第5話 バニッシュメントデイ・トゥ・リィド
《 - 一週間前 - 》
《 アルヴァー大陸東側・人間領 》
「【ハイレベルテイマー】、リィド=アリアード。
君をこの『勇者パーティ』から追放する」
冒険者の喧騒が絶え間なく響く酒場の一画。
リィドの目の前で簡素な木製の椅子に座る端正な顔立ちをした黒髪の青年―――【勇者】フィリオンは、全くの躊躇も迷いもなく言い放った。
仮にも2年以上このパーティで共に戦ってきた仲間に対する情は、光を失ったかのような漆黒の瞳からは一切感じられない。
リィドは絞り出すように声を出した。
「……理由を聞いてもいいですか、フィリオンさん」
「君の代わりとなる『新戦力』を見つけた。
その結果、君が要らなくなったからだ」
即答であった。
まるで使い古した武器や防具を新品と取り換えるかのような感覚で、彼は今まで共に戦ってきた仲間の追放を決めたということであった。
「………………」
リィドはチラリと横目で他のパーティメンバーの様子を窺ってみた。
「おい、無駄話はまだ終わらないのか……?
さっさと次のダンジョン攻略に―――モンスター共をブッ殺しに行くぞ……!」
ドワーフの【重戦士】は目を血走らせながらイライラした声を上げ―――
「ふわぁ…………眠いぃ…………ぐぅ………」
エルフの女【魔導士】はテーブルに突っ伏して寝息を立て―――
「えーっと、『ホワイトドラゴン』の牙に『アシッドスライム』の粘液、『タイタンオーガ』の肝……うん、これで素材は全部揃った。
後は『スキル』調整を―――」
眼鏡をかけた小人族の女【補助係】はモンスターの素材を手に取りながらブツブツと呟き続けていた。
どうやら他のメンバーもリィドの追放に対して反対意見は無い……というか、心底どうでもいいとでもいうような有様だった。
半ば予想していた仲間の反応を見終えたリィドは再び【勇者】へと視線を戻す。
「……その『新戦力』っていうのは、一体誰なんですか?
この『勇者パーティ』で通用する人材なんて、そうそう見つかるとは―――」
「君には関係のない話だよ。
今、この時を以って『勇者パーティ』ではなくなる君にはね」
取り付く島もない、という言葉を体現しているかのようだった。
もはやこれ以上は時間の無駄だとでも言うように、【勇者】は最後の言葉を突きつける。
「既に『冒険者ギルド』には通達済みだ。
さようなら、『元勇者パーティ』リィド=アリアード」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「…………」
重い足取りで酒場から出て来たリィドは、俯いたまま当て所もなく街を歩いていた。
実際の所―――いつかこんな日が来るのではないか、と予想はしていた。
自身の『ジョブ』―――【ハイレベルテイマー】は余りにも使い勝手が悪すぎる。
今までメリットとデメリットの天秤がギリギリでメリット側に傾いていたというだけで、いつその均衡が崩れてもおかしくはなかったのだ。
そして『勇者パーティ』のリーダー。
【勇者】のジョブに目覚めた青年―――フィリオン。
彼は世間からこう呼ばれている。
『実利主義の権化』―――と。
力を持つ者ならば誰であろうが構わず仲間にし、力足らずと判断したのならば有無を言わさずパーティから追放する、外聞などまるで顧みない『完全実力主義』。
それが『勇者』率いる『勇者パーティ』なのであった。
何せ本来自由に決められる『パーティ名』を『勇者パーティ』という、余りにもストレート過ぎる名前にするぐらいである。
外聞がどうでもいいにも程があるだろう、とリィドは率直に思った。
(まあ……正直言って、あのパーティの居心地は最悪だった)
先に述べた通り、実力さえあればいいという方針で集められたパーティメンバーは、その誰も彼もが人格に問題を抱えている者ばかりで、まともに会話が成立することさえ稀であった。
彼らと別れること自体には特段悲しさは感じていない。
むしろ、これからはもう彼らに振り回されることがないのだと考えれば気が楽になるぐらいであった。
だが―――彼らの『力』は、紛れもなく『本物』だった。
『実利主義の権化』と称される『勇者』に今もなお認められているパーティメンバーは、それだけの実力を確かに持っている。
それは2年以上にわたり彼らの傍で共に戦い続けてきたリィド自身が誰よりも知っていた。
そして―――
自分もそんな『本物』の1人なのだという事実は、リィドにとって―――
「間違いなく―――『誇り』だったんだ」
気が付けばリィドの頬に、一筋の雫が流れ落ちていた。
それを服の袖で乱暴に拭い―――顔を上げる。
「っ……!
ええい、いつまでもくよくよしてなんかいられない……!
これからのことを考えなきゃ……!」
だが―――すぐにリィドの胸には暗雲が立ち込め始める。
リィドは高レベルの『上級モンスター』しか従えることのできない【テイマー】である。
そしてリィド自身の『ステータス』は―――
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膂力 :20
耐久力:20
敏捷力:15
集中力:30
魔力 :10
魔力量:500
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と、『E級冒険者』の平均以下であった。
唯一『魔力量』に関しては人並み以上の数値と言えるのだが―――肝心の『魔法』は『ステータス』を参照する解析魔法しか使えないので完全に宝の持ち腐れである。
ちなみに余談であるが―――『ステータス』の数値と『冒険者ランク』は『100』区切りで対応している、というのが『冒険者』における共通認識である。
つまり『膂力』、『耐久力』、『敏捷力』、『集中力』、『魔力』の5種の『ステータス項目』。
そのいずれかが『E級』ならば『100』未満。
『D級』ならば『100』以上『200』未満。
『C級』ならば『200』以上『300』未満。
『B級』ならば『300』以上『400』未満。
『A級』ならば『400』以上『500』未満。
『S級』ならば『500』以上―――となる。
元々【テイマー】は自身の『ステータス』は低くなる傾向にある『ジョブ』であった。
その『ステータス』の低さをモンスターの力によって補うのが【テイマー】の本領とも言える。
だが、リィドが従えることの出来る程の高レベルの『上級モンスター』はダンジョンの最深部でなければ遭遇する機会はまず無い。
そしてリィド1人ではその『上級モンスター』に辿り着くより先に、間違いなく道中のモンスターにやられてしまうだろう。
つまり、リィドが従えられるモンスターの元まで辿り着くには他の『冒険者』の協力が必須ということになるのだが……必然的にその『冒険者』には高レベルの『上級モンスター』の元まで自分を連れていける程の実力が求められる。
そしてモンスターを従えるまで自分は完全にお荷物。
一体どんな奇特な『冒険者』であれば協力してくれると言うのだろうか。
そもそも―――リィドの力は『EX級』という『S級』をも超えたランクを持つ『勇者パーティ』だからこそ活用することが出来たのだ。
並の『冒険者』―――いや、並の『上級冒険者』では間違いなく持て余してしまうことだろう。
つまるところ―――リィドがこれからも『冒険者』として活動を続けるのは絶望的と言ってもいい状況なのであった。
「………………」
無理して『冒険者』を続ける必要なんてない。
続けるにしても、『E級冒険者』として今の『ステータス』でも通用するギルドからの『冒険者依頼』をこなしていけばいいじゃないか。
きっと他人に相談すればそんな答えが返ってくるのであろう。
だが――――
「……方法はある」
リィドはその瞳に決意と覚悟を秘めながら、呟いた。
「普通のダンジョンでは、僕が『上級モンスター』に遭遇する前に他のモンスターにやられてしまう……
なら……初っ端から『上級モンスター』に遭遇する可能性の高いダンジョンに挑戦すればいい……!
つまり、『上級ダンジョン』……いや―――」
生半可な難易度のダンジョンでは却って成功率は低くなる。
やるのならば―――『最高難易度』。
『超上級ダンジョン』―――!
リィドは―――ここから一番近い場所にある『超上級ダンジョン』が存在する方角へ目を向けた。
『魔族領』との境界上にあると言われている、その『宮殿』が存在する方角へ―――




