第11話 敵
―――ゴオオオォォォォォォォッッ………!!!
『黒い爆発』の余波がこの空間内に漂っていた『黒い霧』を全て吹き飛ばし、広大な『ガーディアン・ルーム』を揺らす。
『ドレッドフル・ヴェノムドラゴン』は再び物言わぬ屍へと戻り、その身体はピクリとも動かなくなっていた。
「ふふふ。
間違いなく、あの魔法は直撃した」
爆発を生み出した女【魔導士】は、これまでと変わらぬ笑みを浮かべながら―――
「なのに―――耐えちゃうんだ」
『それ』を見つめていた。
「かっ……はぁッ………!!」
銀色の輝きを放つ『手甲』を着けた両腕を広げた、半人半馬の女魔族の姿を。
「《ナンバーズ・スリー》……!
《インデストラクタブルガントレット》……!」
それはステラフィアが『黒い爆発』に飲まれる直前に創り出した『武器』ならぬ『武具』。
その両腕に纏った『手甲』がもたらしたステータス補正効果―――200倍に超強化された『耐久力』により、ステラフィアはその爆発の直撃を耐えきったのであった。
「ぐっ……うっ………!!」
だが―――決して無傷という訳にはいかなかった。
『勇者パーティ』の【魔導士】が放つ特大の『爆発魔法』を正面から受けたステラフィアは決して軽くはない傷を負い、口の端からは血が流れていた。
「あの魔法は『中級モンスター』程度なら骨すら残らず消滅するレベルの威力だったんだけど……さっきの『速さ』といい、なるほどね」
マリティアはこれまでの『遊び』の中で見せた女魔族の『力』の根幹を正確に見抜く。
その魔族が身に纏う両腕の『手甲』を見つめながら、自身の魔法が防がれたことなど気にもせず――むしろ、面白くなってきたとでも言いたげに笑みを深めた。
そして―――
「ふふ……ほんと、リィドも中々良い『おもちゃ』を見つけた―――………?」
彼女は楽し気にステラフィアの背に乗るリィドへと話しかけたが―――
「リィド?
どうしたの、黙り込んじゃって」
「………………………」
リィドは俯いたまま、静かに震えていた。
あの『黒い爆発』に飲まれていながら、リィドの身体には少しの傷も付いてはいなかった。
この『ガーディアン・ルーム』に来る前にも2人が話をしていた通り、ステラフィアの背に乗るリィドにはステータス補正効果は表れない。
故にステラフィアは―――己の身も顧みず両腕を広げ、全身で『黒い爆発』を受け止めたのだった。
背後のリィドに、爆発の衝撃が及ばないように―――
『ギチリ……』とその手の『鎖』を力の限り握り締めたリィドは、ゆっくりと口を開いた。
「マリティアさん………さっきの『爆発魔法』……」
声を発しながら、リィドはマリティアを睨みつける。
「完全に―――殺すつもりで撃ちましたね?」
その瞳には―――明確な『怒り』が込められていた。
「うん、そうだよ?」
リィドの問いを、マリティアは至極あっさりと肯定した。
その答えに、リィドの瞳の中の『怒り』の感情がより強まる。
しかし―――その『怒り』の理由は、かつての仲間が『自分を殺そうとした』ということではなく―――
「だって、『いつも通り』にその『おもちゃ』を盾にすれば問題ないでしょ?」
「――――――ッ!!!」
『ステラフィアを殺そうとした』からであった。
(僕は……分かっていたはずだ……
あの人は……『そういう人』だってことぐらい……!)
そう―――2年以上にわたり『勇者パーティ』の一員として彼女の『遊び』に付き合わされ続け、彼女の『異常性』について嫌という程思い知らされてきたリィドであれば、『こうなること』は分かっていたはずだったのだ。
それなのに、彼は迷った。
その『選択肢』を取ろうとはしなかった。
『仲間』だったから。
何度も何度もその行動に振り回され続けていても、長い時間を共に過ごしてきた『仲間』だったから。
なにより―――
初めて出会ったあの日にかけて貰ったあの言葉が―――今でも忘れられないぐらい、嬉しかったから。
(だけど――――)
だけど、彼女は殺そうとしている。
唯一無二の『相棒』を。
共に同じ道を歩むことを決めた、かけがえのない存在を―――
ならば―――
「マリティアさん………
貴女は僕の―――いや」
少年は、はっきりと告げる。
「僕達の『敵』だ」
「――――――!」
今まで見たことのない、その少年の瞳に―――マリティアは一瞬、気圧された。
「ねえ、ステラ」
「っ、リィド?」
リィドは静かにステラフィアへと声をかける。
まだ出会って間もない間柄ではあるが、それでも普段とは違う少年の様子にステラフィアは若干の戸惑いを感じてしまった。
そして―――
「僕も―――戦うよ」
「―――!」
少年が告げたその『言葉』に―――ステラフィアの目が見開かれる。
詳しい説明がなくとも、彼女にはその『言葉』の意味がすぐに分かった。
「だから―――いい?」
リィドのその問いには、ほんの少し躊躇が混じっているようだった。
ステラフィアは「ふう」と、小さく溜息をつくと―――小さな笑みを浮かべながら、答えた。
「わざわざ聞くな―――好きにしろ」
リィドはそれを聞くと『ニッ』と笑い―――
「行くよ―――ステラ!」
直後―――!
―――キィィィン………!!!!
鈴のような音が、鳴り響いた。
「なっ―――」
これまで耳にしたことのないその音に、マリティアの顔から笑みが消える。
そして、彼女の目に映ったのは―――
瞳を閉じたリィドと―――銀色の光に包まれた女魔族の姿であった。
「マリティアさん―――『遊び』はここまでです」
リィドは瞳を閉じたままに、確かな決意と共に告げた。
「ここからは―――『勝負』だ」




