第十五章:林の中の小さな出会いと、身に覚えのない濡れ衣
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大和は森の中で、落ち葉を踏みしめながら薪になりそうな枯れ枝を拾い集めていた。
「よいしょ…」
枝に手を伸ばしたその時、すぐそばから少女の短い悲鳴が聞こえた。
「きゃっ?」
ん? と思い振り返ると、切り株のそばで女の子がへたり込んでいた。大和は持っていた枝を放り出し、慌てて駆け寄った。
「どうしたの?」
声をかけられた少女――さくらは、痛みに顔を歪めながら足元を見つめた。
「そこで滑って、足が」
「大丈夫? 歩けそう?」
大和の問いかけに、さくらは心細そうにフルフルと首を横に振る。
「よいしょ…」
大和は背中を向け、さくらを背負い上げた。
木漏れ日の中、さくらをおぶって林を抜けると、賑やかな声が響く自分たちのテントサイトが見えてきた。
大和の姿にいち早く気付いた良一が駆け寄ってくる。
「あれ?どうした?」
「林の中で右足をくじいたらしくて」
大和の言葉に、テントの周りにいた仲間たちがワラワラと集まってきた。
「なに? なになになになに?」
真菜が心配そうに覗き込む。
「大丈夫?下ろすよ」
大和がそっとさくらを折りたたみベンチに降ろすと、みんなで彼女をぐるりと囲んだ。
「誰か、家族の方呼んできた方がいいよね?」
美紅の提案に、良一も頷く。
「そうだね」
「あなた名前は?」
美紅が優しく尋ねると、さくらは少しホッとした様子で答えた。
「伊坂さくら。ロッジに泊まってる」
「あ、わかった。ちょっと見てきていい?」
美紅はそう言い残し、小走りでロッジの方へ向かっていった。
残された仲間たちは、さくらの足を心配そうに見つめている。
「大丈夫?痛い?」
真菜の問いに、さくらは小さく頷く。
「ちょっと痛い」
「そうだよね、痛そうだもんね」
「ちょっと腫れてるね」
七海も顔を近づけて足首の様子を確認した。大学生たちがよってたかって中学生を心配する、なんとも温かくて微笑ましい光景――だったのだが。
「ちょっとあなたたち! 何やってるの!」
突如、静かなキャンプ場に甲高い怒声が響き渡った。
ヒステリックな声を上げてズカズカと踏み込んできたのは、さくらの母、奈美だった。眉を吊り上げ、大和たちをまるで犯罪者か何かのように睨みつけている。
「さくらちゃんに何したの!」
「いや、何も…」
突然の剣幕に大和が戸惑っていると、後ろから父親の夏生も慌ててやってきた。
「大丈夫か、さくら!」
大和は状況を説明しようと必死に言葉を紡ぐ。
「あっちで足くじいたから、ここまで連れてきただけです」
「えっと、さくらさんのお父さんですか?」
真菜が確認すると、夏生は気まずそうに目を泳がせた。
「あ、ああ…」
「うちの子に何かしたんじゃないでしょうね!?」
奈美の理不尽な怒りは一向に収まらない。親切心で助けただけなのに、この言われようである。
たまりかねた七海がムッとして言い返した。
「いや、何もしてませんよ。むしろ介抱してたじゃないですか」
しかし、鬼ママの耳には届かない。奈美は忌々しそうに吐き捨てた。
「さくらちゃん、帰りましょう。こんなとこ来るんじゃなかったわ。あなた早く!」
顎で使われた夏生は、オロオロと従うしかない。
「あ、ああ…」
夏生は頭を掻きながら、申し訳なさそうに大和たちに向かって頭を下げた。
「すいません、お手数かけました。ほら、さくら」
夏生がしゃがみ込み、さくらを背負う。翔太が不満を漏らす。
「なんだよ…」
「ありがとう、お兄ちゃん」
さくらがお礼を言うと、大和は優しく頷いた。
「うん」
「あなた早く!」
奈美の急かす声が飛ぶ。
「ああ」
嵐が過ぎ去り、去っていく伊坂家。その背中から、なんとも気の抜ける親子の会話が聞こえてきた。
「パパ、お魚は?」
「あー、こんな大きい魚がスーパーで売ってたから、後で買おう」
「スーパー?」
「うん」
「ママ喜ぶかな」
「そうだな」
川魚を獲ると豪語していたはずのパパの、なんとも情けない妥協案だった。
そこへ、ロッジへ行っていた美紅が息を切らして戻ってきた。
「ロッジに行ってみたけど誰もいないみたい…」
すれ違った伊坂家の異様な空気と、大和たちの微妙な表情に気づき、美紅は小走りに仲間の元に駆けつけた。
「ねえねえねえ、何かあったの?」
「うん、ちょっとね」
大和が苦笑いして肩をすくめた。
「まあ気にすんな」
翔太が大和の肩を叩いて励ます。真菜も呆れたように同意する。
「そうだよ、あんな人どこにだっているから。あんな人に何言っても無駄だし」
「それでもひどすぎない?あんな言い方」
七海はまだ納得がいかない様子で唇を尖らせている。
「あれじゃ俺たちがなんかやったみたいだよな」
良一も不満げに腕を組んだ。
せっかくの楽しいキャンプの空気が、理不尽な鬼ママのせいで少し重くなってしまった。
その空気を吹き飛ばすように、雛がパンッと手を叩いて明るく声を上げた。
「さ、気を取り直してご飯ご飯!」
その声に、翔太もパッと表情を明るくして乗っかった。
「そうそう、俺そういや腹減った気する!行こうぜ!」
理不尽な大人に振り回されたけれど、若者たちは再び、賑やかな夕食の準備へと戻っていくのだった。
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それでは、次回のストーリーでお会いしましょう。




