自分ひとりだけで、ガラガラヘビやサソリと対決する気なのです。
「だいじょうぶ、いけるわ。わたしには考えがあるの」
「聞いておきましょう。そのほうが、わたくしも、王さまも安心ですから」
フラハは計画を話しました。
黄色の丘の住人に謝らせて、親切者になってもらうには、“心のよゆう”が大切です。
それは、王さまが「びんぼうでは他人に分けあたえるよゆうなんてない」と考えて、町を金ぴかにぬったのと同じやりかたです。
黄色の丘は、からからにかわいた砂だらけの砂漠です。
そこに、緑の丘から持ってきた種をまいて、フラハの妖精の魔法で、緑の豊かな丘に変えてしまおうというものです。
草が生えれば、虫が集まり、鳥もやってきます。鳥がまた種を運んで、緑はさらに豊かになるでしょう。
木が実をつければ、けものたちがくらしやすくなりますし、おいしげった木はたくさんのすずしい日かげを作ります。
草のつゆが小川を作れば、オアシスの小さな水場を取り合ってけんかをする必要もなくなるのです。
「ふむ。欠点の無い計画に思えますが……。万が一、連中にいじわるをされて、としよりロバみたいにこき使われるなんてことになったら、わたくしも王さまも、だまってはいませんぞ。たとえフラハさまがゆるそうとも、兵隊たちを集めて、ガラガラヘビたちを全員、逮捕してやります」
大臣はこぶしをふりふり名演説です。
「ありがとう、大臣さん。でも、平気だから」
「黄色の丘までは、砂金さがしの家来に送らせます。おたよりの妖精にも立ち寄るように言っておきますので、必ず手紙をください」
「もう! 大臣さんは心配性なんだから!」
フラハは心の中で「これだからくそまじめは!」なんて思いました。まだ悪魔の魔法がちょっと残ってるのでしょうか。
「今のわたしは、最強なのよ!」
「ほう、最強と申しますと?」
フラハは小さくて可愛いお鼻をつんとさせ、大きくてりっぱな羽をぴくぴくさせて、こう言いました。
「ココロ先生から教わったやさしたと、王さまから学んだ知恵、それから緑の妖精の魔法があるもの!」
「確かにそれは心強いですな。ですが、そこにわたくしの“思慮深さ”も加えてほしいところです。子どもたちに絵本を百冊あたえたのも、たくさんの勉強を言いつけたのも、選べる手段が増えるほうが将来的によいと思ってのことです。本当にこまったときは、わたくしどもをたよれることを忘れないでください」
まったく、がんこ大臣です。フラハはとうとう「分かったわ」と降参しました。
ちょうどそのときです。空がきらりと光り、「ひゅ~~~」という音とともに、王さまが帰ってきました。
「ただいまもどったぞい! あやうく宇宙まで行くところじゃった!」
「おかえりなさい、王さま」
「うむうむ。わしも、おぬしにおかえりを言いたい。必ず無事にもどってくるのじゃぞ」
王さまはずれたかんむりをもどすと、にっこりと笑いました。
「はい、王さま。善処します」
フラハはかしこまって言うと、大きなふくろを背負って、謁見の間をあとにしました。
いよいよ、フラハは黄色の丘の砂をふむのです。
はたして、長老ガラガラヘビやいじわるサソリは、謝ってくれるでしょうか。
フラハは黄色の丘を緑でいっぱいにして、みんなに親切をくばることができるのでしょうか。
おはなしはいよいよ佳境です。
さあ、フラハの旅が上手くいくように、わたしたちでお祈りをすることにしましょう。
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☆妖精の世界のひみつ、その二十八☆
「妖精の世界の絵本は、どれもがハッピーエンドにえがかれているそうよ~」




