第16話 重なる意思、共鳴する心
それは、リィドとステラフィアの2人が『下級ダンジョン』で『力』の検証を行っていた時のこと―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 - 5日前 - 》
《 下級ダンジョン 》
「………やはり、妙だ」
「―――?
どうしたの、ステラ?」
『下級モンスター』を相手に『力』を試し始めて数十分も経った頃。
ステラフィアが零した呟きに、リィドが首を傾げた。
「リィド……『愚者の宮殿』で『タイラント・サイクロプス』に襲われた時のこと、覚えているか?」
「え……?」
『タイラント・サイクロプス』―――それは2人が初めて出会った時に現れた『上級モンスター』。
あの時、2人は確かに自身の『終わり』を予感し―――
「そりゃ勿論覚えてるよ。
だって―――僕達の『始まり』だったんだから」
「…………」
恥ずかしげもなくそんなことを口にするリィドに、ステラフィアは若干頬を染めて閉口してしまうが―――すぐに『本題』を切り出す。
「あの時、私は《ライジングブレード》の一撃を以ってあのモンスターを討ち倒した。
だが―――」
ステラフィアは今も自身が握っている『大剣』をじっと見つめながら、告げた。
「あの一撃の威力は―――通常時の《ライジングブレード》よりも、明らかに上回っていた」
「えっ―――?」
その発言にリィドは戸惑いの声をあげた。
まだまだ彼女との付き合いも短く、通常時の『力』がどの程度なのかも把握できていないリィドにはそんな『違い』など分かるはずもない。
しかし―――
(あ……でも、そういえば―――)
リィドも少し気になる部分はあったのだ。
それは、『タイラント・サイクロプス』の『ステータス』に起因する。
(確か、あのモンスターの『膂力』は―――『600』だったはず。
ステラの『大剣』でかかるステータス補正は全『ステータス』を『100倍』にするというもの。
つまり、あの時のステラの『膂力』は『500』―――『タイラント・サイクロプス』には及んでいなかった……!)
にもかかわらず―――ステラフィアの一撃は、『タイラント・サイクロプス』の攻撃を正面から打ち破った。
「『愚者の宮殿』の攻略時―――そして今も《ライジングブレード》を使ってはいるが……あの時のような威力は出ていない。
つまり―――」
ステラフィアは視線をリィドへと向けた。
「あの時―――《ライジングブレード》によるステータス補正以外の『何か』があったんだ」
「ステータス補正以外の―――『何か』……?」
そして、リィドを見つめるステラフィアはの瞳は―――その『何か』とは、リィドの『力』によるものなのではないか、と告げていた。
「………………」
その瞳を受け、リィドは静かに思い起こす。
あの時、自分は―――
「ねえステラ……『タイラント・サイクロプス』に襲われて、君に『従属化』を施した時―――僕は、もう一つ別の『スキル』を発動していたかもしれないんだ」
「……別の『スキル』?」
「うん………そのスキルの名前は『完全同調』。
その効果は―――『従属化』したモンスターと、『一心同体』になること」
「―――?
それは……どういう意味だ?」
困惑の表情を浮かべるステラフィアに、リィドはその『スキル』の詳細を語った。
自らの『意思』を以って、モンスターの身体を操れるようになること。
そして、そのモンスターとダメージまで共有されるようになること―――
「その『スキル』を―――あの時、使っていたと言うのか……!?」
「うん……僕も必死だったから、はっきりとは覚えていないけど……
『タイラント・サイクロプス』の攻撃が目の前に迫ったあの時―――僕は自身の持ちうる全ての『力』を総動員させていたはずなんだ。
ただ―――」
リィドはステラフィアから視線を外し、自身の掌を見つめた。
「僕が今まで『従属化』してきたのは理性なんてものは存在しないモンスターだけだった。
だから『完全同調』を理性を―――明確な『意思』を持つ生物に適用したらどうなるのかは分からない。
元の身体の持ち主の『意思』は消えて、僕が身体を乗っ取るような形になるのか。
それとも、1つの身体に2つの『意思』が宿る形になるのか」
再びステラフィアへと視線を戻しながらリィドは問う。
「『従属化』が適用されたあの時、ステラの意識ははっきりしてたよね?」
「……ああ、私の『意思』はしっかりと残っていた」
「だとしたら後者―――つまり僕とステラ、2人の『意思』がステラの身体に宿っていた、という状態だったんだと思う。
そして、そんな状態には本来何のメリットもないはずだ」
1つの身体に2つの『意思』―――それは言うなれば、一頭の馬の手綱を2人の人間が同時に握るようなもの。
当然、馬はどちらの乗り手に従えばいいか分からず、動きの制御などままならないであろう。
「けれど―――」
リィドは静かに思案するように瞳を閉じ―――
「これは、完全に僕の推測でしかないんだけど―――」
そして、一つの結論を示した。
「あの時の僕達は―――全く同じ『思い』を抱いていたんじゃないかな」
「全く……同じ『思い』―――?」
「うん―――1つの身体に宿った2つの『意思』。
その『意思』が完璧に重なった時―――
僕達の『力』は―――!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「行くよ、ステラ」
銀色の髪の少年が、ポツリとそう呟き―――
「ああ、リィド」
半人半馬の女魔族が、そう応えると―――
「「おおおおおおおおおおおおッッッ!!!」」
2人は共に、自らの『意思』を以って『戦斧』を振り下ろし――――その『力』の名を叫ぶ!!
「「《レゾネイト・ハーツ》!!!」」
その時―――
リィドから伸びる『鎖』とステラフィアの握る『戦斧』が、凄まじい銀色の光を放ち―――!
―――ギィィィイイイイイイインッッッ!!!
振り下ろした『戦斧』と、マリティアの展開した『防御層』との衝突音が鳴り響く。
直後―――!
―――ビキィッッッ………!!!
「まさ―――か―――!」
その『亀裂音』に、マリティアの目が見開かれる。
そして――――――!!
―――ガッ………キャアアアアアッッッ!!!
『防御層』は、甲高い音を立てて崩壊し―――
―――ドッッッッッッッ!!!!
「――――――」
マリティアの身体に、『戦斧』が打ち込まれ―――
―――ゴガァッッッッッッッッ!!!
凄まじい衝撃が、この『ガーディアン・ルーム』を満たした―――




