これからは好きなことを
病院から屋敷に戻ると敷地内に見慣れたリムジンが停まっていた。何故だろうっとミーヤは思う。カルネは優孝が亡くなってから以降一度も、自分の部屋から出て来ていない。なのにどうしてリムジンが。不思議に思いながら屋敷に入ると。
「久しぶりねミーヤ」
「メ、メイド長!?」
待ち受けていたのは優孝の母親と一緒に行動しているはずのメイド長だった。
「見ないうちになんだか雰囲気が変わりましたね」
「な、何故ここに?」
「何故って私がここにいるってことは分かるでしょ?すぐに奥さまの部屋に来なさい。カルネは私が連れて行きます」
――コンコン。ノックをして部屋に入る。すぐ視界に椅子に座っている一人の女性を確認し、その正面に後姿だがカルネがいる。
「久しぶりミーヤ」
「はい。奥様」
カルネの隣に立ち背筋を伸ばす。
「そんなに固くならなくていいのよ」
そう言われてちょっと力を抜く。2人の顔を交互に見た後、静かに話し始めた。
「……あなたたち2人には、大変な思いをさせてしまいごめんなさい。本当ならすぐにでもこちらに帰ってきたかったんだけど出来なくて、優孝が脳死になってそれからの判断は間違ってなかったと私は思ってる。だから、あまり自分を責めないで」
心臓移植させたことに2人の判断が間違っていなかったとフォローすると。
「本当に申し訳ありませんでした!」
突然、土下座をして謝罪したカルネ。
「私が優孝様のお側にいればこのようなことには……」
今回の事故は、自分が優孝の傍にいなかったことが原因と自分を責めた。
「カルネ。あなたのせいではないのよ。メイド長から聞いた話だと優孝は、お友達を家に送る途中で巻き込まれたと聞いているわ」
「ですから私が傍にいれば!」
「確かにカルネが傍にいれば大丈夫だったかもしれない、でも、いなくても大丈夫だったかもしれない。この事故は予測できない不運な事故だった」
「そんな……冷たすぎます。優孝様が可哀相です」
床を悔しそうに叩くカルネ。
「ミーヤ」
「は、はい」
「事故の後、色々と動き回ってるみたいね。一緒に巻き込まれたお友達の方はどうなの?」
「心臓移植の後、意識を取り戻しましたが精神的なショックのせいらしく記憶を失っています。が、会話は出来ています」
「そう、記憶が……でも、優孝の心臓で生きてくれたよかったわ」
椅子から立ち上がり2人の前に立つ。カルネの腕を掴んで強制的に立たせるミーヤ。カルネは泣いていて顔を見ると少し痩せていた。
「これからあなたたちは自分たちの好きなことをしなさい」
その言葉にえっと驚く。
「優孝はもういない。だからあなたたちは専属じゃなくなった、メイドとして働かなくていいのよ」
2人を抱きしめる。
「今まで優孝の傍にいてありがとう」
その日の夜。廊下を歩いていたカルネがある部屋を通りすぎる時だった。部屋の中らすすり泣く声が聞こえた。
「……これ」
「泣いてるのよ」
いつの間にかカルネの後ろからメイド長が現れた。
「奥様は優孝様が亡くなってから毎日、夜泣いてるのよ」
「奥様……」
カルネの肩を掴む。
「カルネ以上に奥様は、悲しいのよ。分かりなさい」




