第12話 何かが違う
(あれは―――なに―――?)
半人半馬の女魔族の姿を、エルフの女【魔導士】は訝し気に見つめる。
鈴の音が鳴り響いた後、その全身が柔らかな銀色の光に包まれたこと以外、彼女の見た目に大した変化は見られない。
しかし―――
(何かが―――さっきまでとは、何かが違う―――!)
幾度となく行ってきたリィドとの『遊び』の中で、一度も感じた覚えのないその強烈な『違和感』に―――マリティアの顔からこれまでのような笑みが消える。
「…………」
―――スッ……
マリティアは無表情のままに、静かに右手を上げた。
すると―――
―――ズゥンッ……!
「グルォォオオォォ………!」
沈黙していた『ドレッドフル・ヴェノムドラゴン』が再び動き出し、マリティアの隣へと並び立つ。
(この『違和感』の正体を―――確かめる!)
そして、彼女が掲げた右手を振り下ろすと―――!
「オォォオオオオオォォォオオッッッ!!!」
『ドレッドフル・ヴェノムドラゴン』が―――不可思議な銀色の輝きに包まれた女魔族に向かって、駆け出す。
「………………」
正面から襲い来る巨大な『ドラゴン』を前に、ステラフィアは全くと言っていい程に動かなかった。
背に乗るリィドに至っては閉じた瞳を開きもしない。
そんな2人の元へと駆けていく『ドラゴン』を見つめながら、マリティアは思考する。
(ボクの《ネクロ・マリオネット》はあくまでモンスターの死体を事前に決められた動作で動かすだけ。
そのモンスターが生きていた時よりも身体スペックは落ちるし、リィドが操る生きた『おもちゃ』の動きには到底及ばない。
けど―――)
その巨体に見合わぬ速度で駆ける『ドレッドフル・ヴェノムドラゴン』が、ステラフィアの元に辿り着く―――
その直前―――!
―――ブチブチブチィィッッッ!!!
前方へと突き出された『ドラゴン』の両腕が―――千切れ飛ぶ!!
(死体だからこそ出来る動きも―――ある!)
禍々しい爪を携えた2本の腕は高速でステラフィアの元へと飛来する。
完全に彼女の不意を突く形で繰り出された攻撃。
それを―――
「―――《ライジングブレード》」
―――ガギガギィィッッッ!!!
ステラフィアは―――『大剣』によって軽々と叩き落した。
「グオォオオオォォォオオッッッ!!!」
そして―――両腕を失いながらも速度を一切緩めることなく、その牙を突き立てようとする『ドレッドフル・ヴェノムドラゴン』を―――
「―――《ジャガーノートアクス》」
『戦斧』を以って―――
―――ズッ………シャァッッッッ!!!!
「グォッ――――――!!!」
一刀両断に―――叩き斬った。
「――!
今、のは―――!?」
マリティアの瞳が動揺に揺れる。
巨大な『ドラゴン』を一撃の元に屠る―――それ自体は驚くに値しない。
マリティアは既にステラフィアの創り出す『武器』の『特性』を見抜いている。
その『力』を以ってすれば、あれぐらいは出来てもおかしくはないだろう。
ただ、今のステラフィアの動きは―――
「―――《シューティング・レイ》!」
―――カッッッッッ!!!
マリティアは再び不意を突くような形で、その掌より『閃光』を放つ。
だが―――
「ふっ―――」
―――トンッ……
ステラフィアは―――たった一歩の移動だけで、それを避ける。
身体スレスレを飛んで行った『閃光』に対して、驚愕も焦りも全く見られなかった。
「っ―――やっぱり―――!」
先程までとは明らかに違う、女魔族の動き。
マリティアは確信と共に声をあげる。
「今のも、さっきの『ドラゴン』も―――!
ボクの動きを―――!?」
完全に見切られている―――否、予測されている。
もはやそれしか考えられなかった。
そして、そんなことが出来るのは―――
「まさか……」
マリティアは見つめる。
銀色の光に包まれた半人半馬の女魔族―――その背に乗る、瞳を閉じたままの少年を。
そして、マリティアは気付く。
その少年の身体から―――血が流れ出ていることに。
先程の『爆発魔法』はステラフィアが身を挺して庇った為に、背に乗るリィドは一切の傷を負わなかったはずである。
にも拘わらず、彼の身体から流れ出る血―――
それを見た瞬間に―――
「まさか―――!!」
マリティアの脳裏に、とある日の記憶が蘇った。




