(四)原因はうちの人間
◆ 仲間だから安全とは限らない
親スズメは正しい。
同じ種類なら、すべて信用できるわけではない。
ほかの巣へ近づく。
食事を奪う。
子を攻撃する。
そのようなことが絶対にないとは限らない。
子育て中は、念のため警戒する。
仲間だから安全だろうと決めつけるより、そのほうがよい。
大きな欠片を持ったスズメは、追われて別の木へ移った。
「神経質だな!」
親スズメが言い返す。
「子育て中なんだ!」
以前、うちの人間がカラスへ言ったことと似ている。
気性が荒い。
神経質だ。
相手が何かを守っていることを考えず、警戒される側は相手の性格の問題にする。
自分が巣へ近づいた。
自分が大声で騒いだ。
それでも、
「相手が神経質」
で終わらせる。
鳥も人間と、それほど変わらないところがあるらしい。
◆ 仲間が増えてうれしい?
うちの人間は、庭で食事をついばむスズメを眺めていた。
「仲間が増えて、うれしいのかな」
違う。
むしろ減ってほしいと思っている。
巣の親からすれば、朝食のスズメ軍団は仲間ではなく、毎朝家の前へ集まる騒がしい集団である。
同じ種類が近くにいれば安心することもあるだろう。
危険に気づきやすい。
敵が来れば一斉に逃げられる。
だが、巣の場所が知られる。
鳴き声で目立つ。
食事を奪い合う。
子育て中には、邪魔になる面も多い。
人間は、同じ種類の動物が一緒にいれば喜んでいると思う。
猫同士なら友達。
犬同士なら遊び相手。
鳥が集まれば仲間。
だが、人間同士だって、近くにいれば全員仲良くなるわけではない。
同じ家の近くに住む。
同じ場所で食事をする。
同じ時間に外へ出る。
それだけで、相手へ不満を持つこともある。
自分たちはそうなのに、鳥は同じ種類なら仲良しだと思う。
ずいぶん単純である。
うちの人間は、屋根の入口から顔を出す親スズメへ気づいた。
「あ、巣の子も見てる」
見ているのは親である。
そして、楽しそうに眺めているのではない。
早く帰れと思っている。
◆ もうないだろ
庭の食事が減ってくると、スズメ軍団は少しずつ飛び去った。
最後まで残った二羽が、小さな粒を探して地面を跳ねる。
親スズメが屋根から鳴く。
「もうないだろ!」
一羽が答える。
「まだあるかもしれない!」
「ない!」
「探してるんだ!」
「ほかで探せ!」
ようやく最後の二羽も飛んでいった。
庭が静かになる。
親スズメは、しばらく周囲を見た。
それから巣の中へ戻る。
ひなたちの声が聞こえる。
「飯!」
「遅い!」
「腹減った!」
親スズメは、休む間もなく再び外へ飛び出した。
今度は自分の子の食事を探しに行く。
先ほどまで朝食を食べていたスズメ軍団とは違い、庭へは降りなかった。
別の方向へ飛んでいく。
ひなに適した食事を探すのだろう。
うちの人間が、飛んでいく親スズメを見送った。
「みんな朝から元気だねえ」
元気だから騒いでいたのではない。
腹が減っていた。
子を守っていた。
巣の前から追い払おうとしていた。
それぞれの事情が重なった結果である。
◆ 翌朝も同じ
翌朝も、同じことが起きた。
スズメ軍団が来る。
「飯!」
親スズメが怒る。
「騒ぐな!」
スズメ軍団が言い返す。
「人間を起こしてる!」
「別の場所でやれ!」
「ここが一番早い!」
うちの人間が起きる。
食事をまく。
スズメ軍団が降りる。
親スズメが警戒する。
そして、うちの人間だけが笑う。
「今日も平和だなあ」
人間には言葉の意味が分からない。
だから、どれほど激しく言い争っていても、かわいらしい鳥の声にしか聞こえない。
小さな鳥が集まっている。
朝日が当たっている。
庭で食事をしている。
屋根では子育てをしている。
その表面だけを見れば、たしかに平和に見える。
だが、朝食のスズメ軍団は、巣の夫婦を神経質だと思っている。
巣の夫婦は、スズメ軍団を騒がしい邪魔者だと思っている。
互いに同じ種類だからといって、譲る気はない。
それでも翌朝には、また同じ場所へ集まる。
庭に食事が出るからである。
◆ 原因はうちの人間
原因は、うちの人間だった。
うちの人間が毎朝食事をまく。
だからスズメ軍団が来る。
巣の前で騒ぐ。
親スズメが怒る。
その争いを作っている本人が、温かい飲み物を手に眺めながら、
「平和だなあ」
と言っている。
カラスがいなくなった。
ムクドリもいなくなった。
次はスズメが巣を作った。
そして、スズメ同士で争い始めた。
平和にならない原因は、鳥が次々に来ることだけではない。
うちの人間が食事を出し続けていることにもある。
だが、本人は少しも気づいていない。
シジミは猫語でつぶやく。
「本当に人間ってあさはかな生き物だよね」
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