第4話 2人の終わり―――そして始まり
「それで……貴様はどうするつもりだ?」
「え……どうする、って……」
お互いに自らの(割とどうしようもない)『力』について打ち明け合った、その後。
ステラフィアの問いかけに、リィドは戸惑いの声をあげる。
「貴様の目の前にいるのは碌に動くことも出来ない『魔王軍四天王』。
ならば、やるべきことは一つ。
そうだろう?
『魔王軍』を滅するという『使命』を持った『勇者パーティ』のメンバーよ」
「っ……!!」
その瞬間、どこか和やかさすらあったはずのこの場の空気が一瞬で張り詰める感覚がした。
「もっとも……こちらも黙って殺られるつもりはないがな」
いまだ万全の状態には程遠い様子のステラフィアが、その4つ足を無理矢理に立ち上がらせようとしながら、リィドを睨みつける。
だが―――
「いえ……少なくとも、今の僕にその『使命』はもうありません」
「なに……?」
どこか憂いの表情を帯びた少年の返答に、ピクリと眉を動かす。
「僕は―――『勇者パーティ』を追放されたんです。
ちょうど、1週間ほど前に」
「なっ―――!?」
自虐的な笑みを浮かべながらそんなことを告げた少年に対し、女魔族は瞠目し―――そして、思わずといった声が漏れる。
「ま、まさか―――お前も―――!?」
「えっ?」
お前『も』―――って―――?
リィドがその言葉の意味を聞き返そうとした、その時―――
「きゅるーーーーっ!!!」
突然―――甲高い悲鳴のような鳴き声が聞こえて来た。
「わっ!?
な、なんだ!?」
「さっきの―――『ジャイアント・スライム』?」
リィドとステラフィアが振り返ると、そこにはつい先ほど通路の奥へと姿を消したはずの巨大な『スライム』が、ぼよんぼよんと飛び跳ねながら再びこの場へと駆け込んできた。
まるで―――恐ろしい『何か』から逃げて来たかのように。
直後。
―――ズンッッッ………!!!
「「―――ッ!?」」
このリィド達のいる広大な広場全体を揺らすほどの、巨大な『足音』が響き渡り―――その『巨躯』が通路の奥より姿を見せる。
「ウゥゥゥウウゥ………グォオオオオォォオオオオオッッッッッ!!!」
全身を赤褐色の皮膚と分厚い筋肉に覆われた、全長8メートルの一つ目巨人。
『レベル80』の『上級モンスター』―――『タイラント・サイクロプス』が。
「な、あっ……!!」
「っ……!!」
リィドとステラフィアは突然現れた巨人とそれが放つ咆哮に息を呑む。
『タイラント・サイクロプス』は本来ダンジョンの最深部で待ち受けている『最後の番人』と称されるモンスターであるが―――それは『上級』以下のダンジョンでの話。
番人クラスのモンスターと当たり前のように道中で遭遇する―――それが『超上級ダンジョン』であった。
そして―――
(このモンスターがここに現れたのは―――偶然じゃない……!)
リィドはチラリと隣にいる女魔族を見やった。
(彼女がさっき唱えた魔法―――《リインフォース・アームズ》……!
一瞬で消えてしまったとはいえ……『ステータス』を100倍にまで増加する程の、間違いなく高位の魔法……!
その強大な魔力に、モンスターが誘われたんだ……!)
―――ズンッ……!! ズンッ……!!
そんな思考を巡らせている間にも、『タイラント・サイクロプス』はリィド達の方へと歩を進めてきていた。
その一つ目巨人の手には自らの全長に匹敵するサイズの石柱が握られており、それをもってこのダンジョンの『侵入者』達を叩き潰そうとしていることが一目で分かってしまった。
焦燥と共にリィドは右手を突き出し―――
「《テイム・チェーン》!!」
―――ジャリリィッッ!!
その掌より再び『魔力の鎖』を伸ばし、『タイラント・サイクロプス』の身体へと巻き付ける。
しかし―――
―――ズンッ……ズンッ……!!
赤褐色の巨躯はそんな『鎖』など全く意に返さず、『獲物』達に向かって歩み続けるだけであった。
「っ……!
ダメ、だ……!
『アレ』でもまだ『レベル』が低過ぎる……!」
ステラフィアに語った通り、リィドは『上級モンスター』の中でも更に高『レベル』のモンスターしか従えることが出来ない。
『レベル80』ともなれば『S級冒険者』でさえ単独で挑むことは無謀だと言われる程の存在である。
だが―――そんな強大なモンスターでさえ、今のリィドが従えられる『レベル』には至らなかった。
自分が絶対に勝てないようなモンスター相手に『『レベル』が低すぎる』などという言葉が出てきてしまうおかしさに、いっそリィドは歪な形の笑みさえ浮かびかけてしまう。
「と、とにかく今は逃げないと……!
貴女も、早く立ち上がって!」
「っ―――!」
リィドは隣で横倒しになっているステラフィアへ声をかけ、共に逃げるように促す。
半人半馬の女魔族は震える馬の四つ足で何とか自らの身体を支え、立ち上がった。
だが、その足が向けられた先は―――
「くっ―――ああああッッ!!」
こちらへと迫りくる『巨躯』の方向であった。
「ちょっ!!
貴女、何を―――!?」
「私は―――逃げん!!」
焦りと混乱の声を上げるリィドに対し、ステラフィアはその目に決意の光を宿しながら叫んだ。
「私は絶対に―――モンスターに背を向けたりはしない!」
「なっ―――!」
その言葉と共に、ステラフィアは無理やりに足を動かし、もうあと少しという距離まで迫っている『タイラント・サイクロプス』へと自ら向かおうとしていた。
そして―――
「《リインフォース……アームズ》……!
《ナンバーズワン―――》」
再び『武器生成魔法』を唱えようとし―――
「っ!!
《テイム・チェーン》!!」
―――ジャリィッ!!
それを見たリィドが瞬間的に『魔力の鎖』を掌から伸ばし、ステラフィアの身体へと巻き付けた。
彼女を従えようという意図はない。
そもそも『従属化』は理性を持った生き物には適用されない、というのが【テイマー】の常識であった。
これは単純に彼女の動きを止めようとしての行為であった。
「っ………!
邪魔を、するな!!」
「だ、駄目ですよ!!
今の貴女はもう魔力がほぼ尽きかけているんですよ!?
これ以上魔法を使ったら、確実に貴女の命が―――!」
自殺にも等しい行動を止めようと必死に『鎖』を引っ張るリィドに、それに逆らおうとするステラフィア。
そんなやり取りに2人が気を取られている内に―――
―――ズンッッッッ………!!!
「「―――っ!!」」
『タイラント・サイクロプス』は、2人の眼前へと辿り着く。
敵前で悠長に言い争っている獲物達に対する慈悲など、モンスターには存在しない。
―――ズォォォ………
一つ目の巨人は石柱を振り上げ―――
―――ブォンッッッッ!!!
その愚かな獲物2人に目掛け―――振り下ろす。
「「――――――」」
己の頭上に迫る確実な『死』を前に―――
(死ぬ―――こんな所で―――?
僕の『夢』は―――ここで終わる―――?)
(これで―――私は、終わり―――?
あの『約束』も―――果たせないままに―――?)
その時の2人は―――
((―――いいや!))
同じ『思い』を、抱いていた―――
「「終わって、たまるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」
その瞬間―――
―――ザンッッッッッッッッ!!!!
世界が―――切り裂かれた。
「「………………え?」」
少年と女魔族は、全く同じ表情で呆けた声を出した。
気が付けば―――目の前にまで迫っていた石柱ごと、『タイラント・サイクロプス』の身体が一刀両断されていた。
そして、半人半馬の女魔族の手には―――不思議な銀色の光に包まれた『大剣』が握られていた。
「これ、は……《ライジングブレード》……?
いや、しかし……身体にはなんの負担も……
それに……この光は………?」
見たことのない輝きを放つ『大剣』を眺めながら、ステラフィアは困惑の声をあげる。
そして―――
「これって、まさか―――
『従属化』が、適用されてる―――!?」
ステラフィアの持つ『大剣』と同じ輝きを放つ自らの『鎖』を、リィドは驚愕の眼差しで見つめていた―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
こうして―――
2人の追放されし者達の物語は、ここから始まりを迎えるのだった。




