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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第11話 みかじめを出せ

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(二)言葉の効き目

◆ シジミの食事


うちの人間は困ったように二匹を見た。


そして、袋の中から魚ではなく、小さな包みを取り出した。


シジミは匂いを確かめる。


猫用の食事だった。


どうやら、シジミのために買ったものらしい。


人間は買い物へ行くと、自分の食べ物だけでなく、シジミのものまで買ってくる。


そこは悪くない。


ただし、今それを知らない猫へ渡そうとしている。


それはよくない。


うちの人間は包みを開け、少しだけ手のひらへ出した。


「ちょっとだけね」


茶白の猫と灰色の猫が、同時に近づく。


「出た!」


「飯だ!」


「みかじめだ!」


「飯だって!」


二匹は、うちの人間の手から順番に食べ始めた。


うちの人間は楽しそうに笑っている。


「ちゃんと交代で食べて、えらいね」


交代しているのではない。


互いに頭を押し込みながら、食べられる隙を探している。


茶白の猫が一口食べる。


灰色の猫が横から顔を入れる。


茶白の猫が押し返す。


灰色の猫が反対側へ回る。


人間には、それが順番を守っているように見えるらしい。


実際には、どちらが多く食べるかという静かな争いである。


うちの人間は手のひらの食事がなくなると、もう一度包みを見た。


シジミはすぐに、うちの人間の足元へ移動した。


これ以上渡されては困る。


それはシジミの食事である。


シジミは短く鳴いた。


うちの人間が下を見る。


「シジミも食べたいの?」


食べたいのではない。


自分のものを勝手に配るなと言っている。


だが、うちの人間は包みをしまった。


「残りは帰ってからね」


結果としては正しい。


理由は間違っているが、人間相手には結果を優先したほうがよいこともある。


茶白の猫が、包みの消えた袋を見る。


「もっとみかじめを出せ!」


灰色の猫も鳴く。


「飯が少ない!」


うちの人間は手を振った。


「またね」


「まだ足りない!」


「みかじめを出せ!」


「だから飯だって!」


二匹の声を背に、うちの人間は歩き出した。


シジミもそのあとへ続く。


少し進んだところで、うちの人間が振り返った。


二匹の猫は、また道の真ん中へ並んでいる。


次の通行人を待っているらしい。


うちの人間が笑った。


「あの子たち、通る人にごはんをもらってるんだね」


ようやく気づいたらしい。


ただし、二匹が通行人から食事を受け取るため、覚えたばかりの人間の言葉で脅していることまでは分かっていない。


◆ 言葉の効き目


次に来たのは、買い物袋を持った年を取った女の人間だった。


二匹はすぐに立ち上がる。


茶白の猫が声を張る。


「みかじめを出せ!」


灰色の猫も続く。


「飯を出せ!」


女の人間は足を止め、二匹へ笑いかけた。


「あら、今日もお腹が空いてるの?」


茶白の猫が振り返り、灰色の猫へ得意そうに言う。


「ほら、みかじめは通じる」


「飯のほうが通じたんだろ」


「二匹で言ったから分からない」


「じゃあ今度は別々に試すか?」


「いい考えだ」


二匹は、言葉の効き目を確かめるつもりらしい。


実際には、どちらを言っても人間には同じ鳴き声にしか聞こえない。


茶白の猫がみかじめを要求しても。


灰色の猫が食事を要求しても。


人間は、猫がお腹を空かせていると思う。


そして、何かを与える。


猫は、自分の言葉が通じたと思う。


人間は、自分が猫の気持ちを理解したと思う。


どちらも、相手の言葉を正しく聞いてはいない。


それでも食事は出る。


猫は食べる。


人間は満足する。


結果だけを見れば、うまくいっている。


シジミは少し考えた。


もしかすると、言葉というものは、正確に通じなくても役に立つことがあるのかもしれない。


茶白の猫は、みかじめの意味を知らない。


人間も、猫がみかじめを要求しているとは思っていない。


それでも、猫は食事を受け取った。


ただし、それでみかじめという言葉を覚えたつもりになるのは危険である。


あの猫は、今後も何か欲しいたびに、


「みかじめを出せ!」


と言うのだろう。


食事。


水。


寝る場所。


扉を開けてほしいとき。


遊んでほしいとき。


すべて、みかじめで済ませるかもしれない。


人間が動物の声を、ニャーニャーやワンワンで済ませるのと同じである。


意味をよく知らない言葉を、一つ覚えただけで何でも表そうとする。


やはり、人間の店で覚えた言葉だから、使い方まで人間に似てしまったのだろうか。


◆ お友達ではない


うちの人間は、シジミを見下ろした。


歩くたび、肩にかかる髪が小さく揺れている。


「シジミも、外の猫とお話ししてたの?」


話してはいない。


聞いていただけである。


それに、あれを話し合いと呼んでよいのかは疑わしい。


片方は、意味を知らない言葉を自信満々に使う。


もう片方は、それを疑いながらも一緒に真似をする。


うちの人間は、シジミが答えないのを見ると、うれしそうに笑った。


「お友達だったのかな」


違う。


今日初めて見た猫である。


言葉を聞いただけで、友達になるわけではない。


人間は、猫同士が同じ場所にいると、すぐに仲間や友達だと思う。


先ほどの二匹も、仲良く協力しているように見えていたらしい。


実際には、みかじめと飯のどちらが正しいかで、ずっと言い争っていた。


それでも人間の目には、二匹で並んで通行人を待つ、仲のよい猫に見える。


うちの人間は買い物袋を持ち直し、再び歩き始めた。


「帰ったら、シジミにもおやつをあげようね」


シジミは足を止めなかった。


自分の食事を知らない猫へ分けたことについては、まだ納得していない。


だが、別におやつが出るなら、今日のところは許してもよい。


後ろの路地から、茶白の猫の声が聞こえた。


「みかじめを出せ!」


続いて、灰色の猫が鳴く。


「もっと飯を出せ!」


女の人間の楽しそうな声が返る。


「元気ねえ」


まるで会話はかみ合っていない。


それでも人間は、猫と話せたと思っている。


猫も、自分の要求が通じたと思っている。


意味を知らない言葉を使う猫。


言葉を聞き取れないまま理解した気になる人間。


その二者が、なぜか食べ物を通して意思疎通に成功している。


シジミは尻尾の先をゆっくりと揺らした。


「本当に人間ってあさはかな生き物だよね」



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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