修羅が行く
修練所のドアをあけたら、座り込むアリスの頬をファリアが平手打ちしたところだった。
ファリアはそのまま、こちらに歩いてきて、
「がんばれ、お兄ちゃん。」
と言って出て行った。
なんだ?
パシン!
ドリスもアリスをひっぱたいてこっちに来た。
「私はお兄ちゃんが一番だと思ってるからね。」
だからなに?
パシン!
ミラも来た。
「お兄ちゃん、ないちゃダメだよ。」
何で俺が泣くんだ?
パシン!
レイチェルおまえもか。
「ばか。」
なんだと!
涙のあとを付けたままのアリスがやってきた。
パシン!
「いたいじゃないか、なんでだよ?」
「なんとなく?」
「おいこら、説明していけよ!」
ふりむくとルーナが居た。
「お・と・う・さ・ん・が帰ってくれば分かるよ。お母さんが一番だよ。」
はいはいアモンが帰ってきたらすっきりするわけね。
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ヤーギュの修羅の隠れ里に着くまでに12人12本の角を切り飛ばした。
俺たち修羅の角は二本、しかし襲ってきたやつらの角は片側に一本。
やつらの角が切り落とされたのは俺がさらわれた年の祭りの日、切り落としたのはサラ・ディオー、俺の婚約者だ。
俺とサラは親同士が決めた許婚の間柄。
あの日俺たちは成人の儀式によって大人の体となり、二人で舞を奉納して夫婦になるはずだった。
しかし、ゼムのガーゴイルにつれさらわれた俺は村にたどり着くことが出来なかったんだ。
成人の数が少ない修羅の婚姻は本人同士の恋愛よりも親や家同士の約束が優先される。
成人すれば必ず決められた相手と結婚しなければならない。
たった一人で成人してしまったサラに村長のゴル・ドロンは自分の息子ドル・ドロンを押し付けようとした。
ドルには別の相手が決まっていたと言うのにだ。
俺たちの親が生きていれば何とかなったかもしれない。
しかしゴルは村の長老会を動かしサラとドルを改めて婚約させた。
強さが最優先される修羅には結婚について一つの例外規定がある。
約二十四時間も続く神へ奉納する歌が歌われている間、挑戦者たちを退けながら剣を持って舞い続けることが出来たなら、神にたいして自分の愛する人の名を婚約者として告げることが許されるのである。
歴史上数人の男しか達成していないこの快挙をサラは成し遂げ、アモン・ディモンと俺の名を奉納した。
ドルはこの神聖なきまりを破り、部下を引き連れサラを襲った。
サラは襲い掛かる男どもの角を切りとばしながら神域まで逃げ、僅かに残る力でもう一度成人の儀式を行い、老婆となった。
以上のことをレイが襲い掛かってきた修羅から聞き出した。
そして、サラは不自由となった体でまだ俺を待ち続け、生きている。
俺はサラを迎えにいかねばならない。
どのようなことがあろうともだ。




