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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第14話 自分へのご褒美

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(二)自分で押して、買っちゃった

◆ 鞄はうちの人間の頑張りを知らない


うちの人間は画面の鞄を拡大した。


「この色、かわいいんだよね」


欲しいなら、欲しいと言えばよい。


なぜ頑張った話を先にするのだろう。


鞄が、うちの人間の頑張りを知っているわけではない。


売っている店の人間も知らない。


画面の向こうにいる者は、うちの人間が今日何をしたかなど気にしていない。


数字を渡せば、鞄を送る。


頑張っていても。


頑張っていなくても。


朝から眠っていただけでも。


同じ数字を渡せば、同じ鞄が届く。


褒美かどうかは、買う側だけが勝手に決めているのである。


◆ 買う理由はいくらでもある


シジミは光る板の前へ座った。


うちの人間が画面を見るために体を傾ける。


「シジミ、見えないよ」


見なくてもよい。


先日も、給料が入ったからといって服や菓子を買っていた。


その数日後には、


「お金がない」


と嘆いていた。


今度は、今月頑張ったという理由で鞄を買おうとしている。


人間は紙や数字を使いたくなるたび、別の理由を探す。


給料日だから。


疲れたから。


頑張ったから。


嫌なことがあったから。


よいことがあったから。


記念だから。


限定だから。


今しか買えないから。


理由はいくらでもある。


買わない理由だけが、なかなか見つからない。


◆ 答えは出ている


うちの人間はシジミを抱き上げ、隣へ移した。


そして、また画面を見た。


「でも、ちょっと高いんだよね」


高いと思うなら、買わなければよい。


「今使ってる鞄も、まだ使えるし」


ならば必要ない。


「似たようなの持ってるんだよなあ」


それなら、さらに必要ない。


うちの人間は、正しいことをすべて自分で言っている。


もう答えは出ているはずだ。


ところが、しばらくすると、画面の下にある印へ指を近づけた。


「でも、今月ほんとに頑張ったし」


また出た。


頑張ったことと、鞄が必要かどうかは別の話である。


うちの人間が頑張った事実によって、今ある鞄へ穴が開くわけではない。


新しい荷物が増えるわけでもない。


持ち運ばなければならない物の大きさが変わるわけでもない。


必要性は何も変わっていない。


ただ、買うための言い訳が増えただけである。


シジミはうちの人間の指先を見た。


買うのだろう。


人間は、迷っているように見えても、すでに欲しいものを見つけた時点で答えを決めていることがある。


そのあとに考えているのは、買うか買わないかではない。


どうすれば自分を納得させて買えるかである。


◆ 自分で押して、買っちゃった


うちの人間の指が画面へ触れた。


「あ、買っちゃった」


自分で押した。


突然、鞄が勝手に買われたわけではない。


それなのに、


「買った」


ではなく、


「買っちゃった」


と言う。


自分のしたことなのに、少し事故のように言う。


人間は都合の悪い結果について、自分の意志を薄くしたがる。


食べた、ではなく、食べちゃった。


寝た、ではなく、寝ちゃった。


買った、ではなく、買っちゃった。


最後に小さな音をつけるだけで、仕方なくそうなったように聞こえる。


これも罪悪感を減らすための言葉なのだろうか。


◆ 返事をしない猫


うちの人間は、購入が終わった画面を見て笑った。


「まあ、ご褒美だからいいよね」


やはり、許可を出す者も自分だった。


欲しい。


高い。


似たものを持っている。


だが、頑張った。


だから、ご褒美として買う。


そして、買ったあとに、


「いいよね」


と確認する。


誰へ聞いているのだろう。


シジミは返事をしなかった。


同意したことにされては困る。


それでも、うちの人間はシジミの頭を撫でた。


「シジミもそう思うよね」


思わない。


むしろ、似たような鞄を持っているなら、必要ないと思っている。


だが人間は、返事をしない猫を、自分に同意する者として使うことがある。


反対されない。


だから賛成。


ずいぶん都合のよい判断である。


◆ 欲しいから買った


数日後、鞄が届いた。


うちの人間は箱を開け、うれしそうに中身を取り出した。


肩へかける。


鏡の前へ立つ。


髪を整える。


鞄の位置を少し変える。


横を向く。


反対側も見る。


「やっぱり買ってよかった」


満足しているなら、それでよい。


シジミも、欲しいものを手に入れること自体が悪いとは思っていない。


問題は、最初から欲しかっただけなのに、頑張った自分への褒美という話へ変えたことである。


欲しいから買った。


それで何がいけないのだろう。


人間は、自分の欲望をそのまま認めると、何か悪いことをしているように感じるらしい。



※第14話「自分へのご褒美」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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