第6話 2度目の攻略、2度目の戦い、2度目の―――
「おお……!
これは……!」
『愚者の宮殿』の時と同じく『宮殿』の外壁に手を触れたことにより内部へと転移されたステラフィアは、目の前の光景に思わず感嘆の溜息をついていた。
そこは壁や床こそ『愚者の宮殿』と同じ様な石造りの空間であったが、その頭上には『星の宮殿』の名に違わぬ、満天の星空が広がっていたのだ。
間違いなく建物の中に居るはずなのに、まるで屋外にでも居るかのような不可思議な風景に、ステラフィアはしばし呆然と頭上を仰ぎ見ていた。
「へぇー、やっぱ『星の宮殿』って言うだけはあるなぁ……」
彼女の隣にいるリィドも星空を見上げながらそんなことを呟いていたが、その声色にはステラフィア程の驚きの感情は見当たらなかった。
「その反応からすると、お前にはこの光景は予想済みだったのか?」
「うん、まあね。
この前の『愚者の宮殿』は割と普通な石造りの迷宮って感じだったけど、僕が『勇者パーティ』に居た頃に攻略した他の『超上級ダンジョン』の内部はほぼ全てが今回みたいな不思議な空間だったんだ。
例えば『月の宮殿』っていう『超上級ダンジョン』では建物の中なのにとても大きな月が頭上に見えてたんだよ。
ちょうどこの星空みたいにね」
そう言いながらリィドは過去に思いを馳せる。
「『超上級ダンジョン』は恐ろしいモンスターで溢れ返るとても危険な場所だけど、あの幻想的な風景に関してだけはいつも楽しみにしてたっけな……
ああいやでも、『吊られ人の宮殿』の風景は出来れば忘れたいなぁ……
アレは今でも時々夢に見る……」
「……なんか知らんが詳しくは聞かない方がよさそうだな……」
などと、いつものようにまるで緊張感のない会話を続けていた2人だったが―――
「「グォロロロロロ…………!」」
突如として、地の底から湧き上がってくるかのような低い唸り声が聞こえた。
2人の居る場所から奥の方に見える通路の先から現れたソレは―――全高3メートル、全長10メートル及ぶ巨大な双頭のワニ。
『レベル82』―――『オルトロス・ゲーター』であった。
その『上級モンスター』は2つの大顎より涎を垂れ流しながら、ズルリズルリと2つの獲物に向かってにじり寄る。
まるで、呑気な愚か者共に、ここはとても恐ろしい場所なのだということを思い知らせようとするかのように。
だが―――
「さてと、それじゃあ雑談もここまでにして―――」
「ああ―――始めるか」
その2つの獲物は慌てた様子も恐怖の表情も見せず、淡々と会話を交わすと―――
「《テイム・チェーン》」
―――ジャリィッッ!!
少年の掌から伸びた『鎖』が、女魔族へと巻き付き―――
「《リインフォース・アームズ》」
―――バリィィッッ!!!
女魔族の掌から、黒い稲妻が迸る。
そして、それとほぼ同時に―――
「「ギュオアアアアアアッッッ!!!」」
『オルトロス・ゲーター』が、咆哮を上げながら2人へと猛進した。
『レベル82』という数値に裏打ちされた『ステータス』を持つ双頭のワニは、数秒もかからぬ内に2人へと肉薄し―――
「「グォアアアッッ!!!」」
2つの口で、2つの獲物へ喰らいついた―――
はず、であったが―――
「「―――グォッッ!!??」」
その獲物達の姿が、消えていた。
困惑の鳴き声を上げる『オルトロス・ゲーター』は―――
―――ザンッ、ザンッッッ!!!!
「「ギュァッ―――!?」」
上空より放たれた2連の斬撃により、その双頭が胴より断たれた。
―――トンッ………
そして―――『大剣』を携えたステラフィアが、石造りの床へと着地する音が静かに響いた。
「うん!
絶好調だね、ステラ!」
馬の胴体に乗るリィドの満面の笑みに、ステラフィアは『フッ』と小さな笑みを返すのだった。
「よーし、じゃあここからは―――」
「ああ……《ナンバーズ・フォー-ライトニングスピア》」
ステラフィアは『下級ダンジョン』の時と同じく、その手に握る武器を『長槍』へと変え―――
「行くぞ!」
「うん!
頼んだよ、ステラ!」
―――ヒュバッッ!!!
その姿が、この場より消えた。
こうして―――2人による2度目の『超上級ダンジョン』攻略が始まったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「グルォオオオオオッッ―――!!!」
リィドとステラフィアの周囲を、猛スピードで旋回している影があった。
獅子の胴体に猛禽の頭と翼を携えた銀色の魔獣。
『レベル85』―――『シルバー・グリフォン』が、広大な部屋の中心に立つ2人を狙う。
『愚者の宮殿』で相手をした『デス・グラスホッパー・コマンダー』以上のスピードを持つ『上級モンスター』を前に、ステラフィアはただ静かに『大剣』を構えていた。
次の瞬間―――
「ふッ―――!!」
ステラフィアが、一瞬の内に『大剣』を振り下ろすと―――
―――ビシャァッ!!!
正面から身体を両断された『シルバー・グリフォン』が、血を撒き散らしながら床の上へと転がった。
「ふん……どれだけ素早かろうが、今の私の『集中力』ならば見切るのは容易い。
急な方向転換が出来ないのであれば、あの飛蝗よりよほど御しやすい相手だ」
「流石だね、ステラ!」
危なげなく『レベル85』のモンスターを倒したステラフィアへ、リィドは心からの称賛を送るのだった。
「……まあ、あまり慢心も出来んがな」
そう言いながら、ステラフィアは背後の少年へチラリと目をやる。
「何せ、後ろに乗っているお前はステータス補正の効果を全く受けていない。
お前の持つ『スキル』のおかげで振り落とされることはなくとも、その身に『上級モンスター』の攻撃がほんの一撃でも当たってしまえば、即座に致命傷になりかねんのだから」
「………そうだね」
そして、もしもリィドの命が失われ、その『力』が消えてしまえば―――それはそのままステラフィアの死へと繋ってしまうのだ。
リィドとステラフィア。
共に戦えば凄まじい『力』を発揮する2人ではあるが―――見方を変えれば、どちらか片方が失われただけで瓦解してしまう、とても危うい『力』であるとも言えるのだった。
だが―――
「だからさ――これからもステラのこと、頼りにしてるからね!」
「―――!」
そんな『危うさ』に対する恐れなどまるで感じない、屈託のない少年の言葉に―――
「………フン、全く気楽なものだ……」
その女魔族は頬を若干赤く染めつつ、素っ気ない返事をするのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そうして2度目の『上級モンスター』との戦いも、2人は順調にこなし―――
『愚者の宮殿』の時と同じく、『長槍』により強化された『敏捷力』を使い、凄まじい速度で攻略を進めていき―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「多分―――この先が『ガーディアン・ルーム』だよ、ステラ」
長い螺旋階段を昇り続けているステラフィアの背後からリィドが静かに声をかけた。
彼に言われずとも、階段の先から迸る『威圧感』は、この先に『何か』があるということをひしひしとステラフィアに伝えていた。
だが、2人の表情に恐れはない。
自分達の『力』があれば―――恐れるものなど、何もないのだから。
そして―――
螺旋階段の終わりが見えると、ステラフィアは一気にそこまで駆け―――
―――ダッッ!!!
その先の部屋――『ガーディアン・ルーム』へと、降り立った2人は―――
「なぁっ――――!?」
「―――――ッ!?」
目を見開いて、驚愕した。
その広大な空間の中に居たのは―――
凄まじい巨躯を持つドラゴン―――
―――の、死体であった。
そして―――
「や。
待ってたよ、リィド」
竜の骸の前に佇む、美しい『エルフ』の女性が、とても軽い調子で少年へと声をかけ―――
その少年は―――
「マ……マリティア、さん………!?」
かつて『勇者パーティ』で行動を共にしていた女【魔導士】の名を口にするのだった。




