ごめんなさい
「……ここは」
夏織が目を覚ましたのは事故から2週間後のことだった。
病室にいた夏織の両親、ミーヤが意識を取り戻した夏織に喜んだ。
「……私は誰ですか。あなたたちは誰ですか?」
――心臓移植が成功し、夏織は生きることが出来たが非情にも彼女の記憶は失ってしまっていた。
「私のことはお分かりでしょ?」
「七条さん。私、神山なんだけど」
「……ごめんなさい。分かりません」
意識を取り戻した数日後。華怜、海沙、明紀が病室に見舞いにきた。記憶を失っていると事前にミーヤから聞かされた3人は半信半疑で訊ねると、本当に忘れていることにショック受けた。
半分喜び、半分ショック。複雑だ。
「お医者さんは鹿野さんが記憶を失った原因、何か言ってませんでしたか?」
ミーヤに聞く明紀。
「頭をうってないから精神的なものだと。もしかしたら優孝様を巻き込んでしまったその責任でとか」
「……悲しいですね」
1時間ほど夏織と話をしたがかえってくる返事は全て分かりませんだけ、何かを思い出すことは何一つなかった。
病室の窓から外の景色を切なそうに見ている夏織。その傍でミーヤは椅子に座って見守っている。
「ミーヤさん」
「何ですか?」
「私の胸の中で動いているこの心臓の持ち主。川中優孝さんのこと聞かせてくれませんか?」
夏織は心臓移植を受けたことを両親から聞かされている。
「そうですね。どんなことが聞きたいですか?」
「……家ではどんな方だったんですか?ミーヤさんは専属のメイドさんなんですよね?」
「優孝様は普段お部屋で1人、読書をするのがお好きな方で読みだすと周りの音が聞こえなくなる人で気づいてもらうためには、目を隠さないと気がついてくれないんです」
「へぇ~。本が好きなんですね」
「お優しいですし、お友達ともとても仲が良く、何かあると必ず助けてくれる人なんです」
「そんな人と私は仲が良かったんですか?」
「えぇ。中学のころからですから。夏織様がソフトボールをやり始めたのも優孝様の助言と聞いております」
優孝の情報を興味津々で聞く夏織。必死に優孝の良さを伝えるミーヤ。
話をしていると時に笑ってしまう場面でクスクスと笑う夏織。だけど、優孝の事を知っているはずなのにすべて忘れてしまった夏織に話しながらミーヤは、だんだん悲しくなってしまい。途中から目から涙が静かに流れた。
「……優孝様は、本当に……優しくって。素晴らしい人で……」
声を詰めらせって話すミーヤに夏織が優しく抱きしめて、自分の胸にミーヤの顔を押し付ける。
「ごめんなさい。私を許してください。私だけ生きてごめんなさい」
夏織に抱かられて泣くミーヤ。その胸の中からは、優孝の心臓が鼓動していた。




