第9話 『おもちゃ』と『遊び』
「お、おい!! リィド!!」
彼らの会話を傍で聞き続けていたステラフィアが、もはや黙ってられぬとばかりにリィドに詰め寄った。
「さっきからあのエルフは何を言っているんだ!?
ヤツが言っている『おもちゃ』というのは―――!?」
その疑問の声に、リィドは静かに答える。
「……モンスターのこと、だよ」
「っ……!」
ステラフィアは、思わず息を詰まらせてしまう。
「あの人にとって『ダンジョン攻略』――モンスターとの戦闘というのは、全て『遊び』に過ぎないんだ」
リィドの脳裏に『勇者パーティ』で共に戦っていた頃のマリティアの姿が蘇る。
子供のような笑顔で、とても楽しそうにモンスターを屠っていく彼女の姿が―――
「そしてマリティアさんは、僕が『勇者パーティ』にいた頃……
僕が『従属化』したモンスターの『処理』を担当して貰っていたんだ」
「『従属化』したモンスターの……『処理』……!?」
ステラフィアは目を見開いてリィドの発したその言葉を繰り返す。
「普通の【テイマー】なら、ダンジョン内で『従属化』したモンスターを連れ出して次のダンジョン攻略に連れていく、なんてことも『冒険者ギルド』の許可の元に認められていたんだけど……
僕が『従属化』出来るモンスターは『上級モンスター』……連れ歩くには余りにも危険すぎる」
『上級モンスター』は1体で街一つを簡単に壊滅させることが出来ると言われている、『人間領』で暮らす人々からしてみれば災厄にも等しい存在である。
ひとたび『従属化』が解けてしまえば、それは大惨事へと直結しかねない。
そんなモンスターを連れ出すことなど、許されるはずもなかった。
「だから、僕はダンジョン攻略が終わった後、『従属化』したモンスターを必ず『処理』しなくちゃいけなかった。
僕1人だけでも、モンスターを自害させることはやろうと思えば出来たんだけど……」
リィドは部屋の中心に立つ女【魔導士】へと視線を向けた。
「あの人から―――『どうせなら、自分の『遊び相手』にして欲しい』って言われたんだよ」
「………!」
リィドの視線を追い、ステラフィアもまた見つめる。
『レベル120』のモンスターの骸の前にたたずむ、その女【魔導士】を―――
「んふふ。
普通の『おもちゃ』相手だと、どうしても途中で飽きちゃうんだよね。
どんなに力が強くても、どんなに足が速くても、ただの『おもちゃ』だとどう遊べば良いかが簡単に分かっちゃうの」
そう言いながらマリティアはチラリと背後の巨大なドラゴンの骸を一瞥し、溜息をつく。
「この後ろのヤツみたいにね」
「っ………!」
その言葉と反応から、やはり目の前のエルフがあの番人モンスターを葬った―――それもまるで事も無げにやってのけたのだということを、ステラフィアは改めて認識させられた。
「でもリィドが『おもちゃ』を使ってくれれば、こっちの動きを読んだりいろんな動きをしてくれて、すっごく遊び甲斐があるの。
何十匹の『おもちゃ』を同時に相手にするより、リィドが使う『おもちゃ』一匹を相手している方が、ずーっと楽しかったんだよねー」
「………相手をしていた僕としては『遊ぶ』どころじゃありませんでしたけどね……
何度貴女の攻撃に巻き込まれかけたことか……
いっそダンジョン攻略の最中よりよっぽど恐ろしかったですよ……」
楽しそうに語るマリティアとは対照的に、トラウマを思い起こされたリィドは頭を抱えつつ「……まあ、そのおかげで僕の【テイマー】としての『力』も成長できたって側面もあるのが何とも言えない所なんだけど……」と複雑な心境を吐露した。
そんなどこか気の抜けたようなやり取りを交わす両者であったが、傍に立つステラフィアはただひたすらにマリティアのことを警戒の目で睨み続けていた。
モンスターを『おもちゃ』と称し、ダンジョン攻略を『遊び』などと認識する、魔族という立場から見ても明らかに『異質』な存在。
理解できないモノに対する本能的な恐怖が、ステラフィアの心からじわりと滲み出ていた―――
「だからさ、リィド」
そんな女魔族の心情などまるで無関係に―――
「早くこっちに来て、またボクと一緒に遊ぼう?」
その女【魔導士】は、少年に向けて手を伸ばした。
「――――っ!」
ステラフィアが、反射的にリィドへと視線を向ける。
その眼差しには―――確かな『不安』の感情が見えた。
だがリィドは、そんなステラフィアをチラリと見やると―――『大丈夫だよ』とでも言うような柔らかな笑みを浮かべる。
そして、強い意志を込めた瞳でマリティアを見つめ―――
「マリティアさん……僕は―――!」
「あ、ところでさ」
リィドが自身の答えを示そうとした矢先―――マリティアはリィドの隣に立つ女魔族を指差しながら言った。
「隣の『それ』―――新しい『おもちゃ』だよね?」
「「―――は?」」
その呆けたような声は―――リィドの口からも、ステラフィアの口からも漏れ出た。
「折角だし―――今、ここで『遊ぼう』よ」
直後―――
―――ボッッッッッッッッッ!!!!
直径10メートル大の巨大な『炎球』がリィドとステラフィアの眼前へ迫った。
―――ゴァッッッッッッッ!!!!
高速で飛来した『炎球』は遠方の壁へとぶつかると周囲へ飛散し、広大な『ガーディアン・ルーム』の半分を一瞬で火の海にする。
そして―――
「《ファイアー・ボール-エクストララージ》。
ふふ、やっぱりね」
その『炎球』を生み出したエルフの女【魔導士】は、『期待通り』というような笑みを浮かべながら背後へと振り返った。
「これぐらい、簡単に避けちゃうか」
「っ………!
き、貴様ッ……!」
そこには―――必死の形相で片手に『長槍』を握り、もう片方の腕でリィドを抱えたステラフィアの姿があった。
彼女は巨大な『炎球』が自分達を飲み込む直前、即座に『長槍』を生成し、強化された『敏捷力』を以ってリィドを抱えながらその場を脱したのだった。
「ふふ、今回はすっごく楽しめそう」
その女【魔導士】は―――無邪気な声で、告げる。
「さあ―――もっともっと、遊ぼ?」




