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最弱のゴブリンAに転生した俺、死亡フラグをへし折っていたら、いつの間にか最強の先導者にされていた件  作者: アルファベータ
第一章

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第7話 謎の組織の跡


「なあ、婿よ、実はな……お前に少し頼みがあるのだ」


 俺の胸にその豊かな双丘を押し当て、至近距離から熱い視線を送っていたハーミルが、ふっと耳を伏せて真剣な表情になった。


 獅子の尻尾が、心なしか不安げに左右へ揺れている。


「頼み? レオパルド部族の姫君が、ゴブリンの俺にか」


「ああ。……実は、かつてこの森で栄華を誇っていた我が獣人族に、今、未曾有の危機が訪れている。ここ数日の間、各地の集落が次々と襲撃され、壊滅的な被害が出ているのだ」


 ハーミルの言葉に、俺の隣で剣を構えていたシルヴィが眉をひそめた。


「被害……? 獣人族の集落を落とすとなれば、相応の軍勢のはず。まさか、北の『魔王軍』が動いたというのですか?」


「いや、違う」


ハーミルは首を振った。


「魔王軍の仕業なら、奴らの禍々しい瘴気が残るはずだ。だが、襲撃現場に残されていたのは……見たこともない奇妙な『幾何学模様の刻印』と、容赦のない、しかし洗練された破壊の跡だけなのだ。まるで、この世界そのものを『消』しにきているかのような……」


(――幾何学模様の刻印。破壊。世界を消す)


 そのキーワードを聞いた瞬間、俺の脳裏に最悪の答えが浮かび上がった。間違いない。魔王軍でも、他のNPC勢力でもない。


 この数日の間に動き出した、世界を強制リセットしようとする『運営の防衛システム』、もしくは――その運営の手先として動いている、別の「転生プレイヤー」の仕業だ。


 元PKの勇者ジークを俺がハメ殺したことで、世界の因果が狂った。それを修正するために、運営が本格的な「お掃除」を始めたというわけだ。


「……なるほどな。状況は分かった」


 俺はハーミルの顎をクイと持ち上げ、その野性的な瞳を見つめ返した。


「ハーミル、その頼み、引き受けよう。俺の目的のためにも、その『新たな勢力』の正体を突き止める必要があるからな」 


「おお……! さすがは私の見込んだ男だ! ああ、お前のその冷徹な眼差し、本当にゾクゾクするぞ……!」


 ハーミルは頬を赤らめ、嬉しそうに俺の太い首にしがみついてきた。 


「ちょ、ちょっと! 離れてくださいって言ってるじゃないですかぁ!」


 エルーナが涙目で引き剥がそうとするが、ハーミルは「ふん、これは夫婦のスキンシップだ」とどこ吹く風だ。


「だが」と、俺はハーミルを優しく引き離しながら、言葉を続けた。


「すぐにその敵の拠点に乗り込むわけじゃない。俺たちには、少し準備期間が必要だ」


「準備期間?」


「ああ。俺の見た目はこれだ。人間の街を自由に歩くには、アルテア長から貰った認識阻害の魔法を試す必要がある。それに……この森に、一人『鍛え直さなきゃならないバカ』がいてな。一週間だ。一週間を目処に、戦力の底上げと街の散策を行う」



◇◆◇


「いやぁぁぁぁぁ! 死ぬ! 俺もう死んでるけど本当に消滅しちゃうぅぅぅ!!」


翌日。エルフの郷の裏手にある隠し洞窟。


アランの悲鳴が、森の奥深くに木霊していた。


「おーい甘えるなアラン! ほら、右からオーク・ゾンビが崩れてるぞ! 【死体操縦】の魔力パスが途切れてる、集中しろ!」


「無理だって! 同時に3匹動かすだけでも頭が破裂しそうなのに、なんでシードさんは容赦なく突っ込んでくるの!?」


 俺は木刀代わりに手にした太い丸太を軽々と振り回し、アランが操るオーク・ゾンビの頭部を正確に叩き割っていた。


 一週間の修行期間。俺が真っ先に取り組んだのは、リッチに転生したアランの『地獄特訓』だった。


 アランの中身はただの一般プレイヤーだ。レベル5のまま、強力な種族特性に溺れていただけ。


 だが、リッチという種族は本来、エデクロにおいて『最強のネクロマンサー(死霊術師)』になれるポテンシャルを秘めている。


「アラン、お前のクラスはただの愚痴り魔じゃない。前世で『死霊王アッシュ』ってボスが使ってた【マルチ・タスク・コントロール】の理論を思い出せ。お前自身の目で見るな、操っているゾンビの『視界』をジャックして、自分の手足のように動かすんだよ!」


「いやいや知らねーってぇ!そんな廃人プレイヤーみたいな動き、エンジョイ勢の俺にできるわけ――」


「できなきゃ、これから戦う奴らに骨の粉にされて終わりだぞ。お前、せっかく転生したのに、ここでデータ消去されたいのか?」


「……っ! クソがぁぁぁ! やってやるよ! 【死体リンク・感覚センス同調コネクト】!!」


 アランの眼窩の鬼火が、一瞬だけ青から「烈火の赤」へと変わった。


 その瞬間、ぐらついていたオーク・ゾンビたちの動きが、目に見えて鋭くなった。一匹が俺の丸太を受け止め、残りの二匹が左右から挟み込むように俺の死角へ回り込む。


「……ほう。やればできるじゃねえか」


 俺はニヤリと笑い、丸太を投げ捨てて【混沌魔法:ディザスター・ボルト】を極小出力で放ち、ゾンビたちを弾き飛ばした。


「ガハッ……! 10秒が限界……でも、今、何か掴んだ気がする……!」


 地面に倒れ伏すアラン。その脳内には、今までにないシステムメッセージが響いているはずだ。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


隠し適性を解放。


スキル【死体並列思考(Lv1)】を獲得しました。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「よし、今の感覚を忘れるな。一週間で、最低でも20匹のアンデッドを軍隊として動かせるようにしてもらうからな」


「シードさん……あんた、前世で絶対どっかのガチギルドの鬼教官だったろ……」


 アランはカタカタと震えながらも、その瞳には確かな『戦士の自覚』が芽生え始めていた。



◇◆◇


 特訓の合間、俺はシルヴィ、エルーナ、そしてハーミルを伴って、森の境界線を越え、人間族の辺境都市『グランバレー』の周辺へと足を運んでいた。


「シード様、本当に大丈夫なのですか……?」


 シルヴィが、いつになく緊張した面持ちで俺の顔を覗き込む。


「ああ、長から貰ったスクロールの効果を試す。……【認識阻害・幻影ミラージュ付与ヴェイル】」


 スクロールを破り捨てると、古代の魔導式が俺の巨体を包み込んだ。緑色の皮膚、尖った耳、そして禍々しいゴブリンエリートの姿が、光の屈折によって、みるみるうちに『身の丈2メートルを超える、浅黒い肌の厳つい人間の大剣士』へと書き換えられていく。


「わぁ……! シード様、すっごく強そうな人間の冒険者に見えます!」


エルーナが目を輝かせる。


「ふん、中身がお前なら、人間の姿だろうが魔物だろうが私は構わんぞ。むしろ、そのガッシリした体つき……人間の姿でも抱き心地が良さそうだ」


ハーミルが俺の腕に絡みついてくる。人間の姿になっても、彼女の溺愛っぷりは変わらない。


「行くぞ。街の散策だ。物資の調達と、何より『情報の収集』を行う」


 俺たちはグランバレーの巨大な石造りの正門をくぐった。門番の兵士たちは、俺の【認識阻害】によって、ただの「凄腕の傭兵とその連れ」としか認識せず、あっさりと通してくれた。


街の中は、活気に溢れていた。 


 露店からは美味そうな肉の焼ける匂いが漂い、多くの人間や冒険者たちが行き交っている。


 だが、俺の『ゲーマーとしての目』は、その活気の中に潜む「圧倒的な違和感」を、見逃さなかった。


(……おかしい。NPCたちの会話のレベルじゃない)


「おい聞いたか? 東の街道に、初期レベルじゃ絶対勝てないバグモンスターが出たらしいぜ」


「マジかよ、早く修正パッチ当てろよ糞運営……。っていうか、俺たちいつになったらログアウトできるんだ?」


 酒場の片隅で、そんな会話をヒソヒソと交わしている若者グループがいる。


 掲示板の前では、「おい、前世のノリでギルド作ろうぜ」と話している男たちがいる。


(ここにもいる……。数万人の転生プレイヤーたちが、この街にも相当数、紛れ込んで紛糾してるんだ) 


 彼らはまだ、お互いが転生者だと気づいていないか、あるいは小規模なコミュニティを作って様子見をしている段階だ。


 だが、このまま『運営の防衛システム』が本格始動すれば、彼らもただの「イレギュラーデータ」として消去される運命にある。


「シード様、あちらの路地裏……何か、妙な魔力の残滓があります」 


シルヴィが俺の耳元で静かに囁いた。


 俺は人間の傭兵の姿のまま、路地裏の暗がりに足を踏み入れた。


 そこにあったのは、ゴミ箱の裏の壁に、ナイフか何かで深く刻まれた――『正三角形と円が組み合わさった、幾何学模様の刻印』。

 

「ハーミル、これか?」


「……っ! ああ、間違いない! 我が獣人族の集落を滅ぼした奴らが残していった、あの不気味な刻印だ!」


 ハーミルが鋭い牙を剥き出しにして、低く唸った。すでに、運営の魔の手は人間の街のすぐ足元まで迫っている。


 一週間の修行を終えた時、最初の戦いが始まる。俺は刻印をじっと睨みつけながら、拳を強く握りしめた。


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