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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第18話 精神年齢

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(二)どちらが子どもか

◆ 荷物、まだかなあ


その日の夜。


帰ってきたうちの人間は、いつもより落ち着きがなかった。


上着を脱ぎ、柔らかな部屋着へ着替える。


肩へ落ちた髪を後ろでまとめる。


それから何度も、光る板を確認した。


画面を見る。


置く。


少し歩く。


また見る。


窓の外を見る。


扉のほうを見る。


そして、また画面を見る。


何かを待っているらしい。


「まだ来ない」


シジミは長椅子の上から、その様子を見ていた。


うちの人間は画面を指で触る。


「今日届くって書いてあるのに」


荷物が届く予定らしい。


必要なものなのだろうか。


食事か。


水か。


シジミの食べ物か。


それなら、待つ気持ちは分かる。


だが、うちの人間が画面に表示したものは、小さな鞄だった。


家には、すでに似たような鞄がいくつもある。


明日まで届かなくても、何も困らない。


それでも、うちの人間は数分ごとに画面を確認する。


「今、どこにあるんだろう」


画面を何度見ても、荷物が早く動くわけではない。


配達する人間が、うちの人間の視線に気づいて急ぐわけでもない。


だが、見ずにはいられないらしい。


そのとき、シジミの食事の時間までは、まだ少しあった。


シジミは食事の置かれている棚の前へ移動した。


うちの人間を見る。


うちの人間も、シジミを見た。


「ごはんは、まだだよ」


分かっている。


少し早いことは承知している。


出る可能性があるので確認しただけだ。


うちの人間が出さないなら、時間まで待てばよい。


シジミは棚の前へ座った。


うちの人間は、また光る板を見る。


「荷物、まだかなあ」


自分は待てないらしい。


シジミの食事には、


「まだ」


と言う。


自分の鞄には、


「まだ?」


と言う。


同じ待つという行為でも、自分が待つ側になると急に難しくなるようだ。


◆ 今日中って、何時まで?


うちの人間は部屋の中を歩き回った。


「そろそろ来てもいいよね」


誰へ確認しているのだろう。


シジミは返事をしない。


「今日中って、何時まで?」


今日が終わるまでである。


うちの人間は時間も読める。


時計も使える。


それなのに、今日中という言葉の意味が急に分からなくなったらしい。


欲しいものを待っていると、人間の知能は下がるのだろうか。


シジミは静かに食事を待った。


途中で一度、棚を見た。


だが、鳴かなかった。


時間が来れば出る。


出なければ鳴けばよい。


まだ何も起きていないうちから、不満を言う必要はない。


うちの人間は、何も起きていない段階で、すでに不満そうだった。


荷物は届いていない。


ただし、届かないと決まったわけではない。


遅れているとも限らない。


今日という時間は、まだ残っている。


それでも、


「遅い」


と決めている。


人間は未来を予想できる。


その能力は便利だ。


だが、悪い未来まで先に想像し、その想像へ腹を立てることがある。


起きていないことへ、先に不機嫌になる。


知能が高いというのも、扱い方を間違えると面倒である。


◆ 来た!


やがて、扉の外から物音がした。


うちの人間が立ち上がる。


先ほどまで疲れたと言っていたとは思えない速さだった。


呼び出しの音が鳴る。


うちの人間は、ほとんど走るように扉へ向かった。


荷物を受け取る。


そして、満足そうな顔で戻ってきた。


「来た!」


見れば分かる。


うちの人間は床へ座り、すぐに箱を開け始めた。


少し前まで、


「遅い」


「まだ来ない」


と不満を言っていたのに、荷物が届いた瞬間、すべて忘れたようである。


箱の中から、小さな鞄が出てきた。


うちの人間は持ち上げ、正面から見る。


横から見る。


肩へかける。


鏡の前へ移動する。


髪を整える。


鞄の位置を変える。


また鏡を見る。


「かわいい」


届く前から、画面で何度も見ていたはずだ。


形も、色も、大きさも知っていた。


それでも、実物を見ると初めて知ったように喜ぶ。


うちの人間は鞄へ夢中になり、空になった箱を床へ置いた。


シジミは箱へ近づいた。


匂いを確かめる。


知らない場所の匂い。


紙の匂い。


少しだけ、鞄の匂いもついている。


大きさも悪くない。


シジミは箱の中へ入った。


体を一度回し、座る。


ちょうどよい。


◆ どちらが子どもか


うちの人間が鏡の前から戻ってきた。


箱の中のシジミを見ると、笑った。


「シジミ、もう入ってる」


もう、とは何だろう。


空いていたから入っただけである。


うちの人間はシジミの写真を撮り始めた。


「猫って、本当に箱が好きだねえ」


箱は安全である。


周囲を囲まれている。


狭いため、背後へ誰かが入りにくい。


体も落ち着く。


入り口から外を確認できる。


好きになる理由は十分にある。


うちの人間が、さらに笑う。


「箱に入るだけで喜ぶなんて、子どもみたい」


シジミは箱の中から、うちの人間を見た。


先ほどまで、鞄一つを待ちきれず、何度も画面を確認していた者が言っている。


まだ来ない。


遅い。


どこにある。


今日中とは何時まで。


届けば走って取りに行く。


箱を開ける。


鏡の前で何度も見る。


そして、箱へ入ったシジミを子ども扱いする。


喜ぶ対象が違うだけではないだろうか。


シジミは箱が気に入った。


うちの人間は鞄が気に入った。


ただし、シジミは箱が届くまで歩き回ったりはしていない。


数分ごとに状況を確認してもいない。


箱が来ることすら知らなかった。


目の前に来たから、使っただけである。


どちらが子どもかは明らかだった。



※第18話「精神年齢」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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