第13話 一心同体
《 - 約1年前 - 》
―――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!!
「ひぃぃいいぃいいいいえええぇぇえぇぇええええ!!!」
炎弾、水弾、雷弾、氷弾―――様々な魔法攻撃の雨の中を、『鎖』が巻きついた三つ首の獣が掻い潜っていき―――その獣の背の上から、銀色の髪の少年の悲鳴が響き渡る。
「あはは、凄い凄い。
これも避けちゃうんだ。
リィド、どんどん『おもちゃ』を使うの上手くなってるよ」
その魔法攻撃を放っているエルフの女【魔導士】は無邪気な顔で、とても楽しそうに笑っていた。
それは『勇者パーティ』にリィドが加わってから何度目になるとも知れない光景。
マリティアの『遊び』を兼ねた、リィドが『従属化』したモンスターの『処理』。
その度にマリティアの子供のような笑い声と、リィドの絶叫がダンジョン内にこだまするのだった。
「チッ……さっさと終わらせて次のダンジョンに向かわせろってんだ……」
「うーん、あの『レッド・ケルベロス』の素材、出来れば欲しいなぁ。
牙の欠片ぐらいは残してくれるといいんだけど」
「それじゃ、僕は先に名前の登録だけ済ませておくね」
その光景を平然と眺めるドワーフの【重戦士】、小人族の女【補助係】、【勇者】の呑気な呟きも、もはやお決まりのシーンであった……
数十分後―――
「はひぃ……ふひぃ……ほひぃ……」
「んふふ、満足満足。
やっぱリィドと遊ぶのが一番楽しいや」
全身を汗だくにしながら息も絶え絶えなリィドに、ニコニコ笑顔でご満悦な様子のマリティアの姿がそこにはあった。
「あ――ところでさ、リィド」
「は、はい……なんですか……?」
大の字になって地面に倒れ込んでいるリィドに、マリティアがとある疑問を投げかける。
「ボクと遊んでる時のリィドって―――まだ『本気』じゃないよね?」
「えっ―――!?」
リィドは思わずガバッと起き上がり、戸惑いの声をあげた。
「い、いやいやまさか!
マリティアさんの相手をしている時に手を抜く余裕なんて―――」
慌ててそれを否定するリィドであったが―――
「でもさ、リィドってまだ―――『何か持ってる』でしょ?」
「っ……!」
マリティアの鋭い勘がリィドが『何か』を隠していることを見抜く。
リィドはマリティアから目を逸らし、しばらく口を閉ざしていたが―――
「……ある『スキル』があります」
無言で見つめてくるマリティアの視線に、観念したかのように白状し始めた。
「僕は『従属化』したモンスターを『ほぼ』自由に操ることが出来ますけど―――どうしても僕の意思がモンスターに伝達するまでには『ラグ』があります。
それに、モンスターに攻撃の命令を出す時なんかも、操っている僕自身がその攻撃対象を捉えなければなりません。
だから、『従属化』したモンスターが物凄い『ステータス』を持つ個体だったとしても、それを十分に活かすことが出来ません。
でも―――」
リィドは『魔力の鎖』を生み出す己の掌を見つめると―――ぎゅっと握りしめた。
「僕の持つある『スキル』を使うと―――僕はモンスターと『一心同体』になることが出来るんです」
「それって―――?」
リィドは顔を上げ、疑問の声をあげるマリティアを見つめた。
「僕の『意思』がモンスターの身体に宿り、僕自身の身体を動かすかのようにモンスターを直接操ることが可能になる、ということです。
当然、そのモンスターの『ステータス』は据え置きのままに」
「―――!」
マリティアの目が、驚愕に見開かれる。
「但し―――これには大きなリスクがあります。
その『スキル』が適用された状態のモンスターが傷を負うと、そのダメージは僕自身にも反映されるんです」
先程、リィドが言ったモンスターと『一心同体』になるという言葉は―――決して『比喩表現』ではなかったのだ。
「そのモンスターが死んでしまえば―――恐らくは、僕も命を落とすことになってしまうでしょう」
「……………」
黙り込んだマリティアへと、リィドはその『スキル』の名を告げた。
「それが僕の持つ『レアスキル』―――
『完全同調』です」
「…………そっか」
説明を聞き終えたマリティアは、神妙な顔で呟き―――
「それじゃ、次の『遊び』からはその『スキル』使ってよ」
「話ちゃんと聞いてましたかぁああああ!!??」
直後、いつもの笑みと共にあっさりと落とされた発言に、リィドは渾身の叫び声をあげる。
「死んじゃうんですって!!
その『スキル』適用されたモンスターを『処理』すると僕も死んじゃうんですって!!
使う訳ないでしょおおおお!!!」
「えー、その状態のリィドと遊べればもっと楽しそうなのにー」
「ぶー」と不満を漏らすマリティアを見ながら、「はぁ……」と一つ溜息をついたリィドは―――
「……よっぽどのことが無い限り、僕はこの『スキル』を使うつもりはありませんよ。
流石に『従属化』したモンスターに命まで預ける訳にはいきませんからね。
まあ、もし使うとするなら―――」
冗談交じりに、到底あり得ないであろうことをぽつりと口にする。
「例え、自分の命を失っても構わない―――
そんな僕の全てを授けるに値するような『何か』を『従属化』した時ぐらい、ですかね」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―――ギュッ………!
かつての記憶を辿り終えたマリティアは、思わず掌を握りしめた。
間違いない。
半人半馬の女魔族の背に乗る少年は―――かつて話したあの『スキル』を使ったのだ。
リィドの身体に突然出来た傷―――それは彼がステラフィアと『一心同体』になった証。
『爆発魔法』でステラフィアが負った傷が、『スキル』の影響によってリィドにも表れたのだ
「………………」
マリティアは口を閉じ、女魔族と少年をじっと見つめた。
(ボクはずっと、『あの状態』のリィドと遊びたいと思っていた)
かつての『遊び』では一度も使われることのなかった『スキル』。
(そう、ボクは『アレ』を待ち望んでいた―――)
あの『スキル』が使われたのならば、自分はもっと『遊び』を楽しむことが出来る。
(はず、なのに―――)
だが、マリティアの頭の中では―――
『僕の全てを授けるに値するような『何か』を『従属化』した時ぐらい、ですかね』
かつての少年の言葉が、ただただ響いていた。
(なんだか―――モヤモヤする!!)
そして、彼女は―――
「…………いいよリィド。
『遊び』じゃなくて『勝負』だっていうなら―――」
自分でもよく分からない『感情』を振り払うように―――
「『倒して』あげるから!!」
2人を睨みつけて、叫ぶのだった。




