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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第32話 小説

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(三)少し書きやすい

◆ 猫と話せても戦えない


うちの人間は考えた。


「でも、猫と話せても戦えないか」


すぐに戦いへ戻る。


能力の価値を、敵を倒せるかどうかで測っている。


猫と話せれば、猫が何を望んでいるか分かる。


触るなと言っているときに触らずに済む。


食事の時間を間違えない。


病院へ連れていく理由を説明できる。


うちの人間にとっては、剣より必要な力かもしれない。


だが、異世界で周囲を驚かせるには弱いと思ったらしい。


「やっぱり、地味だな」


地味ではない。


人間が使い方を思いつかないだけである。


うちの人間は、猫と話せる能力も消した。


次に、追放される話を書き始めた。


主人公は役立たずだと思われている。


仲間から追い出される。


だが、実は主人公の力が最も重要だった。


主人公がいなくなったあと、元の仲間たちは困る。


新しい場所では、主人公の力が高く評価される。


うちの人間の指は、再びよく動いた。


好きな形だからである。


「これは書けるかも」


しばらくすると、止まった。


「何の能力で追放されるんだろう」


そこからだった。


何も決まっていないのに、追放だけ先に決めたらしい。


役立たずに見える。


実は強い。


いなくなると困る。


その条件に合う力を考える。


うちの人間は、いくつも候補を出した。


補助。


治療。


荷物運び。


地図を作る。


敵の力を弱める。


仲間の疲れを減らす。


どれも、どこかで見た気がする。


うちの人間は頭を抱えた。


「何を考えても、もう誰かが書いてる」


◆ 何を考えても、もう誰かが書いてる


人間の数は多い。


昔から多くの者が話を作ってきた。


剣。


魔法。


異世界。


強い主人公。


追放。


復讐。


恋愛。


家族。


旅。


まったく誰も使ったことのないものを探せば、難しいだろう。


だが、誰かが猫を書いたからといって、すべての猫が同じになるわけではない。


黒い猫。


白い猫。


大きな猫。


小さな猫。


よく鳴く猫。


あまり鳴かない猫。


同じ黒猫でも、シジミと別の黒猫は違う。


どこで眠るか。


何を警戒するか。


人間をどの程度信用するか。


同じ状況でも、選ぶ行動が違う。


題材が同じでも、中身まですべて同じにはならない。


ただし、違いは勝手には生まれない。


書く者が、何を見るかで変わる。


うちの人間は、強い主人公が好きである。


だが、なぜ強い主人公が好きなのか。


どのような強さが好きなのか。


強い力を得たあと、何をしてほしいのか。


周囲へ認められたいのか。


静かに暮らしたいのか。


誰かを守りたいのか。


自分を追い出した者へ見せつけたいのか。


そこまで考えていなかった。


ただ、


俺TUEEE系が好き。


だから俺TUEEE系を書く。


それだけだった。


◆ 書くために調べる


うちの人間は絵の光る板を開き、今度は小説の書き方を調べ始めた。


「魅力的な主人公の作り方」


「ありきたりにならない設定」


「テンプレから個性を出す方法」


次々に別の文章を読む。


書くために調べ始めたはずが、また読む側へ戻っている。


一つ読む。


別のものを読む。


関連する映像を見る。


おすすめされた別の話を読む。


気づけば、かなり時間がたっていた。


白い画面には、ほとんど何も増えていない。


人間は何かを始めようとすると、その方法を調べることに夢中になる。


準備をする。


道具をそろえる。


詳しい者の話を読む。


失敗しない方法を探す。


そして、実際に始める時間がなくなる。


うちの人間は画面を見ながら言った。


「なるほど。主人公に目的が必要なんだ」


それは最初からそうだろう。


「欠点もあったほうがいい」


完全に何でもできる者では動かしにくいと、先ほど自分でも気づいていた。


「世界の仕組みも決めたほうがいいのか」


今まで決めずに書いていたのか。


調べて分かることもある。


だが、人間は書かれている助言を読むたび、それを新しく発見したように受け取る。


◆ 少し書きやすい


うちの人間は、もう一度白い画面へ戻った。


そして、新しい話を書き始めた。


主人公は異世界へ転移する。


好きな場所へ一瞬で移動できる力を得る。


だが、その力を戦いには使わない。


朝、ぎりぎりまで眠る。


遠くの町へ食事だけ買いに行く。


忘れ物を取りに戻る。


雨が降れば、濡れる前に家へ帰る。


うちの人間の指が少し速く動いた。


主人公は強い。


使い方によっては、誰にも捕まらない。


どこへでも行ける。


だが、本人が望んでいるのは、少し楽をすることである。


それは、うちの人間が以前考えていたことに近い。


異世界へ行っても、特別な力で世界を救うとは限らない。


眠る時間を増やす。


買い物を楽にする。


雨を避ける。


うちの人間なら、本当にそのように使うだろう。



※第32話「小説」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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