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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第33話 小説と先輩

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(四)存在しない世界を作る

◆ 自分が読みたい場面を作る


ならば、自分で書いた話でも同じなのだろう。


「自分が読みたい場面を、自分で作るんですか」


「そう」


「大変じゃないですか?」


「大変だよ」


「それでも書くんですか?」


「読みたいから」


うちの人間は腕を組んだ。


「買ったほうが早くないですか?」


自分が欲しい話が売っていれば、そのほうが早い。


だが、完全に同じものはない。


主人公。


世界。


力。


結末。


すべてが自分の望む形の話は、他人が書くとは限らない。


だから、自分で書く。


食事に似ている。


誰かが作ったものを食べるほうが楽である。


だが、自分の好みに完全に合わせたければ、自分で作るしかない。


そして作り始めると、食べるだけでは見えなかった面倒が分かる。


材料。


順番。


時間。


失敗。


小説も同じらしい。


読むだけなら、次の文章を追えばよい。


書くなら、次に何を書くかを決めなければならない。


◆ 何が好きなのか


うちの人間は自分の小説を思い出したようだった。


「私、途中で止まってるんですよね」


「どこで?」


「主人公が異世界で転移能力を使って、お菓子を買ったところ」


先輩は少し笑った。


「平和だね」


「このあと何をさせればいいか分からなくて」


「何をさせたいの?」


「強いところを見せたいです」


「誰に?」


うちの人間が止まった。


「周りの人?」


「何のために?」


さらに止まる。


主人公が強い。


周囲が驚く。


そこまでは決まっている。


だが、なぜ見せるのか。


誰に見せるのか。


見せたあと、何が変わるのか。


そこは考えていない。


先輩は続けた。


「俺TUEEEが好きなら、それでいいと思うよ。ただ、何が好きなのかは考えたほうが書きやすいかも」


「何が好きか?」


「圧倒するところが好きなのか。馬鹿にした相手が後悔するところが好きなのか。強い力で困ってる人を助けるところが好きなのか。本人は普通にしてるのに周りが驚くところが好きなのか」


うちの人間は真剣に考え始めた。


同じ俺TUEEEでも、気持ちよい部分は違う。


敵を倒す。


認められる。


仕返しをする。


守る。


驚かせる。


静かに暮らしたいのに騒ぎになる。


強い力そのものより、その力で何が起きることを望むか。


そこが違う。


◆ 嫌な人を作る


うちの人間は小さく言った。


「私は、主人公を馬鹿にしてた人が驚くところが好きかも」


「じゃあ、そういう相手を作らないと」


「嫌な人を出すんですか?」


「馬鹿にする人がいないと、驚かせられないからね」


うちの人間は少し嫌そうな顔をした。


読むときには、主人公を馬鹿にする人物へ文句を言う。


「見る目がない」


「絶対あとで後悔する」


そう言いながら、後悔する場面を楽しみに待つ。


だが、自分で書くなら、その嫌な人物も自分で作らなければならない。


主人公を傷つける。


追い出す。


見下す。


そのあとで驚かせる。


気持ちよい場面だけを書くことはできない。


そこへ至る不快な場面も必要になる。


人間は結果を好む。


だが、結果を成立させるためには、その前がいる。


うちの人間は、少しだけ理解したようだった。


「好きな場面を書くために、その前を作るんですね」


「私はそうしてる」


「先輩は、好きな世界を見せるために登場人物を作る?」


「そうそう」


「私は、好きな反応をさせるために登場人物を作る?」


「たぶん」


◆ 存在しない世界を作る


うちの人間は、絵の光る板へ何かをメモし始めた。


先輩は菓子をもう一つ取る。


シジミは棚の上から二人を見ていた。


人間は同じ小説を書く者でも、見ている場所が違う。


世界から作る者。


人物から作る者。


場面から作る者。


結末から作る者。


何が正しいというわけではないらしい。


自分が作れるところから始める。


足りないところは考える。


それでも完成するとは限らない。


読者がつくとも限らない。


それでも書く。


ずいぶん効率の悪い行動である。


食事にもならない。


眠る場所も増えない。


敵から身を守れるわけでもない。


紙や画面に、存在しない世界を作る。


存在しない人間を悩ませる。


存在しない問題を起こす。


それを何時間もかけて文章へする。


そして、読まれないかもしれない。



※第33話「小説と先輩」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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