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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第15話 犯人は医者だ

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(一)町のお医者さんが来た

◆ 本を読む人間


うちの人間は、そこそこの読書家である。


毎日読むわけではない。


忙しい日は、本を開いたまま眠っている。


休日になると朝から読み始め、気づけば外が暗くなっていることもある。


同じ姿勢で長いあいだ座り続けたあと、


「肩が痛い」


「目が疲れた」


と言う。


途中で休めばよい。


だが、人間は本を読み始めると、区切りのよいところまで読もうとする。


その区切りへたどり着くと、次の区切りまで読みたくなる。


そうして、自分で自分を止められなくなる。


猫なら、眠くなれば眠る。


腹が減れば食事を求める。


日の当たる場所が動けば、自分も移動する。


目の前の必要を無視してまで、紙の上の黒い模様を追い続けたりはしない。


その日は、推理小説というものを読んでいた。


何か事件が起きる。


誰かが死ぬ。


何人かの人間が集められる。


皆が怪しいことを言う。


その中から、悪いことをした人間を当てる。


だいたい、そのような話である。


人間は事件が起きると怖がるくせに、本の中で事件が起きることは楽しみにしている。


何も起きなければ退屈だと言う。


誰かが死ねば、話が動き出したと言って喜ぶ。


実際の人間が死んだわけではないからよいのだろうが、紙の上とはいえ、ずいぶん物騒な遊びである。


うちの人間は長椅子の端に座り、肩へ落ちた栗色の髪を耳へかけながら、真剣な顔で本を読んでいた。


シジミは、その隣で丸くなっていた。


ときどき紙をめくる音がする。


うちの人間の眉が寄る。


少しすると、また開く。


驚いた顔をする。


納得したようにうなずく。


そして、また難しい顔になる。


本を読んでいるだけなのに、表情だけは忙しい。


シジミには文字が読めない。


だが、うちの人間が口に出した言葉や、途中で漏らす独り言を聞けば、話の内容はだいたい分かる。


◆ 密室の事件


どこかの大きな家で、人間が一人死んだらしい。


扉には鍵がかかっていた。


窓も閉まっていた。


部屋の中には、死んだ人間以外には誰もいなかった。


それなのに、何者かに殺された可能性があるという。


人間は、扉や窓を閉めれば安全だと思っている。


猫から見れば、それほど信用できるものではない。


扉の下には隙間がある。


窓が少し開いていることもある。


壁の向こうには空間がある。


天井にも、床下にも道がある。


人間が入れないからといって、何も通れないとは限らない。


だが、今回の犯人は猫ではないらしい。


それなら、シジミが細かな仕組みを考える必要はない。


重要なのは、誰が犯人かである。


もっとも、シジミはすでに知っていた。


この手の話では、高い確率で医者が犯人である。


さらに言うなら、物語の早い段階で出てきた医者は特に怪しい。


理由は簡単だ。


人間の体に詳しい。


薬を持っている。


死んだ時刻について、難しい言葉で説明する。


ほかの者が触れば怪しまれる死体にも、仕事だからという理由で近づける。


何より、人間は医者というだけで、その者の言うことを信じる。


これほど犯人に向いている者はいない。


◆ 怪しすぎる者は犯人ではない


うちの人間がページをめくった。


「最初に発見したのは家政婦さんか……」


家政婦。


怪しく見せられやすいが、犯人ではない。


最初に死体を見つけた者は疑われる。


声を上げる。


人を呼ぶ。


余計なことを知っている。


だが、本当に犯人なら、もっと遅く見つけたふりをするだろう。


早く人を集める必要はない。


家政婦は、犯人を怪しく見せるために置かれた人間である。


うちの人間が、またつぶやく。


「甥が遺産を狙ってたのかな」


甥。


金が必要。


死んだ者と仲が悪い。


いかにも怪しい。


だから違う。


物語の最初から怪しい者は、最後まで怪しいままでは終わらない。


人間は、分かりやすいものを途中で疑い、最後には予想外の者を犯人にしたがる。


甥が本当に犯人なら、ここまで早く金の話を出す必要はない。


シジミは目を閉じた。


まだ医者が出てこない。


だが、焦る必要はない。


このような事件が起きれば、いずれ死体を見る者が現れる。


人間は、誰かが動かなくなると医者を呼ぶ。


猫なら、匂いと呼吸でだいたい分かる。


触っても反応しない。


胸も動かない。


体温も下がっている。


それでも人間は、特別な服を着た者に確認してもらわなければ納得しない。


◆ 町のお医者さんが来た


しばらくすると、うちの人間の指が止まった。


「町のお医者さんが来たんだ」


来た。


シジミは目を開けた。


やはり医者が出てきた。


しかも、まだ話はそれほど進んでいない。


早い。


かなり怪しい。


うちの人間は、そのまま読み続ける。


医者は、死んだ人間を昔から知っているらしい。


近所に住んでいる。


家へ何度も出入りしていた。


死んだ時刻を調べる。


薬にも詳しい。


さらに、事件が起きた夜には一人で診療所にいたという。


ほとんど決まりである。


人間の言葉で言えば、犯人は医者だ。


シジミは体を起こした。


うちの人間が本から顔を上げる。


「どうしたの?」


シジミは医者が犯人だと伝えた。


人間の言葉ではない。


だが、これだけはっきり言えば、少しくらい伝わるかもしれない。


医者。


犯人。


最初から怪しい。


できるだけ短く鳴いた。


うちの人間はシジミの顔を見つめた。


そして、本の表紙を少し持ち上げた。


「これが気になるの?」


違う。


表紙ではない。


中に出てきた医者である。


シジミは、もう一度鳴いた。


うちの人間は首を傾げる。


肩から髪が落ち、頬へかかった。


「ごはんには、まだ早いよ」


人間は、猫が何を言っても食事へ結びつける。


猫の頭の中には食事しかないと思っているらしい。


確かに食事は重要である。


だが、猫もときには事件の犯人について話す。


シジミは諦め、再び丸くなった。


うちの人間は本へ視線を戻した。


「でも、この先生はいい人っぽいんだよなあ」



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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