第1話 パニック・オブ・ザ・ギルド
《 アルヴァー大陸東側・人間領 冒険者ギルド本部 》
「『愚者の迷宮』が―――攻略されただとぉッ!!??」
『世界の中心』とも称される、この世界における最大の大陸―――『アルヴァー大陸』。
その東側、『人間領』に存在する『冒険者ギルド本部』で最高責任者たるギルド長の絶叫が響き渡った。
「は、はい……!
この『モニタリング・スフィア』の反応からして、間違いありません……!
『クリアー・ブルー』―――この光は、あの『超上級ダンジョン』が攻略されたことを示しております……!」
焦りと共に報告する女性職員の眼前には長机があり、その上には21個の球体が置かれていた。
そして、その球体中13個は青色の光を放っており―――その内の1つは、つい先ほど灯り出したのだ。
「ゆ、『勇者パーティ』か!?
【勇者】フィリオンには『超上級ダンジョン』の攻略前にはギルドに一報を入れるように伝えているはずだぞ!?」
「い、いえ……!
『勇者パーティ』は現在ここ『ギルド本部』一階の酒場から離れてはおりません!」
「では一体どこの―――っ!!
ま、まさか魔族に……『魔王軍』に攻略されたのか!!??」
ギルド本部に緊張が走る。
今までもいくつかのダンジョンが『魔王軍』によって攻略されてきたことはあるが、そのいずれもが『下級ダンジョン』や『中級ダンジョン』、最大でも『上級ダンジョン』までの難易度であった。
『魔王軍』が『超上級ダンジョン』を攻略した……つまりは、あのダンジョン内に存在する超高レベルモンスターを、『魔王軍』が使役出来るようになってしまった。
もしもそんな事態が起こり得れば人類と『魔王軍』のパワーバランスが激変してしまい、途轍もない混乱が人間達の間に広がることになる。
下手をすれば――― 一気に『人類』対『魔王軍』の全面戦争が発生してもおかしくない状況となってしまうのだ。
「す、少しお待ちください!
もうすぐダンジョン内の魔力解析が終了し、『登録名』が表示されるはず―――っ!
来ました!!
表示されます!!」
女性職員が声を上げた直後、つい先ほど青い光が灯った球体の上部から新たな光が発生し、その光が空中にとある文字を映し出した。
その文字を、女性職員が呟く。
「『ダブル・バニッシュメント』……?
これは―――『冒険者パーティ』、でしょうか……?」
その場の誰もが、その奇妙な『登録名』を呆然と見上げるばかりであった。
ただ、少なくとも魔族がダンジョンを攻略したのであれば、その魔族の名前が登録されることが普通であり、『それ』は魔族の名前とはとても思えない。
『魔王軍』に『超上級ダンジョン』を攻略されるという最悪の事態ではなかったことにギルド内はひとまずの安堵の雰囲気に包まれるも―――すぐにギルド長の怒号が飛ぶ。
「おいっ!! ぼさっとするな!!
この『冒険者パーティ』を知っている者はおるか!!」
「っ!!
い、いえっ! 少なくとも、この『ギルド本部』に登録されている『冒険者』及び『冒険者パーティ』に該当する名前はありません!!」
女性職員が慌てて返事をすると、ギルド長は険しい表情になった。
「登録なしだとぉ……!?
フリーの『冒険者』だとでもいうのか……!?
いや、『超上級ダンジョン』を攻略できる程の実力を持つ者などそう居るはずがない……!」
そんなことを呟いたギルド長は勢いよく顔を上げると―――
「おい! お前達はとにかくここにある資料を片っ端から調べ上げろ!!
何でもいいからこの『冒険者パーティ』に繋がる情報を探し出せ!!
私はこのパーティについて何か知っている者がいないか、他の街の支部に通信用マジックアイテムを使って掛け合ってくる!!
いいな!!」
「「「は、はいっ!!」」」
そう叫んだギルド長が駆け出すのと同時に、周りのギルド職員も一斉に動き出し、資料の確認に奔走した。
先程報告を上げた女性職員はそんな周りの様子を尻目に「ああ、コレは今日は家に帰れないかもなぁ……」と遠い目になりながら呟き―――そして、先程見た『登録名』について考えだした。
(『ダブル・バニッシュメント』……『2つの追放』……?
一体どういう意味だろ……?
あ、『追放』といえば―――)
女性職員はつい最近、とある有名パーティで『追放劇』があったことを思い出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 『ギルド本部』一階 酒場兼受付場 》
「なんか『ギルド本部』が騒がしいと思ったらさー、どうも私達以外のパーティが『超上級ダンジョン』攻略しちゃったみたいよー」
「………へぇ」
小人族の女【補助係】からの報告に、【勇者】は眉をピクリと動かした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 アルヴァー大陸西側・魔族領 魔王城 》
「ああん!?
俺達が狙ってたあの『宮殿』が攻略されただぁ!?」
「う……うん………
あの魔力の感じ……間違いない……
攻略したのは……えっと……『だぶる・ばにっしゅめんと』だって……」
「『勇者パーティ』ではない……?
まさか、奴らに匹敵する実力を持つ者が現れたとでも言うのか……!」
黒い鱗に覆われた蜥蜴人、涙声の植物人、巨漢のミノタウロスの声が魔王城・謁見の間にて響き―――
「………………………………」
玉座に腰を掛ける『魔王』は、紅く光る瞳を揺らしながら沈黙し続けるのだった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そんな周りの状況のことなどつゆ知らず―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 愚者の宮殿 周辺部 》
「へえー!
ステラって19歳だったんだ!
意外……なのかなぁ?」
「なんだその妙な反応は……」
「いやぁ……考えてみれば僕、魔族の寿命とか年齢感覚とかよく分かってないから、どう反応するべきか分からないというか……」
「魔族の寿命は種族によって様々だが、基本的には人間より長命だな。
ケンタウロス族の寿命は150歳前後といった所だな」
「ふーん、人間の1.5倍から2倍くらいかぁ。
僕は16歳だけど、人間の年齢で換算してみると僕よりちょっと若いぐらい……?
んー、でも微々たる違いかなぁ……」
と、当の2人は呑気な会話に興じていた―――




