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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第12話 紙を手に入れるために

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(一)給料入った

◆ 給料入った


その朝、うちの人間は、いつもより少し機嫌がよかった。


鳴る箱を三度も止めたことは、いつもと変わらない。


布団から出るまでに長い時間がかかったことも、眠そうな顔で部屋を歩いていたことも同じである。


だが、絵の光る板を確認した瞬間、急に目が開いた。


「給料入った!」


うちの人間は、うれしそうに声を上げた。


肩へ落ちていた髪を片手で耳へかけ、もう一度、光る板をのぞき込む。


何かよいものを手に入れたらしい。


シジミも近くへ寄り、画面を見た。


小さな文字と数字が並んでいる。


食べ物の絵はない。


魚もない。


肉もない。


新しい寝床でもない。


ただ、昨日までとは違う大きな数字が表示されているだけである。


それでも、うちの人間は満足そうだった。


「今月も頑張ったなあ、私」


自分で自分を褒めている。


誰も褒めてくれなかったのだろうか。


それなら仕方がない。


猫は、人間ほど誰かに褒めてもらおうとはしない。


高い場所へ跳べた。


獲物の気配を見つけた。


暖かい場所を確保した。


それらは、自分に必要だからすることである。


成功したからといって、周囲に報告したりはしない。


人間は、何かをしたあとに、


「頑張った」


「偉い」


「褒めて」


と口にする。


自分が何をしたのか、自分でも忘れそうになるから、声に出して確認しているのかもしれない。


もっとも、給料というものを手に入れるため、うちの人間が毎日外へ出ていることは、シジミも知っている。


朝になると、嫌そうな顔で起きる。


髪を整える。


顔へいろいろ塗る。


家の中よりも動きにくそうな服へ着替える。


重い鞄を持ち、安全な家から出ていく。


そして夜になれば、


「疲れた」


と言いながら戻ってくる。


それを何日も繰り返した結果が、画面の中の数字らしい。


ずいぶん手間がかかっている。


そこまでして手に入れたのだから、さぞ大切に使うのだろう。


猫なら、苦労して捕まえた食べ物を、すぐほかの者へ渡したりはしない。


安全な場所へ運ぶ。


落ち着いて食べる。


残せるものなら、あとで困らないように取っておく。


手に入れるまでに苦労したものほど、慎重に扱う。


それが普通である。


うちの人間は光る板を胸元へ抱え、機嫌よく台所へ向かった。


「今日は給料日だから、ちょっといいもの食べようかな」


給料というものは、食べ物ではないらしい。


だが、よい食べ物と交換できるようだ。


それなら役には立つ。


シジミの食事も、いつもよりよいものになる可能性がある。


◆ 着るものがない


シジミはうちの人間のあとをついていった。


うちの人間は食事を用意しながら、何を食べるか考えている。


「お寿司もいいなあ」


魚である。


悪くない。


「焼き肉も食べたいし」


肉もよい。


「でも、今月は服も欲しいんだよね」


食べ物の話が、急に毛皮の話へ変わった。


うちの人間は、すでに多くの服を持っている。


扉を開ければ、中にはさまざまな色や形の服が並んでいる。


家の中で着る服。


外へ行くための服。


寒い日に着る服。


少し寒い日に着る服。


暑い日に着る服。


雨の日に着る服。


何か大切な場所へ行くときの服。


少しだけ大切な場所へ行くときの服。


人間は、同じ体を包むためだけに、ずいぶん多くの毛皮を必要とする。


それなのに、


「着る服がない」


と言うことがある。


あれだけあるのに、ないらしい。


人間の言う「ない」は、本当に一つもないという意味ではないのかもしれない。


食事があるのに、


「食べるものがない」


服があるのに、


「着るものがない」


時間があるのに、


「時間がない」


人間は、自分が望むものがなければ、すべてないことにする。


給料も、入ったばかりなら十分にあるはずだ。


それなのに、いずれ、


「お金がない」


と言い出すのだろうか。


◆ 給料日の買い物


その日の夜、うちの人間は買い物袋をいくつも持って帰ってきた。


新しい服。


甘い菓子。


少し高そうな飲み物。


顔へ塗るための小さな容器。


そして、シジミの食事も入っていた。


シジミの分を忘れなかったことは評価してよい。


だが、袋の数が多い。


うちの人間は長椅子の前へ座り、一つずつ買ったものを並べ始めた。


「これ、かわいいと思うんだよね」


新しい服を体へ当て、鏡を見る。


その服は、家にある別の服とよく似ていた。


色が少し違うらしい。


形も少し違うらしい。


人間には重要な差なのだろう。


猫の目には、どちらも体へ巻きつける布にしか見えない。


うちの人間は楽しそうに服を畳み、次に小さな容器を取り出した。


蓋を開ける。


匂いを確かめる。


手の甲へ少し塗る。


「やっぱり、いい色」


シジミには、ほとんど何も変わっていないように見えた。


人間は猫の毛色を、黒、白、茶色くらいにしか分けない。


自分たちが顔へ塗る色については、わずかな違いにまで名前をつける。


赤に見えるものだけでも、いくつも種類があるらしい。


猫の黒い毛にも、光の当たり方や生えている場所によって違いがある。


だが、人間は全部まとめて黒猫と呼ぶ。


自分に関係する色だけ、細かく見えるようだ。


うちの人間は買ったものを眺め、満足そうに息を吐いた。


給料というものを手に入れたばかりなのだから、この程度ではなくならないのだろう。


シジミはそう考えた。



※第12話「紙を手に入れるために」は全三回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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