↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/31

3-2、聖女聖別・ナディアとレイティア

 そんなことがあったから、ますますクレスもアンドレアも、レイティアという人間がわからない。わからないから、ことさら惹かれる。


「今日は、聖女聖別試験らしいね。ナディア、頑張ってきて」

「もう、レイティア、プレッシャーかけないでよ」


 夏休みも明け、聖女が正式に決められる儀式が始まる。

 ナディアはもともと、その強い加護の力ゆえにこの学校に入学してきたくらいだから、誰もが次の聖女はナディアで決まりだろうと思っていた。



 教会に場所を移し、そこで聖女の選別を受ける。

 現聖女が聖女候補の頭に触れると、聖女には額に印が浮かぶのだという。


「ねえ、アンドレアはナディアが聖女になると思う?」


 レイティアは予知夢でわかっていたが、あえて聞いた。ナディアが聖女になるのは明らかだった。


「だろうな。あいつ、加護の力磨いてきたし」


 アンドレアは暇そうにペンを指先で回した。

 聖女選別は国の一大行事のため、今日は学院は自習だ。

 そんな中、レイティアはあることに気づく。


「あっ、ナディアったら……!」


 ナディアの机に、聖石のチョーカーが置いてある。これは、母親からの贈り物で、お守りみたいなものだと肌身離さず持っているものだ。

 これがないと、うまく魔法が使えない、と言っていたのは、単なる謙遜か事実かはわからない。


「まだ時間あるし……私、ナディアに忘れ物届けてくる」


 チョーカーを持ち、レイティアは教会の礼拝堂へと小走りに向かった。



 選別のために集まった女の子が、礼拝堂に二、三十はいるだろうか。

 それをかき分けて、レイティアは無事に、ナディアにチョーカーを渡すことができた。


「ありがとう~! これがないと、私不安で。取りに帰ることもできなくて。助かったよ」

「うん、じゃあ、選別始まるから、私はこれで――」


 しかし、礼拝堂のドアがばたりと閉められる音に、レイティアは振り返った。


「現聖女さまのご神託だ。今この時を持って、この場にいる者たちを聖女聖別にかける」

「ま、待ってくささい! 私は忘れ物を届けに来ただけで」

「ご神託には逆らえん。なに、どうせ『おまえ』は聖女などには選ばれん」


 それもそうなのだが、場違いなレイティアを冷ややかな目で見る聖女候補たちの視線に殺されそうだった。


「しずまれ」


 現聖女が、礼拝堂のステンドグラスの前に現れる。

 神々しい光を放ち、まるで天使のようだった。


「この場に、いる。歴代で最も力のある、聖女が」


 その場のだれもが歓声をあげたいのを我慢した。

 聖女に選ばれることは国一番の名誉。

 聖女には一流の騎士が護衛に尽くし、王族との婚姻だってできる。

 そんな、うらのある歓声を聞くと、レイティアは少しだけ気分が悪くなる。


「ひとりずつ、ここへ」


 礼拝堂の十字架の前に、一人ずつ聖女候補が歩み出る。

 現聖女が頭に触れて、額に印が出れば、それはすなわち聖女のあかしだった。

 ひとり、またひとりと現聖女の選別を受ける。しかし、だれも印をさずかれない。

 最後に、ナディアの頭に現聖女の手が触れると、その額に黒い印が浮かび上がるのだった。


「ナディア! やっぱり!」


 レイティアは自分事のように喜んで、性別の印を授かったナディアと抱き合って喜ぶ。

 しかし、現聖女が、レイティアを指さし、


「おまえも、こちらに」

「や、私は聖女候補ではなく」

「いいや……こちらに」


 かたくなにレイティアが動かないため、現聖女自らレイティアのそばに歩いた。

 そして、現聖女が頭に触れるまでもなく、レイティアの額に光の印が浮かんでくる。

 ずき、と頭が痛む。


「ああ、ああ。聖女が二人……黒と白……陰と陽……」


 現聖女がレイティアの頭に触れると、額の印はより一層光を増して、レイティアの意識はそこで途切れた。



 意識を失うたびに見る、あの彼、あの予知。

 クレスは本当に、ナディアが好きだったのだろうか。好きだったのなら、なぜ悪魔と契約して、国を滅ぼそうとなんてしたのだろうか。

 ナディアを思っているのならば、なぜナディアの敵になったのだろうか。

 そして、なぜ、レイティアの膝の上で、安らかに息を引き取ったのだろうか。



 はっと目を覚ますと、レイティアは救護室にいた。


「おまえ、まーた倒れて。しかも聖女だ? どうかしてるんじゃねえの」


 いつだって、目を覚ました先にいるのはアンドレアだ。

 クレスは、聖女に選ばれたナディアが王さまにあいさつに行くため、護衛兵に選ばれて行動を共にしているらしかった。


「おまえさ、聖女って本当か?」

「……額に印が出たって」

「しかも、歴代最強って」

「そうなの? ナディアじゃなく?」

「おまえのほう、らしい」


 アンドレアがどこか安堵したような表情を見せた。


「アンドレア、ナディアとクレスは大丈夫なの?」

「大丈夫って?」

「いや……二人は仲がいいよねって」

「なんだよ、おまえ。クレスが好きだから、ナディアにとられないかって?」

「いや、違う違う! いや、違わない、はずなん、だけど」


 でも、あの夢の中のレイティアは、ナディアを憎んでもいないし、クレスを無下にはしなかった。

 あの気持ちは、確かに恋情だ。しかし、その矛先はクレスではなく――


「アンドレア。って、私のこと嫌いだものね」

「今その話するか?」

「いや……でも、なんでアンドレアが私の看病を?」


 やっと気づいたのか、というふうに、アンドレアはため息交じりにこたえた。


「今日から、俺はおまえの、クレスはナディアの専属の騎士だ。聖女を守るために、精いっぱいつとめる――つとめます」

「や、え? 敬語とかやめてよ。てか、ええ!?」

「そんなに嫌か? そりゃあ……上が決めたことだからな。この学院での成績考えたら、妥当だろ」


 だとして、それはすなわち、聖女を守るものとして、えにしを――婚姻の約束をしたようなものである。

 聖女を守る騎士もまた、聖別儀式で選ばれる。

 聖女と同じ印が、騎士の手の甲に刻まれるのだ。

 アンドレアは、自身の印をレイティアに見せた。やはり現実らしい。


「あの、でも。アンドレアは王子さまだし」

「だけど、聖女と比べたら、俺のほうが身分は下だ」

「うう……でも、それだけ、だよね」

「それだけ、って? ああ、婚姻まで話が進まないか、ってことか?」


 図星をつかれて、レイティアは黙り込んだ。

 前に、レイティアに告白してきたくせに、アンドレアはあまのじゃくなのかもしれない。

 レイティアはベッドを起き上がる。

 それと同時、救護室にナディアが入ってきて、おもむろにレイティアに抱き着いた。


「よかったあ! 私たち、二人とも聖女って。運命みたい!」

「ナディア……」


 でも、本来ならばレイティアは聖女になんてならなかったはずだ。少なくとも、あの予知では。

 未来が変わり始めている?


「レイティア、大丈夫?」

「ああ、うん。大丈夫。クレスも来たんだ」

「ああ。……レイティア、この際だから言っておくよ」


 クレスの瞳が、濁っている。


「俺は君が好きだった。けれど、聖女の騎士になったら話は別だ。この気持ちは生涯、胸に秘めて生き抜くよ」


 どくん、と胸がはじけた。

 そんなこと、なんで今言うのだろうか。

 クレスはレイティアが好き。なら、あの予知でクレスが「ナディアが好きだった」と言ったのは、もしかすると。


「クレスはそうやって、気持ちを抑えて生きていくの?」

「レイティア?」

「だって、私、まだ答えてない」


 しかし、クレスからレイティアを隠すように、アンドレアが立ち上がった。


「クレス。未練がましいぞ。その話はもうついただろ」

「だは、けじめくらいは」

「もう、レイティアは俺の聖女だ。だからクレス、おまえだとて、俺たちの間に入ることはできない」


 クレスの口から空気だけが漏れた。その傍らで、ナディアも苦しそうに顔をゆがめている。


「寮生活も今日から変わる。聖女になったんだ、特別な城に移らなきゃならない」

「待って。まだ貴族学院を卒業してない」

「そうも言っていられなくなった。前代未聞の二人の聖女。国は祝福のあかしだと、大々的に囲い込むだろうな」


 そんな窮屈な生活、あんまりだ。

 けれど、レイティアがそうであるように、ナディアもまた、同じ生活に身を投じることになる。

 レイティアはナディアの手を握る。


「同じ聖女として……次に会えるのを、楽しみにしてる」

「……レイティア……私も、大好きだよ」


 ふたりはしばしの別れを惜しんで、抱き合った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。