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1-5、料理は当番制で

「自己紹介も済んだところで」


 クレスがぱん、と手を叩き、食料庫の中身を確認する。

 食物庫は氷が一緒に入っていて、保存が効くようになっている。国の精鋭の氷魔法の氷だから、三日は溶けない。


「材料を四等分、だと、効率が悪いね」

「……それは私も思ってたけど」

「レイティア。これ、三日分に分けて、四人分ずつ料理した方が効率がいいわよ」


 ナディアの提案。

 分かってはいる。材料を予め四等分するより、四人分ずつ三日に分けた方が料理しやすい。特に、一人分をきっちり計るくらいなら、四人分作るのと手間は変わらない。

 だが、レイティアが躊躇したのには理由がある。


「私とクレスは料理できるからいいとして。四人で料理当番を日替わりで、って。アンドレアに出来る?」

「俺のせいかよ! 俺だって料理のひとつくらい」

「じゃあ聞くけど。アンドレアは料理したことあるの?」


 レイティアがやや不機嫌に言い返す。

 アンドレアはムッと口を結んだ。

 確かに自分はキッチンにすら入ったことは無い。

 しかし、アンドレアには自負心がある。自分はなんでも器用にこなせる、今までだってそうだった。

 なにをやってもそつなくこなす、それが自分だとアンドレア自身も知っている。


「最初は下手かもしれないけど。教えられたら覚えるし」

「だから! その『最初』の失敗すら許されないわよ。料理失敗したらご飯抜きよ?」

「な……それじゃ一生できないだろうが!」


 やいのやいのとアンドレアとレイティアが口論する。クレスはそれを傍から見、クスクスと笑いを漏らす。


「クレス! 他人事じゃないでしょう!」

「ごめん。ふたりが余りにも自然体だったから」

「……あ……!」


 言われてみたら、さっきまでレイティアは、アンドレアが第一王子だからと敬遠していた。それが今では、まるで何事もなかったかのように口論している。

 一文字に口を閉じて、レイティアがそろりとアンドレアを見やった。


「別に怒ってねえし」

「よかった」

「それで。アンドレア、レイティア。ナディアも。俺から提案なんだけど」


 クレスは相変わらず柔らかに笑っている。よく笑う男だと内心でレイティアは思いながら、クレスの提案を聞くことにする。


「当面は料理当番は俺とレイティアでやって、アンドレアとナディアはその補佐役。俺たちの料理を実際に見て学んで覚える。どう?」

「えー、それアンドレアとナディアだけズルくない?」

「レイティア、おまえさ。失敗はやだ、教えるのもヤダ。我儘すぎだろ」

「アンドレアに言われたくないよ」


 ふっと顔を逸らして、レイティアはため息をついた。

 現状、この案以外に道はなさそうだ。

 アンドレアは恐らく、第一王子という特殊な環境で育ったがゆえに、料理だけでなく世間一般的な常識から教えなければならないだろう。


「分かったよ。その代わり、私の邪魔だけはしないで」

「了解」


 かくして、本日の夕飯はレイティアが担当することになった。



 材料を見るに、まず最初に牛乳を使い切る必要があった。牛乳はいたむと腹を下す。肉と魚は干してある為、ある程度保存は効きそうだ。


「じゃがいも、人参は乱切り」

「乱切り……なるほど、回しながら切るのか」


 玉ねぎは櫛形に切って野菜を炒める。ベーコンも焼き付けたら小麦粉を加えてよく炒め、牛乳を入れて煮込めばシチューの完成だ。


「パンはなぁ、アンドレアの口にあうかな」

「なんだよ。王族だってパンくらい食べる」

「いや、白い上等のパンでしょ? 平民が食べるのは黒いパンよ。精白されてない小麦から作るから硬いし酸味があるの」


 器にシチューを盛り付けて、新鮮な野菜のサラダと果物をテーブルに並べる。シチューは沢山作ったため、何日かは持つだろう。


「いいにおいだな」

「まあね。イグリス王国は冬が長いから、煮込み料理が発展したの」


 アンドレア、レイティア、クレス、ナディアが各々に席に着いたら、出来たてのシチューを屠り始める。

 はふ、とシチューを口に入れたアンドレアが、ほうっと息を吐き出した。


「うま……」

「そう? ただのシチューよ」

「いや。これ、パンにつけたら美味くね?」


 レイティアとクレス、ナディアは顔を見合せて笑う。


「ああ、美味いよ」


 クレスが先にパンをシチューにつけて口に入れた。酸味のあるパンと牛乳のシチューの相性は抜群だ。

 クレスに倣ってアンドレアもシチューに浸したパンを口に入れた。パンがシチューを吸ってとろりとして美味い。

 硬い全粒粉のパンも、こうすれば十分に美味しく食べられる。


「うま……!」


 あっという間に一杯目を平らげて、アンドレアは二杯目のシチューを堪能する。


「アンドレアってもっと怖いひとかと思ったけど、案外子供よね」


 小さく、ナディアがレイティアに言った。

 この、ナディアはキーパーソンだ。仮にクレスがあの走馬灯の彼だとしたら、ナディアとくっつける必要がある。

 そして、もう一つ、思い出したことがある。

 クレスとレイティアを殺し来た人物。それが、聖女であるナディアと、


「なんだよ、俺になにかついてるか?」


 騎士団長の、青い瞳の青年――確証はないが、アンドレア。


「アンドレアって見た目に似合わず素直だよな」


 クレスの言葉に、場が和む。

 クレスは物腰柔らかで、人望も厚い。

 ふ、と笑い合う食卓は、レイティアの知る冷たい家族のそれとは違い、レイティアにはそれがなぜだか悔しかった。

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