まじめに遊べ!
フラハが、フラハが不良になってしまいました!
どこからともなくサングラスを取り出すとそれをかけて、ムギちゃんのマフラーやグロブさんの手ぶくろも「暑苦しい!」と言って投げすててしまいました。
「さーれ。こんなせまっ苦しいところを出て、遊びに行くとしましょーか」
フラハは酒蔵のたるたちを見回すと、くしゃみをしました。
「だめじゃ! フラハちゃんはずっとお城にいるんじゃ!」
立ちふさがるのは王さまです。かれもまた、悪魔の魔法にかかっているようで、やさしい顔はどこかへ消えて、しかめっつらです。
「けちくさいことを言うんじゃないわ! あらひは、おひさまの下が大好きなのよ! なんてったって、緑の妖精らもの!」
「緑より金ぴかのほうが良いに決まっておる! 出て行くというのなら、大臣の首をはねてやるぞい!」
王さまは悪い顔をして大臣を指差しました。
「まあ、よいでしょう。首だけあれば部下たちに仕事の指示はできますからな。ギロチンはもうばらばらにしてしまっているので、急いで修理させましょう。それか、のこぎりを使うかですな」
大臣はまじめくさって言います。
「なんだこいつ、わがはいの魔法が効いておらんのか?」
ペーポはいぶがしがって、まじめ大臣の顔をのぞきこみます。
「ふーむ? 魔法も酒も効いているはずだが。これだから、くそまじめはこまるのだ」
「首だけになったら、大臣でサッカーをしましょー!」
フラハはボールをけるそぶりをしました。すると、足の小指が何かに「がつん!」と当たりました。
「あはは! いたーい!」
痛いのに何が面白いのか分かりませんが、フラハが笑いながら足元を見てみると、王さまがゆかに寝転がりながら、フラハのワンピースのすそをつかんでいるではありませんか。
「いやじゃ、いやじゃ! フラハちゃん、帰っちゃいやじゃ! わしはさびしい! わしをほうっておかんでくれ!」
王さまは、手足をじたばたとさせてあばれます。
「あはは! 赤ちゃんごっこね! いっしょに遊びたかっらのなら、そう言えばよかっらのに! ママでちゅよ~」
不良フラハは、今度はママになって、王さまをあやします。
「ママァ! ママァ!」
王さまはおとなしくなり、親指をしゃぶり始めました。
「あらひも赤ちゃん役をやりたいわ!」
そう言うと、フラハは王さまのとなりにごろんと横になり、同じように手足をじたばたとさせ始めました!
「おんぎゃあ、おんぎゃあ!」「ばぶう、ばぶう!」
ふたりそろって大きな赤ちゃんです!
「これはこまりましたな。すぐに乳母をやとって、ミルクを温めさせなければ」
まじめ大臣はメモ帳を取り出すと、羽ペンで仕事を書き留めます。
「おまえもやれよ~。まじめらいじん~」「そうじゃ、やれよ~」
「王さま、フラハさま。赤ちゃんごっこは、部屋に帰ってからになさってください。ベッドにメリーも取りつけさせます」
「やら! もう歩きたくない! 連れてって!」
フラハは寝ころんだまま、両手を天井に向かってつき出します。王さまも「ばぶばぶう!」とまねをしました。
「では、わたくしがおふたりを上までお連れしましょう。乳母役は、マナーの妖精にお願いします」
そう言うと、大臣はフラハと王さまの手を一本づつつかむと、ふたりを引きずって酒蔵を出て行きました。
酒蔵は、地下室にあります。つまりは、階段を使わなければいけないわけですが……。
フラハと王さまは、階段にあちこちをぶつけてたんこぶだらけになりました!
それを見て、ペーポは大笑いです。
あとにはお酒の妖精のスコッチさんが残されて、「スコッチをすこっちだけ、飲む!」とか何とか言いながら、たるをひっくり返して回っています。
あーあ! もったいない! もう、めちゃめちゃ!
さて、赤ちゃんごっこを始めたフラハと王さまですが、赤ちゃんがやることといったら、泣くことと寝ることくらいです。
そんなのすぐにあきてしまいます。
「ねえ、王さま。あらひ、マナーの妖精は好かないわ。面白くないもの」
「わしもじゃ。ふたりで逃げてしまおう!」
ふたりは顔を見合わせて笑うと、キッチンにあったおなべをまじめ大臣にかぶせて逃走をはかります。
大臣は追いかけようとしましたが、前が見えなくて、料理の妖精にしょうとつしました。
料理の妖精のながーいコック帽も倒れて、たまたまキッチンの外にいたマナーの妖精の頭に一撃をくわえました。
おどろいたマナーの妖精は混乱して、「室内では帽子をおとりください!」なんてさけびます。
すると、まじめ大臣が「これは失礼!」と言って、頭にかぶったおなべを外しました。
フラハと王さまは、悪魔の魔法にかけられてしまっているので、いつもと反対のことをしたがるようです。
フラハは、メイドさんからほうきをひったくると、集めたほこりを辺りにまき散らし始めます。
王さまは、せっかくかべにぬった金めっきに、べたべたと手あかを付け始めました。
「うーん、ちょっともの足りないわね」
フラハはもっと面白いことがないかと考えます。
「そうだわ! ……執事、執事はいらっしゃらないの?」
フラハは何かを思いついたようで、ベルを鳴らして執事をよぶと、こう命令しました。
「王さまに、何か命令をしなさい!」
「そんなこと、おそれ多くてできません!」
あたりまえです!
ところが、金めっきをばりばりとはがしていた王さまがこちらへとやってきて、赤い衣装のはしをつかんで、お姫さまがスカートを広げるようにして頭を下げました。
「執事さま、このあたしになんなりとご命令を」
これにはすましたイケメンもめんくらいます!
でも、やっぱり執事は執事ですから、あるじの命令にはしたがいます。プロ根性というものです。
「では王さま、ブタになってください!」
執事がそう言うと、王さまはよつんばいになって、「ぶひい! ぶひい!」とさけび始めました。
フラハもまねをして、「ぶうぶう! お庭にトリュフをほりに行きましょう」と言います。
二匹の子ブタは中庭までやってくると、地面をくんくんとかぎまわり、鼻先を使ってあっちこっちの土をほり返し始めます。
『あの、庭をあらすのはやめてくれませんか……』
お花たちがフラハに言いました。
「お花がしゃべっらわ! ねえ、あなたたちもブタごっこしましょう! あなたたちも子ブタちゃんになっれ!」
『……ぶ、ぶうぶう』
お花たちがブタの鳴きまねをしています。ブタクサでもしないのに!
「あはは! 面白いわ! ねー、王さま?」
フラハは爆笑して王さまのかたをたたきます。
「うーむ? わしには聞こえんが……」
「声が小さいのかも。こらーっ、お花さんたち! まじめに遊べーっ!」
『ぶう……』
「あ、そうらったわ。忘れてた。王さま、あらひね、緑の妖精なのよ! だから、お花の声はあらひにしか聞こえないんだった!」
「ほう! それはすごい! 緑の妖精は何ができるんじゃ?」
「うーんとねえ……」
フラハはふところをごそごそとまさぐると、ひとつの種を取り出しました。
これは、いつかサクランボの木からもらった種です。
ほり返した土に種をほうりこんで、土をかけてうめてみます。
芽が生えてくるかと思いましたが、うんともすんとも言いません。
「ねえ、ペーポ。魔法って、どうやったら使えるのかしら?」
「ふむ。魔法には呪文がつきものだ。何か呪文を唱えたらよいのではないか?」
ペーポは辞典をめくりめくり答えます。
「呪文なんて知らないんれすけど!」
フラハはほっぺをふくらませてペーポをにらみます。
「わがはいにおこられても……」
「ペーポの教科書には書いてないの?」
フラハは悪魔の辞典をのぞきこもうとしました。
「こら! 勝手に見るな! わがはいの辞典だ!」
「けち!」
「お願いとか命令をしてみたらどうじゃ? 可愛いフラハちゃんの命令なら、種のやつも言うことを聞くはずじゃ」
王さまが何か言います。
「なるほろ! あらひは可愛いし、それは名案らわ!」
フラハは種をうめた土に向かって、身体をくねくねさせながらお願いをしました。
「ねぇ~ん、お願い、サクランボの種さん。でっかい木になって。あらひ、サクランボがたべらいの~っ」
それから、サングラスを外して、片目を閉じてウィンクをばちこーん☆ です。
すると、虹色の光がフラハと土を包みこんで、地面からにょきりと芽が出ました!
「もっともっと!」
フラハがそうお願いすると、芽はどんどんと生長して若木になります。
「がんばって! あらたなら、もっと大きくなれるわ! 自由に枝をのばして! お日さまに向かって葉っぱをめいっぱい広げて!」
若木はさらに大きくなって、大人の木へとなります。
それから、白いサクラの花をつけると、あっという間に散らし、赤いふたごの身をつけはじめます。
「大人のサクランボさんできあがりーっ! どう? すごいれしょう! わたし、緑の妖精なのよ! ココロ先生が言ったとーりらった!」
フラハは、りっぱに育ったサクランボの木を見上げて、にっこりと笑いました。
……つと、ほおに“何か温かいもの”が流れたのに気が付きます。
「どうしたんじゃ、フラハちゃん。泣いておるではないか! 何か悲しいのかの? どこか痛いのかの?」
王さまは心配してフラハの頭をなでました。
「ううん、ちがうの。うれしいの。うれしいから泣いているのよ……」
フラハはそう言いましたが、どこか「かちり」と、はまらない気がします。
さっきまでの楽しかった気持ちも、風が吹き抜けるように、どこかへと消えてしまいました。
ざわざわと、サクランボの木が枝葉をこすりあわせる音ばかりが聞こえます。
「ひはは、フラハよ。おまえの魔法の力はみごとなものだ。わがはいの魔法とも、相性がよいのではないか? なあ、親友よ。これから、わがはいといっしょに、面白おかしいことをたくさんしようではないか?」
ペーポもフラハのかたに手をかけました。
フラハは友達の顔を見ると、さびしそうに笑います。
「ごめんね、悪魔さん。わたし、あなたとは友達になれないわ」
なんと、フラハはペーポの正体を見やぶっていたようです!
「い、いつのまに!」
ペーポは角と尻尾を生やしてあとずさります。
「会って、最初のほうからよ」
「だったら、なぜ、と、とととと友達なんかになろうとした!?」
「あなたは良い人だと思ったし、仲良くできたら良いなと思ったの。それに、すごくさびしそうだったから……」
「何が良い人だ! わがはいは悪魔なんだぞ!」
悪魔はくやしそうに地面を何度もふみつけます。
「ペーポが悪魔だったなんて、おどろきじゃ」
王さまも悪魔の魔法がとけたようです。
今さらになってやってきた大臣は「悪魔」と聞いて、お城の中にUターンしていきました。
「やつが悪魔だったのなら、わしらに取り入ろうとしたのも納得がいく。きっと、この国をかげであやつって、みんなを不幸にする気だったのじゃろう。どうするかの? 首をはねるか? もちろん、これは法律とは別の話でじゃ」
しかし、フラハは王さまの提案に首をふりました。
「いいの。逃がしてあげてください。……でも、悪魔さん」
フラハは悪魔を見つめました。
悪魔は返事もしないで、にらみかえし、三本のとげのついた槍を向けました。
「わたしには、何をしても構わないわ。でも、ほかの誰かに迷惑をかけることはしないで。お願いよ」
風が強くなりました。
どんどんと強くなります。フラハの髪がばさばさと流され、虹色へと変わり、光りかがやきます。
「フラハよ。おまえはうそつきだ」
悪魔は槍を下ろすと、声をどす黒くして言いました。
いつの間にか、ペーポの顔は可愛らしい男の子の顔から、としよりのヤギのように不気味なものに変わっています。
「わたしは、うそつきじゃないわ。良い子よ。お願い、もう、みんなに迷惑をかけないで、出て行って」
フラハは言ってやりました。
すると、辺りを飛び回っていた風が、虹色に光り、うずになって悪魔の身体を包みこみました。
それでも悪魔は真っ黒な声で、「ひーっはっはっは!」と高らかに笑い続けます。
「すごい魔法じゃ! 悪魔をやっつけるんじゃ、フラハちゃん!」
王さまがこぶしをふりあげておうえんします。
「魔法の力などではない。こんなもの、呪いだ。おまえは、悪魔の魔法よりもおそろしい、呪いが使えるのだ。わがはいなどおらずとも、おまえはきっと、地獄へと落ちる!」
悪魔ペーポはそう言うと、もう一度、大きな大きな笑い声をあげました。
その声はお城をゆらし、国をゆらし、貼りつけられた金めっきをばりばりと、はがしてしまいます。
それから、金めっきが黄金の風を作り出し、悪魔のすがたをかくしてしまいます。
そうして笑い声とともに、どこかへと消え去っていきました……。
「すばらしいことじゃ。フラハちゃんが、悪魔をおいはらい、この黄金の国を守ったのじゃ!」
王さまがそう言うと、お城の中から様子をうかがっていた大臣や、家来たちが中庭へと飛び出してきます。
「お祝いじゃ! 今から、国をあげて、“フラハちゃん、ありがとうパーティー”を開さいする!」
王さまはかんむりを「ぽい!」と高く投げ上げて言います。
大臣や家来たちも、おたがいに抱きあいながら、大よろこびです。
ところが、フラハはちっともうれしそうな顔をしないで、空を見上げたままでいます。
「ごめんね、悪魔さん。あなたは、みんなのためにならないの。妖精はみんなのためにならなきゃいけないのよ」
「そうじゃ! 悪魔はみんなのためにならぬ! フラハちゃんは、みんなのためにがんばった! すごいぞ! えらいぞ! 格好良いぞ!」
王さまはほめちぎりますが、フラハはずっと悪魔の消えていったほうを見ています。
「むう……おぬしがそんな顔をしておると、みんながさびしい! 妖精は元来、パーティーずきなものじゃろう? じゃから、今度は、わしやみんなが、“本当の親切”を教えてくれたフラハちゃんを“本当の笑顔”にしてみせるぞい!」
こうして、“フラハちゃん、ありがとうパーティー”が始まりました。
すてきな料理がたくさん出され、それをみんなでかこんで、マナーの妖精もいっしょになって、おしゃべりをしながらいただきます。
これはマナーの妖精ががまんをしているというわけでなく、パーティーが無礼講で、妖精のルールとしてパーティーを楽しむほうを優先するからです。
この国のダンスの妖精や、歌の妖精もまねかれ、お城はだれしもが出入り自由になり、中庭に咲きほこる花たちを楽しめるようになり、ろうかは子どもたちが走り回り、金の像に落書きなんかしちゃったりしています。
本当に、にぎやかで楽しいお祭りさわぎでした。
そのパーティーは、何日も何日も続きました。
そうして、フラハの心のどこかにあったさびしさは、風ひとつ通りぬけるすきまもないほどに、うめられていったのでした……。
* * * *
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☆悪魔の世界のひみつ、その五☆
「わがはいは何度でももどってくる。……少しちがうな。いなくなってもいなくなっていない。いつでもいるのだ」




