第17話 ああ、そっか
それは―――
いつかの日の記憶―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《『ギルド本部』一階 酒場兼受付場 》
「えっ!?
は、『ハイ・エルフ』!?
それってエルフの『王族』のことですよね!?
マリティアさんって―――『王女様』だったんですか!?」
「ん、まあね」
リィドが『勇者パーティ』に加入し、数ヵ月程が経ったある日。
ふと、この規格外の実力を持つ女【魔導士】が『勇者パーティ』に加入した経緯が気になったリィドは彼女にそのことを尋ねると、いきなりそんな衝撃の出自をカミングアウトされたのだった。
「な、なんでそんなお人が『冒険者』におなりになられたんですか……?」と、リィドは思わず自身の言葉に恭しさを付け足しながら続きを促した。
「んーとね、確かボクが10歳くらいの時だったかな。
故郷の『里』のすぐ近くに『ダンジョン』が『発生』したんだよね。
それも『上級ダンジョン』で『絵札』は『王』の」
「ええっ!?
さ、最高難易度の『上級ダンジョン』が!?」
「うん、それでダンジョンから出て来たモンスター達が『里』を襲ってたの」
それは、ダンジョンが『自然発生』するこの世界で稀に起きる『ダンジョン災害』と呼ばれる現象である。
なお、物理的な出入り口が存在しない『超上級ダンジョン』からはモンスターが出てくることはないが―――そうでなければ人類はとっくに滅びていただろう、などと人々の間ではまことしやかに囁かれていた。
そして、この現象が『人間領』で起きた場合、速やかに近くの国の兵士や『冒険者』によるモンスター討伐、人民の救護が行われる運びになっているのだが―――マリティアの故郷の『里』に救援が来ることはなかった。
その『里』は外界との接触が一切禁じられている非常に排他的な土地であったのだ。
エルフは魔法を扱う術に長けた種族であり、『里』に居るエルフ達も少なくとも並の人間よりかは戦闘に秀でている者達ではあったが―――『上級ダンジョン』から生まれる高『レベル』モンスター相手には到底及ばない。
エルフ達はモンスターに蹂躙され、もはや『里』の壊滅は避けられない状況にあった―――
―――本来であれば。
「その時にね―――ボク、魔法でモンスターを全部やっつけたの。
で、そのままその『ダンジョン』も攻略したの」
「――――――は?」
さっき、確か貴女が10歳の頃の話って言ってましたよね―――?
あまりの衝撃に頭の中に浮かんだ疑問を言葉にする事も出来ず、リィドは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
そんな少年の様子など気にせず、女【魔導士】は話を続ける。
「ボクねー、生まれた時から色んな魔法使えたんだけどさ。
危険だからって、ずっと周りから使うの禁止されてたんだよねー」
先程述べた通り、エルフは元々魔法を扱う術に長けた種族ではあるが―――マリティアは通常のエルフを遥かに凌駕した魔法の才能を持っており、他のエルフが50年かけて扱えるような『高位魔法』を生後数ヵ月の内に唱えられていた、とのことであった。
当然、そのような魔法を軽々しく魔法を使わないようにマリティアは両親などから厳重に言いつけられて育ってきたのだが―――
「でも、その日に初めて思いっきり魔法を使って―――それで『遊ぶ』楽しさを知っちゃったの」
そして、そこからの彼女はもう止まらなかった。
『遊び』を覚えた彼女はすぐに新たなダンジョンを求めて『里』の外へと飛び出していってしまったのだ。
勿論、両親を含めた周りのエルフ達は必死に止めようとしたが―――1人で『上級モンスター』の群れを一掃し、1人で『上級ダンジョン』を踏破出来る彼女を、一体誰が止められるというのか。
「そんなわけで『里』の外に出て来た訳なんだけど……ボク、外のことは何にも知らなかったんだよね。
だから『ダンジョン』に行くにはどこに向かえばいいのかも分からなかったの。
それで、しばらく10日ぐらい適当に歩いてたら大きな街が見えて来て、それが今ボク達が居るこの街だったんだけど―――」
「いやちょっと待って!!
今さらりと10日ぐらい歩いてたって言いました!?」
「あ、言ってなかったっけ?
ボク、1ヵ月ぐらいは飲まず食わずで動けるし、眠らず歩くこと出来るよ?
よく分かんないけどボク、自分の『魔力』を栄養に変換することが出来るんだって」
絶句するリィドを無視し、マリティアは続きを話す。
「それでボク、この街に入ってすぐにちょっと騒ぎ起こしちゃったんだよね」
「さ、騒ぎ……?」
「うん、ボクさ、ずっと『里』で暮らしてて『お金払ってものを買う』っていうのが分かってなくてね。
街頭の店先で売り出されてたいい匂いのする食べ物をそのまま取って食べたの。
そしたらお店の人が怒って、近くにいた衛兵を呼んで来たんだけど―――」
「………………」
そこから先の話の展開に、リィドは猛烈に嫌な予感を抱いた。
「なんか面倒くさそうだったんで、軽く吹っ飛ばしちゃったの」
「わぁ…………」
その後、『E級冒険者』や『D級冒険者』が彼女を捕縛しようと出払ったが、マリティアは当然の如くそれらも吹き飛ばし―――
更に『C級』、『B級』、『A級』、『S級』と次々に『冒険者』が騒動の鎮圧に動き出したが―――
彼女は―――その全てを薙ぎ払った。
そして―――
「最後に、フィリオンが出て来たの」
『S級冒険者』ですら止めることのできない規格外の『力』を持つ女エルフの前に現れたのは、同じく規格外の『冒険者ランク』――『EX級』を与えらえた者、【勇者】フィリオンであった。
「『さっきまで吹っ飛ばしてた奴らとは違う』って、ボクは思ったよ。
『コイツを吹っ飛ばすのは、かなり面倒くさそうだ』ともね。
それで、ボクも本気を出そうかと思ったんだけど―――」
マリティアが行動を起こすよりも先に―――その【勇者】は口を開いた。
『僕のパーティに入らないか』、と―――
「フィリオンと『遊ぶ』ことにも一応興味はあったけど―――ボクを『ダンジョン』に連れてってくれるって言うし、本当に力を貸して欲しい時以外は自由にしてていいって話だったから、まあそれならいいかって思ってその話を受け入れたの。
で、そのまま今に至る、って感じかな」
「ほへぇ……」
『無茶苦茶』としか言いようのない、ある意味余りにもマリティアらしい『勇者パーティ』加入経緯に、リィドはもはや間の抜けた声を漏らす他なかった……
「ボク、もうそれから10年ぐらいはこのパーティに居るっけなー」
「じゅ、10年……!
そんなに……!?」
昔を懐かしむようにぽつりと零した呟きに、リィドが目を見開いて驚きの声をあげる。
【勇者】フィリオンの別名は『実利主義の権化』。
その由来は実力者であればどんな者でもパーティに加え、力足らずと判断したら即座にパーティから追放するというこの上ない程の『実力主義』という所から来ている。
これまでも決して少なくない数の『冒険者』が『勇者パーティ』へと加入し―――そして、その殆どが『戦力外通告』を受けて追放されていった。
そんなパーティに10年も居続けているという事実は、いかにこの女【魔導士】の実力が優れているかを如実に示していると言えるだろう。
(あ、そういえば―――)
ふと―――マリティアは隣に居る少年【テイマー】のことを見つめ、あることに思い至った。
(この10年で色んな人がパーティに入ったり、パーティから出てったりしたけど―――こうやって、ボクのことについてとか色々『お話』するのって、リィドが初めてだ)
マリティアはこれまでダンジョンで『遊ぶ』こと以外、一切の興味はなかった。
自身が所属する『勇者パーティ』についても、ただ自分が『遊び』やすくなる為の『場』としか思っておらず、これまでに『勇者パーティ』に加入してきたメンバーとも碌なコミュニケーションを取ってはこなかったのだ。
そんな中でモンスターを――彼女にとっての『おもちゃ』を操り、共に『遊んで』くれる者であるリィドとは、自然と話し合う機会が増えていた。
(なんだろう―――)
そんなリィドとの何気ない交流が―――
(よく分かんないけど―――なんかいいなぁ)
彼女の心に―――自分でもよく分からない『心地よさ』を与えていたのだった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
(ああ―――そっか)
過去を揺蕩っていた女【魔導士】の意識が、現在へと戻る。
(ボク―――
リィドと一緒に遊んだり、お話するの―――
楽しかったんだな―――)
瓦礫と化した床の上に身を沈めたマリティアは―――
ぼんやりと、そんなことを思うのだった―――




