(二)まだウグイスっぽい
◆ 答えが顔に出ている
うちの人間は、撮った写真を絵の光る板で見始めた。
指で広げる。
メジロの顔が大きく表示される。
白い目の周りが、はっきり見える。
名前を知らなくても、かなり特徴的である。
それでも、うちの人間は気づかない。
「目の周り、白くてかわいい」
そこまで見て、なぜ分からない。
白い目の周り。
メジロ。
答えがそのまま顔に出ている。
人間は、文字を多く知っている。
名前も多くつける。
そのわりに、名前と特徴を結びつけないことがある。
メジロという名を知らないなら、仕方がない。
だが、うちの人間は以前にも聞いたことがあるはずだ。
絵の動く箱で、
「梅の花にメジロ」
という映像を見ていた。
そのときも、
「ウグイスみたい」
と言っていた。
似ていると思うところまではよい。
そこから調べなかった。
そして今、実物を見ても同じ間違いをしている。
一度覚えなかったことは、次も覚えないらしい。
◆ メジロ?
うちの人間は写真を誰かへ送った。
しばらくして、返事が来た。
画面に文字が表示される。
『それ、ウグイスじゃなくてメジロじゃない?』
ようやく指摘する者が現れた。
うちの人間は画面と庭を交互に見た。
「メジロ?」
そうである。
もう一度、写真を大きくする。
白い目の周りを見る。
「本当だ。目の周りが白い」
最初から白い。
指摘される前から白かった。
写真を拡大しなくても白かった。
うちの人間が見ていなかっただけである。
絵の光る板で調べ始める。
「メジロは目の周りが白いからメジロ……」
そのままである。
「体は緑色……」
今、見ている。
「果物の甘いものが好き……」
今、食べている。
人間は自分の目の前で起きていることでも、文字に書かれて初めて納得することがある。
実物がいる。
目の周りは白い。
果物を食べている。
それでも、自分の観察だけでは確定しない。
絵の光る板に書かれていれば、
「なるほど」
と言う。
目の前の鳥より、遠くの誰かが書いた文字のほうを信用している。
◆ ウグイスって、こんなに地味なの?
うちの人間は、さらに調べた。
画面に本物のウグイスの姿が表示される。
緑というより、茶色に近い。
周囲へ溶け込むような、落ち着いた色である。
うちの人間は目を丸くした。
「ウグイスって、こんなに地味なの?」
ウグイスに謝ったほうがよい。
地味なのではない。
その色で暮らしている。
藪や木の中で目立ちにくい。
敵から見つかりにくい。
生きるために都合のよい色なのだろう。
人間に見つけてもらうために羽の色を決めているわけではない。
それなのに、自分が思っていた緑色と違うだけで、
「地味」
と評価する。
うちの人間は画面を見ながら首を傾げた。
「じゃあ、ウグイス色って何?」
それは人間に聞いてほしい。
鳥に責任はない。
人間が色へウグイスの名をつけた。
その色から、明るい緑の鳥を想像した。
実際に明るい緑の鳥を見て、ウグイスと呼んだ。
そして、本物のウグイスを見て、
「思っていたより地味」
と言う。
最初から最後まで、人間の中だけで起きている。
ウグイスは何もしていない。
自分の色をウグイス色と呼んでほしいとも言っていない。
メジロもウグイスのふりをしていない。
緑色の体で果物を食べているだけである。
間違えたのは人間だ。
それなのに、最後には本物のウグイスの色へ不満を持つ。
ずいぶん勝手である。
◆ まだウグイスっぽい
庭のメジロたちは、まだ果物を食べていた。
うちの人間は窓へ顔を近づけた。
「ごめんね。メジロだったんだね」
メジロには、謝られている理由が分からない。
一羽が首を傾げた。
「何か言ってる」
もう一羽が果物をつつく。
「食べていいって言ってるんじゃない?」
「最初から食べてる」
「なら問題ない」
実際、問題はない。
名前を間違えられても、果物は同じ味である。
うちの人間は写真を見直した。
「でも、やっぱりウグイスっぽいよね」
まだ言う。
何をもってウグイスっぽいと判断しているのだろう。
実際のウグイスは、今見た写真の姿である。
目の前のメジロとは違う。
それでも、自分の中にあるウグイスの印象のほうを捨てられない。
本物より、思い込みのほうが強い。
※第27話「メジロとウグイス」は全三回です。
続きます。
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