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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第16話 ラノベ

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(二)努力しないで強くなりたい

◆ もっと驚け


うちの人間は頁をめくりながら笑った。


「やっぱり、強すぎる主人公って気持ちいいなあ」


そういうものなのだろうか。


シジミは少し考えた。


猫の世界では、強いことは悪くない。


縄張りを守れる。


食べ物を確保できる。


ほかの猫に追い払われにくい。


危険があれば逃げる余裕もできる。


だが、強ければ何をしても楽しいわけではない。


本当に強い猫は、むやみに力を見せない。


争わずに済むなら争わない。


相手が逃げれば追わない。


毎回すべての猫を倒して回るような者がいれば、強いというより面倒な猫である。


うちの人間が好む主人公は、望んでいなくても争いへ巻き込まれる。


悪い人間が現れる。


主人公を弱いと思って見下す。


勝負を挑む。


主人公が少し力を出す。


周囲が驚く。


「そんな馬鹿な」


と言う。


うちの人間は、その場面になると満足そうにうなずく。


「そうそう。もっと驚け」


なぜ、うちの人間が得意そうな顔をするのだろう。


強いのは本の中の人間である。


うちの人間ではない。


能力を得たのも本の中の人間。


敵を倒したのも本の中の人間。


周囲から褒められているのも本の中の人間だ。


長椅子に座って菓子を食べているうちの人間は、何もしていない。


それでも主人公が褒められると、自分まで認められたような顔をする。


人間には、他者の成果を見て満足する能力があるらしい。


便利である。


自分で高いところへ登らなくても、登った者を見れば達成感を得られる。


自分で狩りをしなくても、狩りをした者の話を読めば満足できる。


猫にもその能力があれば、鳥を見ているだけで腹が膨れるかもしれない。


残念ながら、実際にはそうならない。


◆ 分かっているとおりに進む


うちの人間が、また頁をめくった。


「出た。鑑定した人が数値を見て驚くやつ」


何度も見ているなら、もう驚く必要はないのではないだろうか。


だが、うちの人間は楽しそうである。


本の中の人間が主人公の力を知る。


目を見開く。


手を震わせる。


これほどの力は見たことがないと言う。


主人公は、


「何かおかしいことをしただろうか」


という顔をする。


うちの人間は笑う。


「絶対分かってやってるでしょ」


分かっているなら、なぜ毎回読むのだろう。


同じことが起きると知っている。


主人公が強いことも知っている。


周囲が驚くことも知っている。


最後に勝つことも、おそらく知っている。


推理小説では、犯人が分かるまで考え込む。


怖い本では、この先に何が出るか警戒する。


だが、この種類の本では、最初から主人公が勝つと信じて読んでいる。


うちの人間は、先が分からない話では先を知りたがる。


先が分かる話では、分かっているとおりに進むことを喜ぶ。


どちらでも満足できるらしい。


人間の読書は、ずいぶん柔軟である。


◆ 瞬間移動が欲しい理由


物語の中で、主人公が新しい能力を得た。


努力して覚えたわけではない。


危険な訓練を続けたわけでもない。


転生したときに、最初から使えるようになっていたらしい。


うちの人間が言う。


「いいなあ。私もこういう能力欲しい」


何に使うつもりなのだろう。


朝、鳴る箱を止めたままでも遅刻しない能力か。


働かなくても紙や数字が増える能力か。


何を食べても体形が変わらない能力か。


部屋を片づけなくても、必要なものがすぐ見つかる能力か。


うちの人間が欲しがる力は、おそらくそのあたりである。


以前、


「瞬間移動ができたら、朝もっと寝ていられるのに」


と言っていた。


空を飛びたいわけでも、知らない土地を見たいわけでもない。


寝る時間を増やすために瞬間移動したいらしい。


強大な力を与えても、使い道がずいぶん小さい。


本の中では、主人公が力を使って町を救う。


魔物を倒す。


国の問題を解決する。


うちの人間なら、布団から職場まで一瞬で移動するために使う。


人間の想像力には、限界がある。


◆ 努力しないで強くなりたい


うちの人間は、さらに読み進めた。


主人公は、周囲から称賛されていた。


強い。


賢い。


見たこともない能力を持っている。


誰にもできなかったことを簡単に成し遂げる。


うちの人間は満足そうに菓子を食べた。


「努力しないでこれだけ強いの、うらやましいなあ」


そこなのか。


シジミはうちの人間を見上げた。


強さが欲しいのではない。


努力をしなくても強いという部分がよいらしい。


結果は欲しい。


過程はいらない。


褒められたい。


だが、失敗はしたくない。


危険なこともしたくない。


時間もかけたくない。


それでも、周囲から驚かれたい。


ずいぶん欲張りである。


猫が高い塀へ跳ぶには、何度も距離を測る。


脚へ力を入れる。


届かなければ、別の場所を探す。


子猫のころから、少しずつ跳べる高さを増やす。


ある日突然、寝て起きたらどこへでも跳べるようになるわけではない。


だが、人間は物語の中でなら、それを望む。


うちの人間も、日常では、


「努力しないと上手くならないよね」


と言う。


何かを始める前には、


「継続が大事」


とも言う。


ところが本を読むと、


「最初から最強っていいなあ」


と言う。


努力が大切なのか。


努力しなくても強いのがよいのか。


どちらかに決めたほうがよい。


もっとも、人間は自分が努力するときだけ、努力を尊いものだと思うのかもしれない。


ほかの者が苦労せず成功すれば、ずるいと言う。


自分が苦労せず成功する話なら、気持ちがよいと言う。


同じ結果でも、誰が得をするかで考えが変わる。


実に人間らしい。



※第16話「ラノベ」は全三回です。

続きます。


作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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