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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第12話 紙を手に入れるために

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(二)もうこんなに減ってる

◆ 支払い


だが、次の日。


うちの人間は朝から、光る板を見つめて難しい顔をしていた。


昨日までの浮かれた様子はない。


画面には、たくさんの文字が並んでいる。


「家賃でしょ」


うちの人間が指を折る。


「電気代、水道代、通信費……」


次々と何かの名前を口にする。


「それから、カードの引き落とし」


言うたび、表情が暗くなる。


どうやら、給料として手に入れたものを、ほかの人間へ渡さなければならないらしい。


家を使うために渡す。


明かりをつけるために渡す。


水を出すために渡す。


絵の光る板を使うためにも渡す。


昨日買った物の分も渡す。


うちの人間は、自分が手に入れたものを、次から次へと知らない相手へ配っている。


猫なら、縄張りの場所代など払わない。


ここを使うと決めたら使う。


水は見つけた場所で飲む。


日なたに座るために、誰かへ何かを渡したりもしない。


人間は自分たちで複雑な決まりを作り、その決まりに従うために働いているようだった。


家に住むために外へ働きに出る。


外へ働きに出るために服を買う。


働いて疲れたから食べ物を買う。


働くために使ったものの代金を払うため、また働く。


ずいぶん同じ場所を回っている。


一体、どこへ向かっているのだろう。


◆ 紙を手に入れるために


うちの人間は財布を開いた。


中に入っている紙を数える。


一枚。


二枚。


三枚。


手に入れたばかりのはずなのに、それほど多くない。


うちの人間は、その紙を買い物のたびに誰かへ渡している。


店の人間へ渡す。


機械へ入れる。


別の紙や小さな金属になって戻ってくることもある。


だが、戻ってこないことのほうが多い。


せっかく手に入れた紙を、すぐ誰かに渡している。


本当に計画性がない。


シジミは、うちの人間の財布をのぞき込んだ。


人間は、この紙を手に入れるために毎日外へ出る。


朝早く起きる。


帰りが遅くなる。


疲れる。


嫌なこともあるらしい。


ときどき長椅子へ倒れ込み、


「もう仕事辞めたい」


と言う。


それでも翌朝になれば、また家を出ていく。


そうしてようやく手に入れた紙を、給料日から数日のうちに、次々とほかの者へ渡す。


それほど手放したい紙なら、最初から手に入れなければよい。


大切な紙なら、渡さず持っていればよい。


人間の行動には一貫性がない。


◆ もうこんなに減ってる


うちの人間は財布を閉じ、今度は光る板を見た。


画面には、給料日に見たものよりずっと小さな数字が並んでいる。


「うそ。もうこんなに減ってる」


減らしたのは、うちの人間である。


昨日、服を買った。


菓子を買った。


小さな容器を買った。


少し高い食べ物も買った。


自分で紙や数字を渡しておきながら、減ったことに驚いている。


猫が食事を食べたあと、皿が空になったことへ驚くだろうか。


食べれば減る。


使えばなくなる。


見れば分かる。


うちの人間は長椅子へ座り、頭を抱えた。


肩から落ちた栗色の髪が、顔を隠す。


「まだ給料日から三日しか経ってないのに」


三日もあれば、十分である。


うちの人間は、その三日間で何度も紙を渡した。


光る板を触るだけで数字を渡したこともある。


紙すら見えないため、渡している実感がなかったのかもしれない。


人間は、目に見えないものを軽く考える。


光る板へ指を触れただけなら、何も失っていないような気がするのだろう。


だが、画面の数字は確実に減っている。


うちの人間は、自分の手で何度も減らしている。


それなのに、減った数字だけを見て、


「どうして」


と考えている。


原因はすべて、自分が知っているはずだ。


◆ 買う前に考える


シジミは、うちの人間の隣へ座った。


うちの人間はため息をつきながら、昨日買った菓子の袋を開ける。


金がないと嘆きながら、金を使って買ったものを食べている。


しかも、袋を開けたあとで、


「これ、買わなくてもよかったかな」


と言う。


買う前に考えることである。


人間は何かを欲しがっているとき、それが必要かどうかを考えない。


手に入れたあとで考える。


そして、いらなかったかもしれないと気づく。


猫は、跳ぶ前に着地点を見る。


届くか。


安全か。


降りられるか。


必要がなければ跳ばない。


人間は、先に跳ぶ。


落ちたあとで、飛ぶ必要があったのか考える。


ずいぶん危険な生き方である。


うちの人間は菓子を一つ食べ、光る板を操作した。


何かを調べている。


画面には、別の服が表示された。


昨日買ったものとは違うが、よく似ている。


うちの人間はしばらく見つめたあと、小さくつぶやいた。


「これもかわいいなあ」



※第12話「紙を手に入れるために」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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