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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第33話 小説と先輩

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(一)世界を先に作る

◆ 先輩が来る前


今日は、うちの人間の先輩という者が家へ来ていた。


先輩といっても、年齢が大きく離れているわけではない。


同じ仕事場で、うちの人間より少し前から働いている。


仕事のやり方を教えたり、困ったときに相談へ乗ったりする相手らしい。


人間の関係には、名前が多い。


先輩。


後輩。


上司。


同僚。


友人。


知人。


シジミから見れば、同じ人間である。


だが、人間は互いの位置を決めることで、話し方や態度を変える。


うちの人間は、先輩が来る少し前から部屋を片づけていた。


普段は床へ置いたままの本を棚へ戻す。


机の上の容器をまとめる。


長椅子の上に積んでいた布を別の部屋へ運ぶ。


来客があるときだけ、家が急に整う。


人間は、自分のためには片づけられない。


他人からどう見えるかが加わると、急に動ける。


ならば、常に誰かが来ると思って暮らせばよいのではないだろうか。


もっとも、誰も来ないと分かれば、すぐに元へ戻るだろう。


◆ 待つことを知っている


先輩は、手土産らしい菓子を持ってきた。


うちの人間は喜んだ。


「ありがとうございます。ちょうど甘いもの食べたかったんです」


昨日も食べていた。


甘いものを食べたい時間が長すぎる。


先輩は長椅子へ座った。


うちの人間は飲み物を用意する。


シジミは少し離れた棚の上から、二人を見ていた。


先輩は、シジミを見つけてもすぐに近づかなかった。


「あ、シジミちゃん」


名前は知っているらしい。


うちの人間が話していたのだろう。


先輩は軽く手を上げただけで、そのまま座っていた。


悪くない。


猫を見つけた人間は、すぐに距離を詰めることが多い。


名前を呼ぶ。


手を伸ばす。


顔を近づける。


そして猫が離れると、


「人見知りなんだね」


と言う。


近づいた自分の行動は考えない。


この先輩は、少なくとも待つことを知っているらしい。


うちの人間は飲み物を持って戻り、先輩の向かいへ座った。


しばらくは仕事の話をしていた。


誰が何を忘れた。


どの予定が遅れている。


誰へ確認しなければならない。


どの人間も、ほかの人間の失敗をよく覚えている。


自分の失敗については、


「いろいろあって」


で済ませるのに、他人の失敗は日時まで正確に覚えている。


やがて、話題が小説へ移った。


うちの人間が自分で小説を書き始めたことを、先輩へ話したらしい。


先輩も以前から小説を書いているという。


◆ 好きなのと書けるのは違う


うちの人間は、少し身を乗り出した。


「先輩も俺TUEEE系が好きですよね?」


「好きだよ」


「やっぱり書くのも俺TUEEE系ですか?」


先輩は少し考えた。


「そうなんだけど、好きなのと書けるのは違うかな」


うちの人間の動きが止まった。


少し前に、自分でも同じことを思い知ったばかりである。


読むのは好きだった。


主人公が強い。


周囲が驚く。


実力を認めなかった者が後悔する。


そのような話を何冊も読んでいた。


だから、自分でも書けると思った。


だが、いざ書けば、どこかで読んだような話になった。


異世界。


特別な力。


冒険者。


測定道具が壊れる。


書きやすい形を選んだつもりが、形しかなかった。


うちの人間は飲み物を一口飲んだ。


「先輩でも、好きなものをそのまま書けるわけじゃないんですね」


「書けないことはないけど、たぶん私の得意なところじゃない」


「じゃあ、何が得意なんですか?」


「私ができるのは、世界観のほう」


◆ 世界を先に作る


世界観。


うちの人間も、小説の書き方を調べたときに何度も見ていた言葉である。


世界の様子。


国。


町。


歴史。


魔法。


暮らし。


制度。


そういうものをまとめて呼ぶらしい。


先輩は続けた。


「世界を先に作って、登場人物を経て読者に見てもらう感じ」


うちの人間は首を傾げた。


「世界を先に作る?」


「そう。例えば、魔法があるなら、どうして使えるのか。誰でも使えるのか。何を消費するのか。生活にどこまで入ってるのか」


「そこまで考えるんですか?」


「考えるのが好きだから」


先輩はさらりと言った。


うちの人間なら、魔法が使える世界を考えるとき、最初に、


どの魔法が一番強いか。


主人公が何を使えば驚かれるか。


戦いでどう勝つか。


そこを考える。



※第33話「小説と先輩」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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