(五)最後の大きな欠片
◆ 親子スズメ、仲良しだね
うちの人間は窓辺から、その様子を眺めていた。
子スズメが成鳥へ近づく。
羽を震わせる。
成鳥が食事を口へ入れる。
うちの人間はうれしそうに言った。
「親子スズメ、仲良しだね」
違う。
他人である。
今、食事を与えたスズメは、親ではない。
むしろ、先ほどまで、
「オレは親じゃない」
と何度も言っていた。
仲良く与えたのでもない。
しつこくねだられ、嫌々渡した。
子スズメは礼も言わない。
食べた直後に、
「もっと!」
と要求している。
親子の愛情あふれる食事ではない。
知らない子に絡まれたスズメが、根負けしただけである。
うちの人間には、どのスズメが親なのか見分けられない。
大きいスズメが、小さいスズメへ食事を渡した。
だから親子。
それだけである。
別の場所では、本当の親スズメが、自分の子へ食事を与えている。
その隣では、朝食軍団のスズメが、知らない子へ食事を押しつけるように渡している。
人間には、どちらも同じに見える。
「みんなで子育てしてるのかな」
していない。
少なくとも、自分から協力しているわけではない。
朝食軍団のスズメたちは、自分の食事を取られて困っている。
子スズメが親を間違えている。
あるいは、親でなくても食事をくれる相手として利用している。
それだけだ。
ただ、結果だけを見れば、知らない子へ食事を与えている。
子スズメも食べている。
完全な間違いとも言い切れないところが、少しややこしい。
意思はない。
計画もない。
集団で子育てをしようと決めたわけではない。
だが、子がねだる。
大人が反応する。
食事が渡る。
結果として、親以外からも食事を得ている。
自然の中では、本人たちが意図していなくても、似たような助け合いになることがあるのかもしれない。
◆ 誰も平和ではない
もっとも、与えた側は不満そうである。
「また来た!」
「こっち見るな!」
「口を開けるな!」
「飯!」
「親のところへ行け!」
本当の親スズメが、少し離れた場所から鳴いた。
「こっち!」
子スズメは声の方向を見る。
だが、目の前の別のスズメが食事をくわえている。
少し迷う。
そして、近いほうへ口を開けた。
「飯!」
「お前の親が呼んでるだろ!」
「飯!」
「そっちへ行け!」
「今持ってる」
「これはオレのだ!」
子スズメは、親より目の前の食事を選んだ。
親スズメが怒る。
「うちの子に勝手に与えるな!」
朝食軍団のスズメも怒る。
「こっちだって与えたくない!」
「じゃあ、やるな!」
「口を開けて離れないんだ!」
「無視しろ!」
「お前が先に連れていけ!」
今度は親と他人が言い争い始めた。
子スズメは、そのあいだにも口を開けている。
「飯!」
誰も平和ではない。
うちの人間だけが、目を細めている。
「かわいいなあ」
見えているものが違いすぎる。
◆ 最後の大きな欠片
うちの人間には、親子が仲良く朝食を取っている。
大人のスズメたちが、みんなで子を見守っている。
子スズメが甘え、大人が優しく食事を与えている。
そのような風景に見えている。
実際には、
親ではない。
自分で取れ。
口を開けるな。
うちの子に勝手に与えるな。
なら自分で連れていけ。
朝からそのような声が飛び交っている。
食事が減るにつれ、さらに混乱は大きくなった。
残りが少ない。
朝食軍団は、自分の分を確保したい。
子スズメたちは、まだ親や他人へねだる。
親スズメは、自分の子へ食べさせたい。
一羽が最後の大きな欠片を取る。
子スズメが近づく。
「飯!」
「これは駄目だ!」
「飯!」
「さっきやった!」
「もっと!」
「自分で取れ!」
別の子スズメも気づく。
「飯!」
「増えた!」
二羽が同時に羽を震わせる。
朝食軍団のスズメは、大きな欠片をくわえたまま後ろへ下がる。
「来るな!」
子スズメたちは追う。
「飯!」
「飯!」
「これはオレのだ!」
そのスズメは飛び立った。
子スズメたちもあとを追う。
飛び方はまだ不安定だが、食事が関わると速い。
別の木へ移る。
※第26話「巣立ちびな合流」は全六回です。
続きます。
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