第18話 僕は―――
「リィド、ひどーい。
あんなにも一緒の時間を過ごしてきた仲間にこんな仕打ち、あまりにも鬼畜すぎる」
「貴女がそれを言いますか……」
当初のテンションに戻ったマリティアが大の字で身を投げ出した格好で非難の声をあげ、リィドがそれに呆れ気味に応える。
「おいリィド……なんかコイツ割と余裕そうに見えるんだが……
もしかしてお前、手加減したのか……?」
「……いや、少なくとも僕は本気だったよ」
『戦斧』による一撃をまともに叩き込まれておきながら普通に会話が出来るような状態のマリティアを見て、軽く引き気味に疑問の声をあげるステラフィアに、リィドは溜息交じりに答えた。
「マリティアさんは尋常じゃない程の『魔力』を普段から身体に帯びていて、それが天然の『鎧』になってるんだよ。
さっきの攻撃もノーダメージって訳じゃないんだろうけど、致命傷には届いてないよ。
そうでしょ? マリティアさん」
「まあね。
でも、ボクもう動けないよ。
残ってたボクの魔力、さっきので殆ど散っちゃった。」
「………………」
マリティアをよく見てみると、花びらのような衣服はボロボロになっているが本人の身体には大きな傷は見当たらなかった。
先程の一撃は間違いなくこれまでの戦いの中で最大の破壊力が込められており、いかなる『上級モンスター』でも絶命は免れない威力であると確信できる程のものであったのだが……
ステラフィアは改めて、目の前の女【魔導士】の『異常性』に軽く身震いを起こしてしまうのだった。
もっとも、リィドの方はそれを分かっていたからこそ、本気で『戦斧』を振り下ろせた訳なのだが。
そんな先程までの激しい戦闘が嘘のような、弛緩した空気の中―――
「マリティアさん―――改めてお話します」
リィドは床の上に倒れる女【魔導士】に向けて、真剣な表情で話しかける。
「彼女は『おもちゃ』じゃありません。
僕の大切な『相棒』―――ステラフィアです」
その言葉に、リィドの隣に立つステラフィアがピクリと反応し―――赤くなった頬を誤魔化すように顔を背けた。
「もし、また彼女の命を脅かすような真似をしたら―――今度こそ、僕は貴女を許しません」
本気の眼差しと共に、リィドは元『仲間』へと告げる。
「全力で―――貴女を『排除』します」
その眼差しに射抜かれたマリティアは―――静かに頷いた。
「……うん、分かった」
そして、視線を少年の隣に立つ女魔族へと移す。
「ステラフィアさん―――ごめんなさい」
「―――!」
まさかこの女【魔導士】から素直に謝罪をされるとは思っていなかったステラフィアは、思わず目を丸くしてしまうのだった。
そして―――
「………ねえ、リィド」
女【魔導士】は―――改めてリィドに向き直り、口を開く。
「今更だとは思うけど―――『勇者パーティ』に戻ってきて欲しい」
「「!!」」
リィドとステラフィアが、息を飲んだ。
「リィドの追放を取り消して、って……ボクも一緒に、フィリオンにお願いするから」
マリティア=エリミネイト。
彼女はいついかなる時も、その圧倒的な『力』によって無理やりに『我』を押し通して来た。
だから、これは―――
「お願い……
ボク、リィドがいないと―――寂しい」
きっと彼女にとって―――生まれて初めての『懇願』。
「リィド……」
「………………」
その『懇願』の意味を、彼女と長い時間共に過ごしてきた少年は、誰よりも理解していた。
そのうえで―――隣に立つ女魔族の、不安に触れる瞳をチラリと見た少年は―――
「マリティアさん―――この戦いが始まる前に言おうとしていことを、改めて言います」
朗らかな笑みと共に―――
「僕はもう『勇者パーティ』じゃありませんし―――『元勇者パーティ』でもありません」
確固たる意志を以って、告げる。
「僕は―――人魔混合パーティ『ダブル・バニッシュメント』の【テイマー】。
リィド=アリアードです」
その言葉を聞いたマリティアは、そっと瞳を伏せた。
「…………そっか」
ぽつりと呟きながら―――彼女は、ふと考える。
(リィドが追放されたあの日―――)
『【ハイレベルテイマー】、リィド=アリアード。
君をこの『勇者パーティ』から追放する』
(もしも、ボクがリィドを追いかけていたら―――)
今頃―――
彼の隣には―――
(―――なんて、ね)
マリティアは、小さく笑いながら詮無い想像を止めた。
そんな『後悔』という感情もまた―――彼女が生まれて初めて抱くものであった。




