第7話 初めての出会い、再びの出会い
《 - 約2年前 - 》
《人間領・『勇者パーティ』拠点 》
「さあ、自己紹介を」
「は、は、はいぃっ!!
あ、あのっ!!
きょ、今日からこのパーティの一員となります!!
リ、リィド=アリアードです!!
よ、よろしく、お、お願い、い、致しましゅ!!!」
漆黒の瞳の【勇者】に促され、その銀色の髪の少年は緊張でガチガチに固まった身体を無理やりに動かし、何度も台詞を噛みながら目の前の『勇者パーティ』メンバーへ向けて挨拶をした。
「………ふん」
「ん、よろー。
えっと、今度は『ポイズン・トード』の毒腺に―――」
「………………」
そのメンバー ――ドワーフの【重戦士】は興味なさげに鼻を鳴らし、小人族の女【補助係】は素っ気ない返答を終えると、巨大バッグの中のモンスター素材の確認作業に戻り―――
そして、エルフの女【魔導士】はただ『じっ……』とリィドのことを見つめ続けるのだった。
そのあまり友好的とは思えない諸々の反応に、リィドは思わず「うぅ……」と息を詰まらせてしまう。
「今日は特に予定もないから、後は自由にしていいよ。
それじゃあ、解散」
「えっ」
投げやりな言葉と共に【勇者】は早々に立ち去ってしまい―――
「それじゃあ俺は鍛冶屋に行ってくるぞ……
またぶっ壊しちまったからな……」
「んじゃ私はいつも通り調合室にカンヅメー。
またなんか用事あったら呼んでねー」
「えっ、えっ、えっ!?」
ドワーフの【重戦士】や小人族の女【補助係】も各々好きなように行動し始め―――碌なメンバー紹介もなく放置されてしまった少年は、ただひたすらに右往左往するしかなかった。
そんな彼に―――
「ね、ね」
「うわひゃあっ!!??」
いつの間にかすぐ傍に立っていた絶世の美貌を持つエルフの女【魔導士】が声をかけ、リィドは思わず身を跳ねさせる。
「貴方、どんなことが出来るの?」
「えっ、えっ、えっ!
ぼ、僕が出来ることっ!?
あ、あの、えっと、僕は、その【テイマー】ですので!!
モンスターを『従属化』して、戦わせることが出来ます!」
突然『勇者パーティ』のメンバーから話しかけられ、リィドは再び極度の緊張状態に陥った。
ましてやその相手が、今まで少年が見たこともない程の美女ともなれば尚更である。
バクバクと心臓の音を鳴らしながら、リィドは必死に自身の『力』について説明した。
「あ、ただ……その、僕、ちょっと特殊な【テイマー】で……
もの凄く高『レベル』のモンスターしか『従属化』出来ない【ハイレベルテイマー】っていう『ジョブ』なんです……
その所為で、今まで碌にパーティも組ませて貰えなくて……
まだ、まともにダンジョン攻略もしたこともないんです……」
話をしている内にリィドの表情が曇っていく。
自身の扱いにくい『ジョブ』のことや、『冒険者』として碌に活動してこなかった来歴など、その情けなさにリィドは顔を俯かせてしまうが―――
「へぇ……『おもちゃ』を戦わせることが出来る『力』か……
うん、面白そう」
「えっ?」
次に聞こえて来た『おもちゃ』という単語に、疑問の声と共に顔を上げる。
「それじゃ、早速その『力』見せてよ。
ほら、行こ」
「えっ、わっ、わっ!!」
そして、リィドがその単語のことについて聞くよりも先に―――女【魔導士】は少年の手を取り、強引に彼を連れ出した。
「あ、そうそう。
ボクの名前はマリティア。
これからよろしくね、リィド」
「―――!」
彼女が何気なく発したその言葉は、少年の胸の内に熱い何かを込み上げさせた。
『これからよろしく』―――それは彼女が自分のことを『勇者パーティ』の一員として認めてくれていることの証。
それを当たり前のように言ってくれたことに―――少年の目頭が熱くなる。
そして―――
「はいっ!!
よろしくお願いします、マリティアさん!!」
少年は、力強く応えるのだった―――
なお、その後リィドはいきなり『上級ダンジョン』に連れられ、凶悪なモンスターの群れの中で絶叫をあげる羽目になったのだが、それはまた別の話―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 - 現在 - 》
《 星の宮殿 ガーディアン・ルーム 》
「や。
待ってたよ、リィド」
「マ……マリティア、さん……!?
な、なんで……!?」
リィド達よりも先に『ガーディアン・ルーム』に辿り着いていた女性を見た瞬間、リィドの口から驚愕、そして困惑と共にその名が零れる。
この世界に存在する『長命人種』――『エルフ』を示す長い耳に、美しい貌。
腰の下まで伸びた清流のような水色の髪。
宝石のように輝く蒼色の瞳。
リィドよりも頭一つ分は高い背丈に、妖艶な肉付きの身体。
その身体を包み込む、薄いヴェールが何重にも重なった花びらのような衣服。
その姿は間違いなく、リィドのよく知るあの女【魔導士】に違いなかった。
「……っ! リィド!
あの女は――エルフか!?
お前はあの女について知っているのか!
それに、後ろのあの『ドラゴン』は……まさか、ここの番人か!?」
リィドに遅れてステラフィアが疑問の声をまくし立てた。
エルフの女性については勿論、その背後で斃れている禍々しい牙と爪を持つ巨大な紫色の『ドラゴン』についても言及する。
「………うん。
あの人は、マリティア=エリミネイト。
『勇者パーティ』の【魔導士】だよ」
「っ……!!
『勇者パーティ』……!
あの『エルフ』が……!!」
リィドの知り合いということから薄々と予想はしていたが、それでもその口から発せられた『勇者パーティ』という単語に元『魔王軍四天王』のステラフィアは過敏に反応してしまう。
「あの人の後ろの『ドラゴン』は、恐らくステラの言う通りここの最後の番人だよ。
あの牙と爪は多分――『ドレッドフル・ヴェノムドラゴン』だ。
『レベル』は確か……『120』だったかな……」
「…………!」
ステラフィアは部屋の中心に立つ女『エルフ』とその背後の『ドラゴン』に目をやり、額から汗を垂らす。
(奴以外の人間……パーティメンバーの姿は見当たらない……!
まさか……あの『エルフ』1人で、あの『ドラゴン』を倒したとでも言うのか!?)
そんな戦慄を覚えるステラフィアに対し、リィドの方は『ドラゴン』の死体に関してはさほど驚いてはいなかった。
まるで、あの【魔導士】が『レベル120』の『上級モンスター』を倒している事など、驚くに値しないとでも言うように。
「……マリティアさん」
リィドはその女【魔導士】へと話しかけながら、ステラフィアの背から降りると―――
「さっき……僕を待ってた、って言いましたよね……
それは一体、何の為に……!」
マリティアのことを警戒の眼差しで見つめながら、その疑問を投げかけた。
ついこの間パーティから追放された元仲間に、今更何の用があるというのか―――
「何の為って、ただリィドを迎えに来ただけだよ」
「………………は?」
その言葉の意味が理解できず、リィドは間の抜けた声を漏らしてしまった。
そんなリィドの反応などまるで気にせず、その女『エルフ』は無邪気に告げる。
「早くまたダンジョンで―――ボクと一緒に『おもちゃ』で遊ぼ?」




