(四)仲良くお昼寝
◆ 好かれている証拠
翌朝。
姪は目を覚ますと、すぐにシジミを探した。
「いた」
見つけるのが早い。
うちの人間はまだ眠そうである。
「シジミ、姪ちゃんのこと気に入ったみたい。近くで寝てたね」
違う。
たまたま安全な位置がそこだっただけである。
姪も、うちの人間の言葉を信じてはいないようだった。
「近くじゃないよ」
正しい。
うちの人間が笑う。
「でも同じ部屋にいたでしょ?」
家の中である。
同じ部屋にいることくらいある。
それだけで好意の証明にはならない。
人間は、嫌われていない証拠を少しでも見つけると、好かれている証拠へ変える。
逃げなかった。
ならば安心している。
近くにいた。
ならば好き。
食事を受け取った。
ならば仲良し。
間にある多くの可能性を飛ばす。
◆ シジミの道
朝食のあと。
姪は床へ座り、何かを組み立てていた。
小さな板を重ねる。
並べる。
崩す。
また積む。
シジミは長椅子の上から見ていた。
姪がときどきこちらを見る。
だが、追ってはこない。
昨日より落ち着いている。
シジミも少し目を閉じた。
姪が板を一枚、少し離れた場所へ置いた。
その上に別の板を重ねる。
少しずつ、シジミのいる長椅子へ近づけている。
何をしているのかと思った。
やがて、板の道が長椅子の近くまで伸びた。
姪は小さな声で言った。
「シジミの道」
必要ない。
シジミは床を歩ける。
姪は板の上へ、小さな玩具を置いた。
シジミが近づくことを期待しているらしい。
シジミは動かなかった。
姪は玩具を少し揺らした。
シジミの耳が動く。
姪がすぐに気づく。
「見た」
見ただけである。
姪はもう一度揺らす。
シジミの視線が少し動く。
「見てる」
見ているだけである。
姪は玩具を少し遠ざけた。
追わせるつもりらしい。
だが、シジミは動かない。
姪はしばらく待った。
そして、玩具をシジミの近くへ持ってきた。
近づかないなら、玩具のほうを近づける。
筋は通っている。
シジミは前足で一度だけ玩具を押した。
姪の顔が明るくなる。
「遊んだ!」
遊んでいない。
邪魔だったので動かしただけである。
うちの人間が台所から顔を出す。
「仲良く遊んでるの?」
遊んでいない。
姪は少し考えてから答えた。
「ちがう」
そこは正しい。
「シジミが、どけた」
よく分かっている。
うちの人間が笑った。
「それも遊びだよ」
違う。
なぜ姪より理解が浅いのだろう。
姪は玩具をもう一度置いた。
シジミが動かない。
少し近づける。
シジミが顔をそむける。
姪は止めた。
そして玩具を自分のところへ戻した。
学習している。
動物的な観察力に、人間的な抑制が少しずつ加わっているようだ。
このままなら、数日後には適切な距離を覚えるかもしれない。
◆ 仲良くお昼寝
その日の午後。
姪は眠くなったらしい。
長椅子の端へ座り、少しずつ動きが鈍くなる。
うちの人間が尋ねる。
「お昼寝する?」
姪は首を振った。
「しない」
目は半分閉じている。
「眠そうだよ」
「ねむくない」
人間の子どもは、眠いときほど眠くないと言う。
腹が減れば、食べないと言う。
帰る時間になれば、帰らないと言う。
自分の状態を正しく感じていても、認めたくないらしい。
そこは大人の人間とあまり変わらない。
うちの人間も、夜遅くに目をこすりながら、
「まだ眠くない」
と言う。
姪は長椅子へ横になった。
それでも、
「ねない」
と言った。
すぐに眠った。
シジミは少し離れた場所から見る。
子どもは眠ると、警戒すべき動きがなくなる。
手も伸びてこない。
目も追ってこない。
呼吸も一定である。
シジミは長椅子の反対側へ上がった。
十分に距離を取る。
姪は起きない。
しばらくすると、うちの人間が部屋へ戻ってきた。
長椅子の端に姪。
反対側にシジミ。
二人とも静かにしている。
うちの人間は、すぐに絵の光る板を取り出した。
音を立てずに写真を撮る。
「かわいい。仲良くお昼寝してる」
違う。
姪は勝手に眠った。
シジミは空いていた場所へ座った。
互いに何もしていない。
それだけである。
だが、うちの人間には、仲良く並んで眠っているように見える。
※第28話「姪」は全五回です。
続きます。
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