みぞれの初仕事※俺ら、最強ですね?
グレイス・ガード社の新たな社員、みぞれが加入してから数日、チームは以前にも増して活気づいていた。
「よし、お姉ちゃんの歓迎会も兼ねて、今日は特製鍋にしましょうっ!」
「ほたるの手料理……! 楽しみね。あ、待ちなさいほたる、隠し味にこの『疲労回復&肌ツヤ向上試薬』を____」
「お姉ちゃんだめですっ、お鍋に注射器で何か入れようとしないでください!」
わちゃわちゃと賑やかな二人のやり取りを、古城はクールさを保ちつつも、心の中で温かい気持ちで見つめていた。
(平和だ……。ほたるの笑顔が増えた。みぞれさんが来てくれて本当によかった……。みぞれさん、それ鍋に入れようとしたのヤバい薬じゃないよな?)
「…そういえば、『プロメテウス』ってどんな組織なんだ?」
古城が何気なく二人に問う。『プロメテウス』の言葉が出た瞬間に、怯んだ表情をしていたからだ。
「『プロメテウス』は…私たちをかつて実験台にしていた巨大闇組織よ。」
「…『異界の遺物』を悪用して、人体実験をしていることだけは……よく、知ってます。本当の目的がなんなのかは、分かりません…。」
不穏な空気が漂い始めた時だった。
「……仕事ですよ、お三方。」
宵が部屋に入ってきた。手には相変わらずタブレット端末がある。
「…一ノ瀬秘書、仕事内容は。」
「昨日、グラン社長の話にもあった『プロメテウス』。それの残党部隊が、なんらかの手段で『封印領域』から『異界の遺物兵器』を強奪。現代都市に兵器を持ち込み、市街地の臨海倉庫街へ向かっています。」
「……来たわね。私たちの過去を縛り続ける亡霊どもが」
みぞれの瞳から温もりが消え、冷酷な暗殺者の光が宿る。彼女は腰のホルスターから、一本の金属製シリンジを引き抜いた。持ち手には指を引っかける三つの補助リング、コントロールリングがついており、シリンジの内部ではエメラルドグリーンと漆黒の液体が怪しく脈動している。
「それが、みぞれさんの武器か。初めてしっかりと見た。」
「ええ。私が施設から逃げ出す時に奪い、自分で極限まで改造した『特製コントロールシリンジ』よ。世界に一本しか存在しない、私の相棒」
みぞれは慣れた手つきで指をリングに通し、くるりと旋回させた。
「針先は高振動の超合金で、あらゆる装甲を切り裂くナイフになる。押し出し方次第で極薬の注入も可能。そして___こうすれば」
カチッ、とリングを引っ張り外すと、シリンジの軸が可変し、小型のハンドガンのような形態へと変形した。
「高圧で試薬弾丸を撃ち出すガンモードにもなるわ。」
その時、グラン社長がひょこっと顔を出す。ココアを飲みながらふわふわと喋る。
「調律師ヴェゼル本人の足取りを掴む前の前哨戦だねぇ。みぞれちゃんの初仕事、期待してるよ」
「…はいっ。必ず、期待に答えてみせるわ。行きましょう、古城くん、ほたる!!」
「了解。」「はいっ!!」
現場である臨海倉庫街。待ち構えていたのは、強化スーツを着込んだ『プロメテウス』の精鋭兵数十名と、『異界の遺物製自律型機動兵器』だった。
「ハハハ! ナンバー7にナンバー3まで揃って出てくるとはな! まとめて回収してやる!」
「ナンバー3? 回収? 冗談じゃないわ。私の名前はナンバー3じゃない。冴島みぞれよ!!!」
みぞれが先陣を切って躍り出る。
「ハッ、注射器一本で何ができる___」
シュッ____!!
みぞれが旋風のように肉薄し、コントロールシリンジの超合金針を閃かせた。一閃。強化スーツの胸部装甲が、まるで紙のように切り裂かれる!
「ガハッ!?」
「甘いわね。切り裂くだけじゃないわ______ハッ!」
指のリングを器用に操作し、瞬時にガンモードへ変形。パンッ! パンッ! と高圧噴射された麻酔試薬の弾丸が、敵の首筋へ正確に突き刺さる。倒れ込む敵兵たち。
「すごい……! お姉ちゃんのコントロールシリンジ、相変わらず手数が多すぎます……!」
「ほたる、見惚れてる暇はないぞ。右から来る!」
「はいっ!」
古城が漆黒のナイフで機動兵器の砲身を切り落とし、ほたるが二丁拳銃でその関節部を撃ち抜いて機能停止させる。三人の連携は、まるで長年組んできたかのように完璧だった。
(すげぇ……みぞれさん、近接斬撃・遠距離射撃・状態異常付与をシリンジ一本で全部こなしてる。武器のロマン度が高すぎるだろ。)
敵はまだまだいる。が、シリンジの中身が空になってしまった。みぞれの動きが一瞬止まる。
「っ、くそっ……!」
みぞれがシリンジの側面を弾くと、カチッという音とともに、内部の空になったガラスカートリッジが後方へ跳ね出された。すかさずズボンのポケットから取り出したのは、赤い試薬で満たされた新しいカートリッジ。スロットへ滑り込ませて一気に押し込むと、カチリと重厚なロック音が響き、シリンジ全体に眩しい異界の遺物エネルギーの光が再充填された。手際よく作業を進め、敵への攻撃を再開した。
だがその時、大型の機動兵器が最後の悪あがきとばかりに、ほたるへ向けて誘導ミサイルを放った。
「ほたるっ!?」
距離がある。古城のナイフでは届かない。
「させないわ!」
みぞれがシリンジのリングに指をかけ、己の首の静脈へ針を浅く刺した。シリンジ内部の赤い液体が急速に注入される____
____『運動能力超強化試薬』!
ドクンッ!
みぞれの身体能力が爆発的に跳ね上がり、残像を残すほどの速度でほたるの前へ割り込んだ。シリンジをガンモードに変形させ、一瞬で三連射。
ドカンッ!!
ミサイルはほたるの直前で撃ち落とされ、空中で爆発散した。
「はぁ……はぁ……! 大丈夫、ほたる!?」
「お姉ちゃん! 私のために無理して薬を……っ!」
「ふふ、お姉ちゃんだもの。当たり前でしょ」
みぞれはシリンジをクルリと回して腰のホルスターに戻すと、ふらつく身体を古城がしっかりと支えてくれた。
「無茶をしますね、みぞれさん。……でも、助かりました」
「……ふん。お礼なら、ほたるをちゃんと守り切ることで示しなさい、古城くん」
「言われなくても。命に代えても守ります。」
(かっこいい。みぞれさんマジで頼れるお姉ちゃんすぎる。一本しかないシリンジをあそこまで使いこなすなんて凄まじい技量だ……)
『異界の遺物製自律型機動兵器』が、そこらじゅうに崩れ落ちている。回収は困難だ。
「……処理班を呼ぶか。」
「そうですね…この量は、3人だけじゃ持って帰れません」
「さっ、パパッと呼んで帰りましょ?」
残った敵兵もほたるの正確な射撃によって全滅し、処理班によって『異界の遺物製自律型機動兵器』が回収されたことで、ミッションは完全勝利で幕を閉じた。
夕暮れの埠頭。
「ふぅ……試薬の反動でちょっと腕が痺れるわね」
「もう、お姉ちゃんったら無理しすぎです! 事務所に戻ったら、私が特製スープ作ってあげますからねっ!」
「あら、ほたるのスープ? 楽しみね。あ、また隠し味に____」
「入れませんっ!」
クスクスと笑い合う三人の影が、夕日の中に長く伸びていく。過去の恐怖を乗り越え、一本のシリンジと二丁の拳銃、そして一本のナイフが合わさった時、グレイス・ガード社に倒せない敵など存在しないのだった。




