第8話 だから何なの?
《 - 5日前 - 》
《 『ギルド本部』一階 酒場兼受付場 》
それは、突如として聞いたことのない『冒険者パーティ』に『超上級ダンジョン』を攻略されたことを『ギルド本部』が知ってから、少しの時間が経った頃。
未だ上階からギルド職員の大混乱の声が響く中―――
「んー……ふわぁ……
あー……よく寝た」
とても能天気そうな女【魔導士】の声が酒場の一画からあがった。
テーブルの上で自身の腕を枕にして眠りこけていた【魔導士】――マリティアは目を覚ますと―――
「んー……?
あれー……?」
寝ぼけ眼で酒場を見渡し、長い耳をピクピクと上下させながら呟いた。
「リィド、どこ行ったんだろ」
そして―――小さく『魔法名』を唱える。
「《ピンポイント・ディスカバー・アリー》」
次の瞬間―――
―――カッッッッッ…………!!!
彼女を中心に、光の環が周囲へ広がる。
その光の輪はこの大陸全土を、一瞬にして走った。
「あ、見つけた。
ふーん、『魔族領』の近くかー。
なんでそんな所に居るんだろ」
『探知魔法』によってマリティアは目的の少年の現在地を把握し―――
「あれ、移動し始めた。
って、わ、速っ」
その少年が凄まじい速度で別の場所へと移動を始めたのも、彼女は正確に捉えた。
「うーん、不味ったなぁ。
さっきまでダンジョンの近くにいたから跳べたのに」
マリティアはそんなことを口にしながら改めて少年の現在位置、そして移動方向について意識を向ける。
「えっと、この方向の先にあるのは……あ、もしかして『星の宮殿』かな。
よーし、それなら―――」
少年の移動先に当たりをつけたマリティアは―――
「ねえ、フィリオン」
「なんだい?
マリティア」
同じテーブルの席についていた【勇者】へと声をかける。
「ちょっと出掛けてくる」
「そう。
期間は?」
「うーんと、あの速さなら―――多分、5日ぐらいかな」
「分かったよ。
気を付けてね」
「うん、それじゃ」
マリティアがどこに行くかなど、【勇者】はまるで気にする様子もなかった。
そんなとても軽い調子の会話を終えた直後―――
「《ジャンピング・パワースポット》」
―――ヒュンッ………
『魔法名』を唱えたマリティアは、酒場から姿を消した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 超上級ダンジョン『星の宮殿』 前 》
「ふう、流石にこの距離は少し疲れちゃうや。
この『空間跳躍魔法』、ダンジョンだけじゃなく自由に跳べる地点を選べたらもっと便利なのになぁ」
数秒前まで『ギルド本部』1階の酒場に居たマリティアは、そこから数千キロは離れた場所に存在する『超上級ダンジョン』の前へ立ち、軽く息をついた。
「さて、このままただリィドを待ち続けるのも暇過ぎるし―――」
マリティアはチラリと銀色の『宮殿』を見上げた。
「うん、折角だから久しぶりに1人で遊んでようっと」
そう言いながら―――その【魔導士】は『宮殿』の壁へと触れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 - 現在 - 》
「―――それで、ここで遊びながらリィドのことを待ってたって訳。
まったく、リィドってば1人でダンジョンに遊びに行っちゃうなんてズルいよ。
罰として1ヶ月間はボクと一緒に『おもちゃ』で遊ぶこと。
いいね? けってーい」
「い―――いやいやいやいや!!!
何を言ってるんですか貴女は!!」
妖艶な見た目とは反してまるで幼い子供のような口調で話しかけるマリティアへ、リィドはこの上ない程にうろたえながら叫ぶ。
「僕は『勇者パーティ』を追放されたんですよ!?
貴女だってそれは知っているはずでしょうが!!」
「ついほー……?」
マリティアは首を傾げながら疑問符を浮かべた。
「僕がフィリオンさんから追放処分を言い渡されたあの日!
貴女もそれを聞いていたでしょう!?」
「んー、そうだったっけ?
この前、リィドがフィリオンと何か話してたのはなんとなく覚えてるけど……あの時眠かったしなぁ。
あんま覚えてないや」
そんなことをあっけらかんと答えるマリティアを見て、確かにあの時の彼女は自身と【勇者】との会話に一切興味が無さそうであったことをリィドは思い出した。
もっとも、それはあの時のパーティメンバー全員に言えたことであったが……
「まあ、それはともかくさ。
早く『おもちゃ』持ってきて遊ぼうよ。
久々に1人で遊ぶのも悪くなかったけど、やっぱリィドが『おもちゃ』を使った方が楽しいや」
「い、いやだから!!
もう僕は『勇者パーティ』から追放―――」
尚もマイペースに話を続けようとするマリティアへ、リィドは必死に今の自分の状況について述べようとするが―――
「うん、それはもう聞いたよ。
でもさ―――」
彼女は、さらりと告げた。
「そうだったとして、だから何なの?」
「え―――」
その時のマリティアには、一切の他意はなかった。
混じり気無しの、純粋な疑問の声であった。
「リィドが『勇者パーティ』から追放されたことと、ボクがリィドと一緒に『おもちゃ』で遊ぶこと。
それに、一体何の関係があるの?」
「………………」
そんな彼女を見て、二の句が継げられなくなったリィドは―――
(ああ……そうだった……
『この人達』は『こういう人達』だった……)
そんなことを考えながら、思わず片手で頭を抱えるのだった。




