第2話 下級ダンジョンへ
「さて、改めまして―――」
銀髪の少年が、黒鹿毛の馬の胴体を持つ女ケンタウロスへと告げる。
「これからよろしくね! ステラ!」
「………ふん」
リィドのやる気に満ちた声に対し、ステラフィアの返事は素っ気ないものであった。
ただし、若干の照れが混じっているようだったが。
「それじゃあ、僕の『夢』とステラの『約束』の為に、新たな『超上級ダンジョン』へ挑戦!
―――の前に」
元気よく出発しようとしたリィドはピタリと立ち止まり、ステラフィアの方へ向き直る。
「僕達の『力』について、低難易度のダンジョンで色々と確かめておいた方がいいかなー……って僕は思うんだけど、どう?」
「ああ、異論はない。
ろくな検証もせずに戦い続け、肝心な時に原因不明のイレギュラーが起きてしまう……そんな事態に陥るのは御免だ」
2人はお互いに頷き合った。
「それじゃあ……確か最近、この近くに『下級ダンジョン』の発生が確認されたはずだったから、まずはそこに行ってみよう!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『ダンジョン』―――それはこの世界の各地に存在する『モンスター製造装置』にして『資源の宝庫』。
ダンジョン内に生息するモンスターから採取される様々な素材、そしてダンジョンの核たる『ダンジョン・コア』は『マジックアイテム』の原材料となり、世界中の『冒険者』はそれらを求めてダンジョンへの挑戦を続けている。
だが、ダンジョンはそのような恩恵だけでなく、ダンジョン内から溢れたモンスターによる災禍も同時に運んでくる。
人類に深刻な被害が出る前にダンジョンを攻略し、『無力化』することも『冒険者』の使命の一つであった。
そして―――『ダンジョン』は自然発生する。
いつ、どこに、どの難易度のダンジョンが生まれるか―――それは今もなお、誰にも予測することが出来ない事象であった。
人里近くにダンジョンが発生した場合、難易度に関わらず即座に国の兵士やギルドの手配した『冒険者』達による攻略が行われ、被害が出る前にダンジョンの『無力化』が最優先で行われる。
そうでない場合は各地の『冒険者ギルド』が難易度に合ったランクの『冒険者』へと攻略を依頼する。
そうして、この世界の人々は『恩恵』と『災禍』を与える存在―――『ダンジョン』と深く関わり合いながら、その歴史を歩んできたのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「―――で、今から行く予定のダンジョンの発生場所は人里近くじゃないから攻略優先度は低い。
その上、難易度の低い『下級ダンジョン』では取れる素材も高が知れてる。
おまけにここは『魔族領』近く……魔族と遭遇して想定外の戦闘が勃発してしまう危険性もある。
そんな訳で、わざわざ『冒険者』が好んでそのダンジョンを攻略するとは考え難い。
つまり―――」
「他の冒険者と鉢合わせする心配のない、我々の『力』を試すのにはうってつけの場所、という訳か……」
リィドとステラフィアが移動がてらにそんなことを話し合っていた。
人間と魔族―――本来であれば相容れるはずのない2つの種族が共に行動をしているのを他者に見られてしまえば、面倒事は避けられないだろう。
それは2人が行動を共にする以上、どうしても考慮しなければならない事柄ではあるが―――
「………リィド」
「ん? なに?」
ステラフィアは、表情に若干の影を落としながら口を開いた。
「今更ではあるが……本当に私と組んで良かったのか?
魔族――しかも元『魔王軍四天王』とパーティを組んだ。
そんなことが人間側にバレてしまえば、お前の立場は危うくなるんじゃないか?
最悪の場合、お前も魔族と同じ人間の敵という扱いに……」
「ん~……」
後ろめたさを滲ませるステラフィアの言葉に、リィドは顎に手を当て―――
「まったく気にしてないってわけではないけど―――そういう事も全部覚悟の上で、僕は君とパーティを組むことを決めたんだよ。
言ったでしょ?
僕の夢が叶う時には、君が隣にいて欲しいって」
ステラフィアの目を見つめながら―――リィドはハッキリと告げた。
「他人から、あるいは世界からどう思われようと関係ない。
ステラは―――唯一無二の、僕の相棒だよ」
「っ………!」
その真っ直ぐな言葉と瞳に、ステラフィアは頬を若干赤らめつつ「ふん!」とリィドから視線を逸らした。
「っていうか、それを言ったらステラの方こそ大丈夫なの?
元『勇者パーティ』のメンバーと一緒に居ることが魔王軍にバレたら大変なことになったりしない?」
「……魔族には元々、人間達のような守らなければいけないルールといったものは存在しない。
まあ『魔王軍』では『『魔王』の言葉には絶対服従』という規則があったが……そこを追放された以上、私の好きにさせて貰うだけだ」
「ふーん、『魔王』に絶対服従かぁ……そこら辺は大衆的な『魔王軍』のイメージ通りだなぁ……」
と、リィドがぽつりとステラフィアの言葉を繰り返した直後―――『はっ!』と何かに気付いたかのように目を見開き、慌ててリィドへと向き直り―――
「お、おい!!
『絶対服従』と言っても『『魔王』に逆らってはいけない』という意味合いの方が強いからな!!
決して、何かこう、いかがわしい意味合いなどではないからな!!
勘違いするんじゃないぞ!!!」
「……いや別に最初からそんな捉え方してないから」
少し冷め気味にツッコむリィドを見て「そ、そうか……」と先程以上に頬を赤らめながら落ち着きを取り戻すステラフィアであった。
と、そんなことをしている内に―――
「あっ、見えた!」
目的の場所―――『下級ダンジョン』の入り口たる洞窟へと2人は辿り着いたのだった。




