買い出し中の襲撃※ネギは無事です
昨夜、裏組織『黒蛇会』を壊滅させた翌日。
古城たちは何事もなかったかのように、昼休みのショッピングモールで買い物袋を下げて歩いていた。今日の警備の仕事はお休みだから、二人は私服だ。スーツではない二人はただの一般人にしか見えない。
「ふぅ〜、昨日の汚れも綺麗に落ちましたし、お昼ご飯の材料も買えてバッチリですね、古城先輩っ!」
「……ああ。ネギが特売で何よりだ」
隣を歩くほたるが、柔らかい笑顔を浮かべる。手には、ビニール袋から飛び出した長ネギ。
(可愛い。天使。ネギを持って歩く姿すら神々しい。っ今買い物袋を持つ手が少し当たった。落ち着け。心拍数を下げろ。いま古城は特売のネギを持ったただの警備員…いや一般人。)
社内では相変わらず「氷の警備員」で通っている古城だが、脳内は朝から大忙しだ。
しかし、平和な時間は長く続かなかった。
買い出しを終え、モールの搬入口(関係者通路)へ出た、その瞬間___。
キキィィィッ!
猛烈なタイヤの摩擦音とともに、大型トラックが強引に搬入口へ突っ込んできた。荷台から飛び出してきたのは、サブマシンガンやバールを構えた十数人の男たち。昨夜潰した『黒蛇会』の残党だ。
「見つけたぞ警備員どもーーっ! 昨日はよくも俺らの組織を潰してくれたな! ここで死ね!!!」
引き金が引かれ、けたたましい掃射音が響き渡る。
「やばっ!? 先輩っ、これ持っててくださいっ! ここは私に任せて!」
「……っ!?」
ほたるは手にしたネギ入りの買い物袋を古城に押し付けると、太もものベルトから拳銃を取り出す。
「今日、スカートで来てよかったです。」
仕事モード。目から光が消え、いつもの明るさが抜け落ちている。
彼女はスカートの裾を翻し、鋭いハイキックを先頭の男の顎下へ叩き込んだ。ゴカァン! と鈍い音が響き、男が天井まで吹き飛ぶ。そのまま間髪入れずに二丁拳銃を構え、正確無比な連射でサブマシンガンを弾き飛ばしていく。
(強。脚長。ハイキック美し。無駄がない。好き。強い。最高。……って、俺にネギ持たせた!? 特売のネギやら豆腐やらが入った袋を抱えながらナイフ構える古城仁、シュールすぎないか!? やっぱり俺も援護した方がいい流れだな!? 豆腐を絶対に潰すな俺の体幹!!)
古城は片手で貴重な食材を死守しながら、もう片方の手でナイフを閃かせた。襲いかかってくる残党の手首を刻み、関節を脱臼させ、無言・無表情で次々と床へ沈めていく。
「ヒッ……! 爆殺してやる、巻き添えになれぇぇ!」
追い詰められた残党のボスが、半狂乱で手榴弾のピンを抜いた。
(ちっ……!)
古城はネギの袋を庇うように抱え込み、ほたるの前に身体を滑り込ませた。
ドォン!!
爆風と破片が押し寄せ、背中に激痛が走る。私服の背中が破れ、血が滲む。
「…クソ。あいつら、むやみに手榴弾なんか使いやがって…」
「……先輩を何度も傷つけて…っ、許されるわけないですっ!! せっかくのお休みだったのに!!!!」
ほたるの仕事モードが爆発のせいで抜けている。ほたるが低空で滑り込み、ボスの喉元へ無慈悲な旋風脚を叩き込んだ。宙に浮いたボスの頭部に銃口を突きつけ、躊躇なく引き金を引く。ドサリ、と最後の敵が転がった。
襲撃開始から、わずか一分。残党集団は全滅した。
静まり返る搬入口。転がる男たちの山。
「……ハッ!?」
転がる男たちと、散らばった弾痕を見つめて___ではなく、今度は古城の持っているものを見て顔を真っ青にした。
「ああぁあ!!! っお昼ご飯のネギがぁぁ……っ! ちょっと曲がっちゃいましたぁぁ……っ!?」
絶望するほたる。膝を地面について項垂れている。
(……は? ネギの心配? 転がる死体(気絶)の上でネギ心配してるの可愛すぎるだろ。可愛い。最高。天使。)
また脳内が熱暴走を起こす。
「……落ち着け。ネギは曲がっても味に変わりはない。」
「落ち着けませんよぉ! 先輩も、背中から血出てるし…!!」
ほたるがポケットから取り出したのは、風邪薬のようなシンプルな見た目をした錠剤。
「これっ、飲んでください…! 私が調合した万能薬です。一粒で事足りるかと…!!」
「万能薬…? …わかった。」
(なんだこの薬…? 傷が塞がるとか、ほたるはふざけてるのか…?)
古城は差し出された白い錠剤一粒を、迷わずごくんと飲み込んだ。次の瞬間___
(______熱っ!?!?!?)
胃に落ちた瞬間、体内で小型のマグマが爆発したかのような激痛と灼熱感が全身を駆け巡った。爆発の勢いで爛れて割れた皮膚が猛スピードで蠢き、肉が急速に接合されていく。
「あっ、治った! 安心しました〜…!」
「…どういう、ことだ。お前、この薬は一体なんなんだ…? 万能薬、と言ってはいたが…」
「さっきも軽く説明しましたが、これは私が『異界の遺物』から作った特製万能薬なんですっ! ここの会社、これがあったおかげで裏の警備に受かったと言っても過言ではないと思うんですよね、面接官には触れられませんでしたが。…あ、あと副作用ひどいので気をつけてくださいっ!」
「副作______」
聞き終えるより早く、全身の神経を猛烈な電撃が貫いた。ビリビリビリッ! と体中が激しく震え、指先から足の先まで一切の自由が奪われる。関節が固まり、筋肉が強張る。
(あーーーッ………副作用ってこういう感じか……っこの薬。治療のスピードが異常だと思ったら、神経系を直接焼き切って強制細胞活性化させるタイプのやばい薬だ。だめだっ……ここで倒れたらほたるに余計な心配をかける。万が一ここで命が尽きたら、ほたると結婚できないっ……!! いや生きててもできないだろうけど、死んだら確率は0%、生きていれば確率は絶対に0%より多いはず……ッ、)
古城は全身の細胞が麻痺で叫びを上げる中、鬼気迫る根性で筋肉の震え方を力技で押さえ込んだ。表面上はぴくりとも動かない。
「…古城先輩? やっぱり、副作用キツすぎましたか……?」
「……問題、ない。これくらいの麻痺………想定内だ」
引き攣りそうになる口角を命がけで固定し、低く冷ややかな声を絞り出す。
(嘘嘘嘘、めっちゃ痺れてる。正直今指一本しか動かせません。心臓が麻痺の痺れとほたるの顔の近さでダブルの心不全起こしそう。あと、『異界の遺物』って体内に注入したら異形化するよな。これはその異形化を活用した薬ってことか…。飲み過ぎ注意だな)
「あぁ、よかったぁ…! 先輩が凄腕の警備員さんでよかったですっ! 私も初めは副作用にすごく悩まされました…でも今はもう克服して何粒でもいけますよっ!」
「……とりあえず、帰るぞ。『異界の遺物』を使ったその万能薬…についてはまた会社で詳しく聞かせてもらう。今聞くと長くなってネギが痛みそうだからな」
「はいっ! 傷の手当て、部屋に戻ったらまたしっかりやり直しましょう!」
転がる残党の山を置き去りに、古城は痙攣する体を無理やり動かしながら、折れたネギを抱えてまた歩き出した。
背中の傷よりも、ほたるの近すぎる距離感に古城の心臓が悲鳴を上げ続けていた。




