第3話 もしかしてステラって
『それ』は一見すると、何の変哲もないただの洞窟にしか見えなかった。
だがこの世界の住人であれば、そこがダンジョンであることが即座に判別出来る。
その洞窟の入口上部に見える、『記号』によって―――
「『杖』の『2』……うん、間違いなく『下級ダンジョン』だね」
リィドがその『スート』と『数字』を見上げながら呟いた。
「私が『魔王軍』に居た頃は余り気にしたことはなかったが……
確か『スート』がダンジョン内にどのようなモンスターが生息しているか、『数字』がダンジョンの難易度を示しているんだったか」
「うん、『数字』じゃなくて『人物絵』の場合もあるけどね」
『スート』は『剣』、『硬貨』、『杖』、『聖杯』の4つがあり―――
『剣』の場合『膂力』のステータスが高いモンスター。
『硬貨』の場合は『耐久力』のステータスが高いモンスター。
『杖』の場合は『敏捷力』のステータスが高いモンスター。
『聖杯』の場合は『魔法攻撃』を行うモンスターが多く生息していることを示している。
そして難易度を示す『数字』及び『人物絵』は『1』~『5』までが『下級ダンジョン』。
『6』~『10』までが『中級ダンジョン』。
『人物絵』――『小姓』、『騎士』、『女王』、『王』が『上級ダンジョン』と人間側では呼称されていた。
「この『記号』によって、自らの実力に見合ったダンジョンに挑むことが出来る、と……
何と言うか、随分と親切なものだな。
まるで誰かが説明書きでもしてくれているかのようだ」
「う~ん、まあそれはそうなんだけど……
僕達『冒険者』からはもうすっかり『そういうもの』として定着しちゃってるから、疑問に思うことも殆どないんだよね……
まあ、便利な分にはいいじゃない?」
ステラフィアの訝しげな呟きに、リィドは深く考えずに軽い調子で返す。
「それより、早くこのダンジョンの中で僕達の『力』を試してみようよ!」
「……ああ、そうだな」
そうして、2人は洞窟の中へと足を踏み入れるのだった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 下級ダンジョン内 》
「さて、それじゃあ早速―――《テイム・チェーン》!」
その言葉と共に、リィドは右掌から『魔力の鎖』が伸ばされ―――
―――ジャリィィッ!!
鎖はステラフィアの身体へと巻き付いた。
「ステラ!」
「ああ―――《リインフォース・アームズ》」
リィドの声に合わせ、ステラフィアが『魔法名』を唱え―――
―――バリィィィッ!!
「《ナンバーズ・ワン-ライジングブレード》」
黒い雷光と共に、その手に『大剣』を生成させた。
「ふむ、問題なく発動することが出来るな。
そして……やはり私の身体には何の負荷も感じられない」
「つまり……『愚者の宮殿』の時と同じく、僕の『従属化』は問題なく適用されている、と……」
調子を確かめるように片手で『大剣』を軽く振るうステラフィアを横目に、リィドは顎に手を当てて思案し始める。
「それ自体は良いことなんだけど……『従属化』は人間や魔族には適用できない、っていう【テイマー】の常識と食い違っているのがやっぱり気になるなぁ……」
「ああ、そういえば『デス・グラスホッパー』との戦いの時にそんなことを言っていたな」
そして、しばらく悩み続けたリィドはぽつりとある推測を述べた。
「もしかしたら……ステラが僕の『力』を『受け入れて』くれているから、かも?」
「……?
どういう意味だ?」
自身の掌から伸びている『鎖』に目を落としながら呟いたリィドに対し、ステラフィアは疑問符を浮かべる。
「【テイマー】によるモンスターを従える行為っていうのは、なんていうか……『しつけ』や『調教』を一瞬の内に行うようなものなんだ」
「…………『しつけ』や『調教』……?」
ヒク……と、ステラフィアが僅かに頬を強張らせた。
「うん……『従属化』に意思を持った生物を無理やり従わせるほどの『強制力』は本来ないんだ。
生まれたての赤ん坊とかならともかく、十分な理性を持った人を相手に無理やり『しつけ』をしてやろうとしても普通に拒否されるだけだよね」
「………………………」
「でも、その相手がそれを自発的に『受け入れて』くれるなら、この『力』は問題なく適用される……っていう理屈だったりするんじゃないかな―――?
あれ、どしたのステラ」
急にステラフィアからの返事が無くなったことに違和感覚え、顔を上げたリィドの目に―――
「……つまる所……私がお前に『しつけ』や『調教』されることを受け入れていると……そう言いたい訳か……?」
頬をヒクヒクと痙攣させ、握り拳をプルプルと震わせるステラフィアの姿が写った。
「え、あ、いや!
今の『しつけ』とか『調教』っていうのはただの例えであって!
別にそういう『アレ』な意味じゃなくて!」
「『アレ』な意味―――なんだそれは、どういう意味だそれは、『しつけ』というのは『アレ』か、『調教』というのは『ソレ』か、『アレ』や『ソレ』やを私に対してしているとでもいうのか、私が『アレ』を受け入れているとでも言うのか、私が『ソレ』をされることを望んでいるとでも―――!」
「お、落ち着いてぇええええええええ!!!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 数分後…… 》
「…………すまん」
どうにかクールダウンしたステラフィアを見ながら、リィドは思わずポツリと呟いてしまった。
「さっきの『絶対服従』云々の時といい、もしかしてステラって……
むっつりスケベ?」
―――ビキリ
この場の空気が固まった音が聞こえた直後―――
「なぁリィド……『口は禍の元』という言葉を知っているか?」
―――ギリギリギリギリ………
「ぐおああああああああああああ!!!
ごめんなさいぃいいいいいいいいい!!!
思ったことをついそのまま口にしちゃう性分なんですぅううううううううううううう!!!」
『大剣』によって底上げされた『膂力』により、片手で頭を鷲掴みにされながら宙釣りにされる少年の悲鳴がダンジョン内にこだました―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
とまあ、なんやかんやありながら―――ようやく2人による『力』の検証を兼ねたダンジョン攻略が始まるのだった。




