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最弱のゴブリンAに転生した俺、死亡フラグをへし折っていたら、いつの間にか最強の先導者にされていた件  作者: アルファベータ
第一章

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第18話 大賢者の名


 吹き荒れる猛吹雪の中、俺たちの体温は限界を迎えていた。魔力を遮断しなければループを突破できない。


 だが、それは魔力を頼みに生きるハイエルフのセレニアにとって、肌を晒す以上の屈辱と危険を伴う行為だった。


「だ、だめです……! こんな格好、シード様には見せられませんし、何より、ハイエルフの淑女が人前でこれ以上は……!」


 セレニアは薄衣を抱き寄せ、極寒の震えで顔を青ざめさせている。その頑なな拒絶に、俺は一つ溜息をついた。


「はぁ……わかった。なら、俺一人で登る」


「シード様!?」


「おいおい」


「お前たちはここにいろ。俺が庵の主を説得して、このループ術式を解除させる」


 俺は返事も待たず、ミスリル大剣を杖代わりにして石段を登り始めた。魔力を封じ、純粋な肉体能力だけで雪を蹴る。一歩登るごとに、肺が焼け付くように熱くなり、手足の感覚が麻痺していく。


「……ッ、ぐぅ!」


 三千段を越えたあたりで、もはや視界は真っ白だった。心臓の鼓動が耳元でうるさく響く。だが、俺は止まらない。


 俺がここで倒れれば、全てが終わる。影王会に支配された未来など、もはや死んでしまってはそれすらも分からない。


 俺のその愚直なまでの登頂姿を、氷柱に隠れた庵の窓から、老人がじっと見ていた。


「やれやれ……無様じゃのう、最近の若造は。だが、その性根だけは……認めてやろう」


 老人が指を鳴らす。その瞬間、庵の扉が開き、俺の視界が空間ごと捻じ曲げられた。



◇◆◇


 気がつけば、俺たちは暖かい暖炉のある庵の居間に転移させられていた。


 目の前には、白髪を乱した老人――伝説の魔法使い、マールスが胡坐をかいて座っている。


「ふーむ第一関門突破じゃ。だが、ぬか喜びするなよ。……お主ら、儂の魔法を引き継ぎに来たのじゃろ? ならば、力ずくで教えを乞うてみよ」


 マールスが杖を振ると、部屋の隅に置かれていた無数の鉄屑が、光の渦とともに人型へと再構成された。それは魔力の奔流をその身に宿した、巨大な魔法人形だった。


「魔法を極めるなら、まずは魔法を『いなす』術を学べ。……この人形を、魔法を一切使わずに体術だけで完封してみろ。できなければ、山の下まで叩き落とすまでじゃ」


「ふざけるなッ!」


「いや、やります!!」


 アランが【死神の鎌】を構えて飛び出すが、魔法人形は一瞬でアランの懐へ潜り込み、重い掌底を腹部に叩き込む。


 ドォン! と鈍い音とともに、リッチのアランが壁まで吹き飛んだ。


──しかし。


「ぐっ……! 硬い! ただの鉄じゃない、魔力の硬化層を纏ってる!?」


「体術だけだと言ったはずじゃ! 魔力を使えば、即座にこの人形の出力が倍加するぞ!」


 マールスがニヤリと笑う。それは、俺たちのステータスを完全に封じ込める地獄のルールだった。


 魔法人形が再び動き出す。その動きは、無駄が全くない。まさに『魔法』の極致を体現した体術だった。


 シルヴィがエルフ特有の俊敏さで背後をとるが、人形は視線も向けずに肘を後ろへ突き出し、シルヴィの側頭部を狙う。俺が咄嗟に割り込み、剣の柄でガードするが、骨に響くほどの衝撃が脳を揺らした。


「くっ……! アラン! 連携しろ! 俺が正面で抑える!」


「分かってますよ!」


 俺たちは魔法の使用を封じられ、原始的な格闘戦へと引きずり込まれた。しかし、相手は魔法人形。


 疲労もせず、痛みも感じない。対する俺たちは、数千段の階段登りで足が棒になっている。


 魔法人形の拳が、俺の腹部にめり込む。


 吐血。だが、ここで折れるわけにはいかない。俺は魔力の代わりに、「原始的な暴力」を解き放った。


 拳ではなく、頭突き。急所を外さない最短距離での強打。魔法人形がわずかにバランスを崩す。その隙にシルヴィが蹴りを見舞い、セレニアが人形の足元を崩すための足払いを入れる。


 だが、人形は床に着く直前、まるで何事もなかったかのように回転して起き上がる。


「遅い。もっと『魔力の流れ』を読め! 魔法とは、現象を見るのではない。現象を引き起こす『大気の振動』を読むのじゃ!」


 マールスの言葉が突き刺さる。


 人形が放つのは、ただのパンチではない。


 拳の周囲に真空の刃を作り出す『風魔法』の複合体。それを正面から受けていたのでは、いくら肉体が頑強でも内臓から破裂する。


(現象を読むな……流れを読め……)


 俺は再び、無鉄砲に突っ込んだ。


 人形の右腕が光る。また、風の刃がくる。


 普通なら避ける。だが、俺はあえて踏み込んだ。


「シード様、だめです!」とセレニアが悲鳴を上げる。俺は人形の肩口に手をかけ、その運動エネルギーを利用して、人形の軸を逆に捻じ曲げた。


 関節に負担がかかるポイントに、体全体重を預ける。


 ギギギ……と鉄が悲鳴を上げる。


 魔法は読んで防ぐのではない。魔法の構成そのものを、身体の接触によって強制終了させる。それが、マールスが教えようとしている「魔法人形の完封」の意味だった。


 だが、人形はそれを予測していたかのように、空いた左手で俺の喉元を掴み上げ、そのまま地面に叩きつけようとする。


「ガッ──」


「……いい目をしておるな。だが、お主らの修行はまだ始まったばかりじゃぞ」


 庵の中に、魔法人形の駆動音が激しく鳴り響く。数千段のと段を登った疲労と重なり、魔法を封じられた絶望的な格闘戦。


 この試練の果てに、俺たちは一体どんな魔法の境地を見出すのか。シードの戦いは、かつてない壁へと突き当たっていた。


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