2-4、レイティアの意外な一面
折角街にでたからと、レイティアたちは露店を見て回ることになった。
その、ひとつひとつが珍しく、レイティアは感嘆の声をあげっぱなしだった。
「これはなに?」
「塩漬けの肉だよ」
「これは?」
「子供用のアクセサリーよ。もう、レイティアって子供みたい」
露店のキラキラ光るネックレスを手に取り、レイティアはそれを太陽にかざしている。光を反射して綺麗だった。
「私。これ買う」
「は? おもちゃだろ」
「でも、綺麗」
ふわ、と笑って、レイティアがネックレスを首元に持っていった。
クレスもアンドレアも、そしてナディアまでもが胸を射抜かれる。
無防備だ。
こんなレイティアの姿を見て、落ちない人間なんているのだろうか。
ナディアが懐から財布を取り出す。
「私に払わせて」
ナディアがレイティアの前に出る。
「え、悪いよ」
「いいの。今日のドレス選びのお礼」
本当は、ドレス選びなんて二の次だった。ナディアはクレスとアンドレアとの仲を深めたかった。結果的にそれは成功と言えるだろう。
クレスもアンドレアも、悪役令嬢だったころのイメージが抜けず、どこかレイティアに踏み込めない。それを、ナディアが仲介したのだ。
知らぬはレイティアのみである。
「ほら、クレスもアンドレアも、なにか言いなよ」
ナディアが買ってくれたネックレスを首にさげ、レイティアが上機嫌に前を歩く。
「レイティア……似合ってる」
クレスは素直にレイティアを褒め、
「別に。俺は騙されないからな」
アンドレアは警戒心をより一層強めるのだった。
「え、ダンスがあるの?」
ドレスの仕上がりの目安が決まったころ、だしぬけにレイティアが驚いた様子でナディアに言った。ナディアが目を真ん丸にして、
「レイティアともあろう人が、ダンスごときで動揺するなんて」
「いや……私ダンスとか無理なんだけど」
「またまたまた」
しかし、最近のレイティアは確かにおかしい。テニスだってできなかったし、ならば本当にダンスもできないのだろうか。
「てことで、クレスとアンドレアに手伝ってほしいの」
昼休み、学校のホールを借りて、四人はダンスの練習をすることになった。
ナディアの話によれば、レイティアはダンスができないらしい。
そんな馬鹿な、とアンドレアもクレスも笑い飛ばしたが、いざ実際にダンスしてみると、なるほどどうして、レイティアにはダンスの素養がみじんもなかった。
あの予知夢は、どうやら予知を見せる代わりに、レイティアからなんらかの代償を奪うようだった。
それは傲慢な性格だったり、ダンスの心得だったり。
だから、レイティアはクレスとアンドレアに、ダンスを教わる他になかった。
試しにアンドレア、クレスの順にエスコートしてもらうが、やはりそれは、まったく形をなしていない。ダンスの基礎すら踏めていなかった。
「いて。おい、足踏むな」
「ご、ごめん」
「あ、大丈夫かい?」
「ごめん、すそふんじゃって」
こんな調子で、このまま親睦会のパーティーに出たら恥もいいところだろう。
ナディアとクレス、そしてアンドレアまでもが意見を一致させる。
「今日からしばらく、ダンスの特訓をします!」
ナディアからの提案を、レイティアは断った。
「いや、いいよ。ダンスなんて踊らなければ済む話だし」
「そうはいかないでしょ。パーティーの目玉なのよ?」
「そもそもおまえ、自分が誘われない前提なのかよ。あのおまえが?」
ナディアとアンドレアに攻め立てられ、レイティアはしゅんと首を下げた。
まるで子犬の様にかわいらしく、三人ともきゅんと胸がうずいた。
「じゃなくて。レイティア。私じゃ男子の役はできないから、クレスかアンドレア。時間がある方に特訓してもらわないと」
「ええ、やだよ、ふたりに迷惑かけるのは」
「迷惑じゃないよ。レイティア、俺たちは友達だろう?」
救いたい彼の優しい言葉に泣きたくなった。
確かに、あのイパーティでたくさんの人間とつながりを持てば、後々のクレスの幸せな未来への足掛かりになるかもしれない。
ならば、ダンスは踊れるに越したことはない。
「じゃ、じゃあ、頼もうかな」
「俺はパス。おまえのどんくさいダンスなんかに付き合ってられるか」
「あ。うん……じゃあ、クレスにお願いする」
かくして、ダンス訓練が幕を開けるのだった。
最初は足を踏んだり裾を踏んだりで、ダンスなんて様にならない。
「ごめん、思ったより私、才能がないね」
「いや、……そういう君も新鮮。というか」
「はあ。新鮮?」
悪役令嬢としてのレイティアは、完璧な人間だった。だからこういうふうに、人間臭く努力なんてしているところを見ると、変な気持ちになる。
そう、クレスは言いたいらしい。
「でも、この国ではダンスはたしなみなのに。なんだか恥ずかしくなってきた」
「そんなこと。俺はこうやって、レイティアとふたりでなにかをするの、楽しいな」
ふわ、と笑われて、レイティアの胸がきゅんとなった。さすがエメラルドの君である。破壊力抜群だ。
クレスはレイティアの手を取り、腰に手を回す。密着した姿勢でステップを踏む。
ワン・ツー・スリー。
「うん、上手上手」
「わ、足が、えっと」
「その調子」
「あ、わ、わ、」
危なっかしいながらも、なんとか形が見えてくる。本来のレイティアの能力の高さゆえか、ダンスの特訓は一週間もあれば大丈夫だろう。
「クレス、レイティア! もう授業始まっちゃう!」
「あ、うん、ナディア。今行く。ね、クレス」
「うん?」
「ありがとう」
ふと笑ったそれが、花の様に美しかった。
クレスは名残惜しそうにレイティアの手を離す。
レイティアは蝶のように自由で可憐に美しい。
レイティアは変わった。なぜだかがはわからないが、レイティアという人間は、こんなにも魅力的で。
「アンドレアも、同じ気持ちなんだろうな」
こんなにも、惹かれる。
クレスはレイティアにばれないように、その後ろ姿を目で追った。
きれいな金色の髪の毛がひらりと揺れて、美しくも儚かった。




