2-5、アンドレアとのきずなを深めてなるものか!
いざ、親睦会のパーティーが開かれると、レイティアは違った意味で注目を集めた。
「あのレイティアが……淡いドレスを?」
「レイティアらしくもない」
「だが、似合っているな」
レイティアは、スパンコールを一万個あしらった赤のドレスではなく、アンドレアが似合うと言った、あの淡い水色のドレス姿で現れたのである。
いつもと違う雰囲気に、周りの人間が興味を示した。柔らかな雰囲気の彼女もまた、魅力的だ。
「なんだよおまえ、赤いドレスはどうしたんだよ」
「だって。これ、似合うってアンドレアが言ったんだよ」
「聞こえてたのかよ」
「ええ、もう。ばっちりと」
レイティアがアンドレアに笑いかけると、会場中がレイティアに注目した。あんな風に柔らかに笑う人間だったのだろうか。
貴族の一人がレイティアに話しかける。
「レイティア嬢。わたしは貴族のアレクサンドと申すもの」
「あ。アレクサンドさま……!」
のちの未来でレイティアを手助けしてくれる悪役だった。レイティアはアレクサンドに向き直り、ドレスを両手でもちあげてあいさつした。
「レイティア・オルスタフです」
「噂は聞いておりましたが、お美しい」
「お世辞でもうれしゅうございます」
レイティアの周りにはいつのまにか人だかりができていて、レイティアは挨拶だけでてんやわんやだった。
結局レイティアがフリーになったのは、ダンスの曲が流れ始める、正午のことだった。
「レイティア嬢、一曲お願いします」
「ええ、喜んで」
さて、ダンスの腕はと言えば、危なげなく、なんとか乗り切ることができた程度である。ダンスに集中するあまり、ダンス中の会話なんてまったく耳に入ってこない。
「あのナディアという庶民、うっとうしいですな。平民なのに王立貴族学院に入ってきて」
「アンドレア氏とはどんなご関係で」
「クレス氏は優秀と聞きましたが、レイティア嬢はどういうご関係で」
どの問いも、「はい」とか「いいえ」としか答えないので、レイティアは腹の内が読めないしたたかな令嬢だと会場中が噂する。
ダンスも一通り終わって、レイティアはナディアたちを探した。
今日のこのパーティでは、ナディアはレイティアにドレスを汚されて退場して、アンドレアとの仲を深めるのである。
それを阻止すべく、レイティアはナディアを探した。
「あ! ナディ――」
ナディアを見つけ、レイティアが手をあげる、その時。
「きゃ」
「ナディア!」
ナディアがクラスメイトの女子に絡まれ、どうやらもめごとになったらしい。
ナディアのドレスはクラスメイトの女子によって汚された。ジュースがドレスをぬらし、ナディアは涙目で会場を後にする。
「ナディア!」
居合わせたのは、クレスとアンドレアである。レイティアもそこに合流して、
「なんてことをしたの!?」
クラスメイトをレイティアが問い詰める。
「ふん。腑抜けたあんたには関係のないことよ」
腑抜けた、を強調される。傍にいたアンドレアが、怒りを顕に、しかし声音は低くレイティアに告げる。
「ナディアはおまえをかばってもめたんだよ」
「私?」
「ああ。レイティアなんかと一緒にいると、ナディアまで格が下がると」
クレスも続ける。つまり、自分のせいでナディアがあんな目にあったのだろうか。
悔しい。悔しい。
「私、ナディアにふさわしくないね」
「なに言ってんだよ。おまえは!」
がっとアンドレアに肩をつかまれて、レイティアはハッとしたように目を見開いた。
「おまえとナディアは友達だ。あいつそう言って泣いてたんだぞ!?」
「ナディアが?」
「そうだよ。おまえが弱気になってどうすんだよ」
アンドレアはやけにナディアの肩を持つ。
アンドレアは、やはりナディアに気があるのだろうか。
アンドレアはレイティアの肩から手を離すと、踵を返す。後ろ手に、
「俺、ナディアのとこ行ってくる」
「ま、待って!」
ふたりきりにしたら、未来が予知通りに進んでしまう。ここはクレスに行かせたい。
「クレスが行ったほうがいい」
「は? おまえなに言ってんだよ」
意味わかんね、とアンドレアがレイティアを見る。レイティアはなにか策はないかと思案して、
「三人で行こう。私たちはみんな、ナディアの友達なんだから」
「……そうだな。レイティアの言う通りだ」
クレスが先に同意して、アンドレアは渋々同意を示すようにゆっくりと歩き出す。
これでアンドレアとナディアの未来は阻止できるだろうか。
レイティアはそんなことを思いながら、城の階段の踊り場で泣いているであろうナディアを探しに行くのだった。
階段の踊り場に行くと、ナディアが膝を抱えて泣いていた。レイティアもアンドレアもクレスも、しゃがみ込んでナディアの顔を覗き込む。
「ナディア。大丈夫?」
レイティアは、なんとしてもアンドレアルートを阻止したい。だから率先してナディアに声を掛けた。その自分のあさましさに、ハッとしてレイティアは言葉を失った。
「レイティア?」
「あ、ああ。ナディア。ごめんね、私のせいで変な話になって。ドレスも」
とはいえ、今日は念のためレイティアの家のものに、予備のドレスを持ってこさせた。ナディアがこのパーティーに戻れるようにするためだった。そうすれば、きっとアンドレアに心を寄せることもないだろう。
この予知夢で問題なのは、アンドレアがナディアを慰め、そして二人でパーティーを離脱するところにある。二人きりの秘密なんて、絆を上げるにはもってこいだ。レイティアはアンドレアとクレスに事情を話す。
「こういうことがあるかと思って、予備のドレスを持ってきたの」
「はっ。だとして、オマエのサイズで着られるのか、ナディアは」
「うん、多分大丈夫」
よもや、ナディアのサイズのものをあつらえていたとは言い出せなかった。レイティアが困っていると、ナディアが顔を上げて、レイティアの手をつかんだ。震えている。
「ありがとう、レイティア。でも、私はもう、このパーティーには戻りたくない」
「なんで。このパーティーは特別だって、ナディアが言ったんだよ」
「だって、だって。大体、レイティアを悪く言う人間なんかと一緒に過ごしたくないし。そうよ、なんでレイティアが悪く言われなきゃならないの」
次第にプリプリと怒り出し、ナディアは元気になったようでレイティアは安堵する。ナディアを立ち上がらせて、ドレスを見る。
「うん、このくらいのシミなら、私の家ですぐに抜けるよ」
「え、本当に」
「うん。それで、ねえ、ナディア。私のためと思って、パーティに戻ってくれない?」
ううう、とナディアがうなっている。今日のためにレイティアは様々な手段を講じてきた。特に、アンドレとの仲を阻止するための準備だ。
傍ら、アンドレアとクレスは、準備のいいレイティアに違和感を抱くよりも、レイティアという人間の周到さに感心していた。
なるほど、レイティアは名ばかりの悪役令嬢じゃないらしい。こうやって何重にも根回しして生きてきたから、周りの人間も一目置いていたのだ。
「ナディア。戻るぞ」
アンドレア。
「そうだね。戻ろう、ナディア」
クレスもそう言って、ナディアに手を差し伸べた。ナディアは立ち上がると、レイティアと腕を組む。
「いやいや、ナディア? クレスと腕組みなって」
「ううん、私、着替えたら、レイティアと一曲踊りたいの」
「ええ、なんで」
「なんでも!」
かくして、レイティアの計らいでナディアは新しいドレスに着替える。
ナディアに似合う、淡い黄色のドレスだ。
一緒に試着に行った際、とても似合うと思って買っておいてよかったと、レイティアはほっと胸をなでおろした。




