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本当に人間ってあさはかな生き物だよね  作者: KEI
第33話 小説と先輩

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(二)使わないこともある

◆ 魔法が日常にあるなら


先輩は違うらしい。


魔法が日常にあるなら、人間は何に使うのか。


火を起こす。


水を運ぶ。


物を乾かす。


病気を治す。


遠くへ連絡する。


できることが増えれば、働き方も変わる。


道具も変わる。


法律も必要になる。


禁止される使い方もある。


人間は便利なものを作ると、それを悪用する者も同時に現れる。


先輩は、そういうつながりを考えるのが好きらしい。


うちの人間が尋ねた。


「設定先行型ってことですか?」


「たぶん、そう」


◆ 推理小説とは違う


「だったら、推理小説とか向いてそうですね」


「どうして?」


「設定が複雑だから」


推理小説を、設定が複雑なものとしてまとめている。


以前も似たようなことを言っていた。


犯人。


動機。


手がかり。


仕掛け。


それらを細かく考えるから、世界観を作る者に向いていると思ったらしい。


先輩は少し笑った。


「推理小説は、世界観っていうより状況の作り方かな」


「違うんですか?」


「私の感覚ではね。推理小説も舞台のルールは必要だけど、勝手に決めたルールじゃ駄目なことが多いでしょ」


「勝手に決めたルール?」


「犯人だけ壁を通れます、とか」


「それは駄目ですね」


うちの人間でも分かるらしい。


途中まで普通の人間の事件として進めておきながら、最後に犯人だけ壁を通れると言われれば、推理のしようがない。


「推理小説は、限られた状況をちゃんと作って、その中で成立するように考える感じ。私は、世界のルールそのものを勝手に決めるほうが好き」


「だったら、やっぱりファンタジー?」


「ファンタジーなら、結構好き勝手に決めやすいかな」


先輩はそう言って、菓子を一つ取った。


「空に島が浮いててもいいし、海の中に町があってもいいし、死んだ人と話せてもいい。最初にそういう世界だと決めて、その結果どうなるかを考える」


「何でもありですね」


「何でもありに見えて、決めたあとは守らないといけないけどね」


◆ 決めたあとは守る


そこが重要らしい。


何でも決めてよい。


だが、一度決めたことを都合よく変えてはいけない。


空を飛ぶには特別な石が必要だと決めた。


ならば、石を持たない者が急に飛んではいけない。


死者とは一度しか話せないと決めた。


ならば、必要な場面だけ何度も話せるようにはできない。


人間は、自分で決めた規則に自分で縛られる。


ずいぶん面倒な遊びである。


しかし、シジミには少し分かる。


猫にも、自分で決めた場所がある。


眠る場所。


見回る道。


危険があれば逃げる方向。


一度安全だと判断した場所は使う。


危険だと分かれば変える。


規則があれば、迷う時間が減る。


先輩は、世界の規則を作り、その中で登場人物を動かす。


うちの人間は、登場人物を先に考え、その人物が強く見えるように世界を動かそうとする。


似ているようで、順番が違う。


◆ 全部説明したら邪魔


うちの人間は少し感心した顔をした。


「世界を作って、登場人物に見せてもらうんですね」


「そんな感じ。読者も登場人物と一緒に世界を見る」


「じゃあ、説明をいっぱい書くんですか?」


先輩は少し困った顔をした。


「そこが難しい」


世界を作った者は、作ったものをすべて見せたくなるらしい。


国の歴史。


魔法の仕組み。


昔の戦争。


神の名前。


町の制度。


通貨。


食文化。


考えたのだから、書きたくなる。


だが、登場人物が今知らないこと。


必要のないこと。


話の流れと関係のないことまで並べれば、読む側は困る。


先輩は言った。


「私の中では全部つながってても、読者に全部説明したら邪魔だからね」


「もったいなくないですか?」


「もったいないよ」


「じゃあ書けばいいのに」


「書いたら読みにくくなる」


「せっかく考えたのに?」


「考えたからって、全部出す必要はないから」


◆ 使わないこともある


うちの人間には、少し理解しにくいようだった。


買ったものは使いたい。


覚えたことは言いたい。


考えた設定は書きたい。


人間は、自分が手に入れたものを見せたがる。


だが、先輩は考えたものを使わないこともあるらしい。


シジミには、その判断が少し分かる。



※第33話「小説と先輩」は全五回です。

続きます。



作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。

※ネタバレ範囲にご注意ください。


https://www.simulationroom999.com/blog/humans-foolish-top

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