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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第34話 先輩の小説

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(一)何もかも怪しく見える

◆ 先輩の小説を読む


うちの人間は、以前家へ来た先輩の小説を読んでいた。


先輩は、自分が読みたい世界を自分で作ると言っていた人間である。


読者が多くなくても、自分だけは必ず読む。


だから、最低でも一人は読者がいる。


そのようなことを平然と言っていた。


うちの人間は、その考え方を聞いて少し感心し、自分の小説も再び書き始めた。


だが、先輩が実際にどのような小説を書いているのかは、きちんと読んだことがなかったらしい。


知り合いが書いた文章を読むのは、少し気恥ずかしい。


おもしろくなかった場合、どう感想を伝えればよいか困る。


そのような理由で、今まで後回しにしていたという。


人間は、知らない者が書いた小説なら気軽に読む。


気に入らなければ、何も言わずに閉じればよい。


だが、書いた者の顔を知っていると、文章の向こうにその人間が見える。


少し読みづらくなるらしい。


それでも、先輩から小説の話を聞いたあとでは気になったようだ。


休日の午後。


うちの人間は長椅子へ座り、絵の光る板に先輩の小説を表示した。


シジミはその隣で体を丸めていた。


画面には、かなり長い文章が並んでいる。


一つの話だけではない。


同じ世界を舞台にした話が、いくつも続いているらしい。


うちの人間は一覧を見て、少し驚いた。


「こんなに書いてたんだ」


先輩は、以前から書いていると言っていた。


しょっちゅう止まるとも言っていた。


だが、止まることと、やめることは違う。


止まっても再び書けば、文章は少しずつ増える。


うちの人間の小説は、主人公が異世界で菓子を買ったところから、ようやく少し先へ進んだ。


先輩の小説は、すでに一つの世界ができあがるほど続いている。


うちの人間は最初の話から読み始めた。


◆ 思っていたより普通


特別に大きな事件から始まるわけではなかった。


誰かが朝起きる。


食事をする。


町を歩く。


仕事へ向かう。


知り合いと話す。


その世界で暮らす者にとっては、普通の一日である。


うちの人間はしばらく黙って読んでいた。


そして言った。


「思ってたより普通だなあ」


何を期待していたのだろう。


先輩は世界観を作るのが好きだと言っていた。


だから、最初から世界の歴史や魔法の仕組みが大量に説明されると思っていたらしい。


だが、画面の中にいる者たちは、自分たちの世界をわざわざ説明しない。


うちの人間も、朝起きるたびに、


この世界には電気という仕組みがあり、壁にある場所へ線をつなぐことで道具を動かせる。


とは言わない。


水を使うたびに、水道の仕組みを説明することもない。


その世界で普通に暮らしている者にとって、世界の仕組みは説明するものではなく、使うものである。


先輩は、登場人物の日常を通して世界を見せると言っていた。


今のところ、本当にそうなっているらしい。


◆ あとから意味が分かる


うちの人間は続きを読んだ。


主人公が町の中で、あるものを受け取る。


近くにいた者は、特に驚かない。


主人公も気にしない。


そのまま話が進む。


うちの人間は、一度そこを読み流した。


少しあとで、似たようなものが別の場面にも出てくる。


使い方が少し違う。


さらに先では、それを持っていない人物が困っている。


うちの人間の指が止まった。


少し前の場面まで戻る。


もう一度読む。


「え?」


さらに前へ戻る。


最初の日常の場面を読み直す。


「これって、日常を書いてるだけだと思ってたけど、結構根幹部分?」


そうらしい。


何気なく使っていたもの。


普通の挨拶。


町で当然のように行われていたやり取り。


それらが、その世界の仕組みと強く結びついていた。


説明はされていない。


だが、あとから意味が分かる。


◆ 何もかも怪しく見える


うちの人間は、再び続きを読んだ。


今度は先ほどより慎重だった。


登場人物が何をしているか。


なぜ、その言葉を使ったのか。


なぜ、ほかの者は驚かなかったのか。


最初に読んだときは、ただの生活の描写だと思っていた。


だが、一度重要なものが隠れていると気づくと、何もかも怪しく見えるらしい。


「この食事も何かあるのかな」


普通の食事かもしれない。


「この店の人、あとで重要になる?」


ただの店の人かもしれない。


「今の言い方、何かの伏線?」


単にそう話しただけかもしれない。



※第34話「先輩の小説」は全四回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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