第14話 先を見据える者
「……アルテア様からの手紙の内容は確認したわ。貴方たちが『影王会』と呼ばれる不届き者たちと戦い、その身を挺してエルフの郷を守ったこともね」
ハイエルフの郷リーズヘルテの玉座の間。
神秘的な大樹の根が絡み合う美しい謁見室で、守備隊長のセレニアは、銀の親書を丁重に懐へと収めた。だが、その白銀の眉は未だ険しく寄せられたままだ。
「ですが、信じがたい。アルテア様はこの手紙の中で、貴方を『世界の因果を狂わせる、新たなる混沌の王』と称している。人間の大剣士に化けてはいるけれど、貴方の魂の格、そして歪なマナは人間のそれではない……。申し訳ないけれど、リーズヘルテの秘薬とミスリルの武具を融通する前に、貴方の『真実の姿』を見せて頂戴」
セレニアの言葉に、左右に控える白銀の鎧を着たハイエルフの戦士たちが、一斉に手にした槍の石突を床に打ち鳴らした。完全に試されている。ここで「まがい物」だと判断されれば、即座に敵とみなされるだろう。
「シ、シードさん、どうします……? プレイヤーのステータス画面を原住民《NPC》に見せるなんて、エデクロの仕様じゃ隠しコマンドが必要でしたよね……?」
アランがフードの奥から不安そうに囁く。
「いや、この生きた世界なら、念じるだけで相手に開示できるはずだ。……いいだろう、セレニア。驚くなよ」
俺は認識阻害の魔法を自ら解除した。
光の屈折が解け、白銀の広間に、筋骨隆々とした緑色の巨躯――『ゴブリンエリート』としての真の姿を現す。
ハイエルフたちが一瞬、嫌悪と驚愕に息を呑むのが分かった。そして俺は、脳内で自分のシステムウィンドウに強く念じた。
(――ステータスオープン。リーズヘルテの者たちへ全面開示)
久しぶりにステータスをみることになったが、自分のステータスをこれほど凝視するのは初めてだった。眼前、そしてハイエルフたちの前に、半透明の光り輝くウィンドウが浮き上がる。
そこには、俺の予想を遥かに超えた『混沌さ』が刻まれていた。
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【ステータス】
名前 シード
種族: ゴブリンエリート(覚醒途上)
メインクラス:混沌の先導者
レベル:28
HP : 4,200 / 4,200
MP : 5,800 / 5,800
筋力 : A+ (限界突破)
耐久 : A
敏捷 : B+
魔力 : S (変異特性)
器用 : C+
固有スキル(パッシブ/アクティブ):
【混沌魔法(Lv4)】
【因果強奪(Lv3)】
【認識阻害・幻影付与】
【絶望の威圧(Lv2)】
特別固有パッシブ(常時発動):
【先導者の恩恵】
・世界のイレギュラーを先導する者に与えられる祝福。自身が率いる眷属の獲得経験値を3倍にし、彼らが成長するたびに、その成長度の一部が自身のステータスへ永続的にフィードバック(還元)される。
特別称号:
【先を見据える者】
・世界の運営システム、およびリセットの因果を幻視し、それに抗う意志を持つ者に宿る至高の称号。
効果:全ステータスが常時+30%補正。さらに、運営システムから受けるデバフ・状態異常の持続時間を50%短縮し、相手の行動予測を補正する。
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「な……ッ、何、このステータスは……!?」
セレニアがその美しい顔を驚きで歪め、数歩後ろによろめいた。左右のハイエルフの戦士たちに至っては、手にしたミスリルの槍をガタガタと震わせ、戦慄している。
彼らが驚いたのは、俺が下級の種族「ゴブリン」であることではない。そのステータス、スキルのレベル、そして何より異次元の特別称号の禍々しさと神聖さに圧倒されたのだ。
「ゴブリンでありながら……魔力値が、我が郷の長老並みの『S』ですって……!? それに、このスキルは何? 【先導者の恩恵】……【先を見据える者】……!?」
「おいおいマジかよ……」
背後でアランも髑髏の顎をガクガクと震わせていた。
「シードさん、あんたのそのパッシブ、ぶっ壊れなんてレベルじゃねえぞっ! 俺たちのレベルが上がれば上がるほど、あんたも自動的に無限に強くなるってことじゃねえか! だからあの一週間で、俺のレベルアップに合わせてあんたの魔力も跳ね上がってたのか……!」
シルヴィもまた、畏敬の念を込めて俺の背中を見つめている。
「【先を見据える者】……全ステータス30%向上……。シード様、あなたはやはり、この歪んだ世界を正すために現れた、真の王なのですね」
(んーなるほどな……。ジークを殺し、アランを鍛え、ハーミルを従えたことで、俺の『クラス』と『称号』が世界に認証されたわけだ)
運営がこの世界をリセットしようとする「先」を読み、プレイヤーやNPCを巻き込んで抗う先導者。
リル・ムルに負わされた右腕の麻痺も、この称号の力がなければ、数日経っても治らなかったに違いない。
「セレニア、これで納得したか」
俺は腕を組み、ハイエルフの守備隊長を見下ろした。
セレニアは、ゴブリンである俺から放たれる、圧倒的な【先を見据える者】の威圧感に気圧されながらも、深く、深く一礼した。
「……失礼いたしました、シード様。貴方は、私たちが計れるような器ではなかった。アルテア様が命を託す理由が、今、はっきりと理解できました」
彼女は顔を上げ、きっぱりと告げた。
「リーズヘルテは、貴方たちを『世界の救世主』として歓迎します。至急、傷を癒やす高位治療薬と、貴方のその強大な混沌の魔力に耐えうる、我が郷の秘蔵の武具を準備させます。……そして、貴方が探している『魔法使いマールス』の真の居場所についても、お伝えしましょう」
「ああ、よろしく頼むよ」
得られたのは、世界をハッキングするほどの絶対的な『特別称号』。仲間を強くすれば自分も強くなる最強の恩恵を手に、シードの牙は、巨悪『影王会』の心臓へと確実に近づいていく。




